末期がん患者では、健常者と比較して脳梗塞の発症率が約2倍高くなることが知られています。これは、がん細胞が放出する組織因子やムチンなどの物質により血液の凝固能が亢進するためです。
参考)がんの合併症で脳梗塞に?知っておきたい「トルソー症候群(がん…
がん患者における血栓症の発症には「血流のうっ滞」「血管内皮障害」「血液凝固能亢進」というVirchowの3徴が関与しています。長期臥床、腫瘍による血管圧排、手術、中心静脈カテーテル留置、化学療法薬の使用、感染症など、がん治療に伴う様々な因子が複合的に作用することで、血栓形成のリスクが著明に上昇します。
参考)がん治療中に合併する血栓塞栓症
特に重要なのは、がん患者では血小板、白血球、血管内皮細胞など様々な細胞が関与した複合的なメカニズムにより血液凝固能が亢進していることです。このため、一般的な脳梗塞とは異なる病態を示すことが多く、治療に対する反応性も異なります。
がんが原因で脳梗塞を発症する病態を「トルソー症候群」と呼びます。この症候群では、悪性腫瘍による凝固能亢進が基盤にあることが重要な特徴です。
参考)がんになったら血栓による脳卒中に注意!脳卒中を回避し余命をも…
診断には、D-dimer値の上昇、BNP検査による心機能評価、他の脳梗塞原因の除外が必要です。D-dimer値は血管内の血栓形成の程度を示す指標であり、値が高いほど血栓症のリスクが高いことを意味します。
参考)がん治療中の脳卒中に注意——意外と多い“トルソー症候群”の最…
トルソー症候群の特徴として、複数の血管領域に多発する梗塞巣がみられることが挙げられます。また、通常の脳梗塞とは異なり、約50%が潜因性脳卒中に分類され、がんの活動性と過凝固状態との関連が強く示唆されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/scs/49/3/49_220/_pdf
末期がん患者の脳梗塞治療では、抗凝固療法が主体となります。通常の脳梗塞で用いられる抗血小板療法ではなく、抗凝固薬による治療が推奨されています。
参考)【特集記事】がん患者の脳梗塞の4分の1を占めるトルソー症候群…
治療薬として、従来はワルファリンが使用されてきましたが、がん患者では効果が不十分とされ、ヘパリンの長期投与が推奨されています。低分子ヘパリンは未分画ヘパリンよりも出血リスクが低く、効果的とされていますが、日本では慢性期の静脈血栓塞栓症予防に対する保険適用がない問題があります。
血栓回収療法については、がん患者では機能予後の改善が期待されるものの、治療成績は芳しくない報告が多く、慎重な適応判断が必要です。AHAガイドラインでは、6カ月以上の生存が見込まれる場合にrt-PA静注療法が推奨されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstroke/advpub/0/advpub_10968/_pdf
末期がん患者の予後を予測する因子として、いくつかの重要な指標が研究により明らかになっています。特に予後3カ月以内の進行がん患者では、Performance Status(PS)、安静時呼吸困難、せん妄、浮腫、白血球数、リンパ球数が予後予測因子とされています。
参考)終末期がん患者の予後ががん治療医の予後予測よりも短い要因につ…
実際の臨床データでは、Japan Coma Scale II以上の意識障害や経口摂取量が数口以下の状態を呈する患者では、予測よりも生存期間が短くなる傾向があります。また、2日以内で死に至る急な容態変化による死亡の頻度も高いことが報告されています。
血液検査では、neutrophil-lymphocyte ratio(NLR)が終末期がん患者の短期予後を予測する独立した因子として注目されています。緩和ケア病棟の患者の80%以上でGPS(Glasgow Prognostic Score)が2となり、悪液質状態を反映していることも重要な所見です。
参考)https://igakkai.kms-igakkai.com/wp/wp-content/uploads/2024/KMJ-J202450005.pdf
末期がん患者では、痛み以外にも様々な症状が出現し、包括的な症状管理が必要です。主な症状として、悪心・嘔吐、呼吸苦、倦怠感、食欲不振、浮腫などがあり、これらは相互に関連し合って患者のQOL(Quality of Life)に大きな影響を与えます。
参考)末期がんの療養生活 href="https://fujicl.or.jp/terminal-cancer-non-pain-symptom-relief/" target="_blank">https://fujicl.or.jp/terminal-cancer-non-pain-symptom-relief/amp;#8211; 痛み以外の症状緩和の基本…
緩和ケアでは、身体的ケア、心理的ケア、社会的ケア、スピリチュアルケアの4つの視点から全人的なアプローチが重要です。身体症状の管理には、適切な薬物療法に加えて、安楽な体位の調整、環境整備、清潔ケア、マッサージなどの非薬物療法も効果的です。
参考)終末期の看護・看護計画
終末期には週単位で身体機能の変化が現れます。約2週間前にはせん妄症状が現れることがあり、約1週間前には身体機能の全般的な低下により長時間の睡眠状態となることが多く、コミュニケーションが困難になる傾向があります。
参考)がん終末期の経過・余命1ヶ月の症状や身体機能の低下の具体例と…