カルシトニン製剤 一覧と骨粗鬆症治療薬

カルシトニン製剤の種類や特徴、作用機序、適応症について詳しく解説します。骨粗鬆症治療における位置づけや、エルカトニンやサケカルシトニンなどの主要製剤の違いは何でしょうか?

カルシトニン製剤 一覧と特徴

カルシトニン製剤の基本情報
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種類

主にエルカトニンとサケカルシトニンの2種類があります

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作用機序

破骨細胞の活性抑制による骨吸収抑制と鎮痛作用

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投与形態

主に筋肉内注射または皮下注射の形で投与

カルシトニン製剤は、骨粗鬆症治療の重要な選択肢の一つとして位置づけられています。これらの製剤は、骨吸収を抑制し、カルシウム代謝を調節する作用を持ち、特に骨粗鬆症に伴う疼痛管理において有効性が認められています。医療現場では、骨粗鬆症患者の症状緩和や骨折予防を目的として広く使用されています。

 

カルシトニン製剤の種類と適応症

日本で使用されているカルシトニン製剤は主に以下の2種類があります。

  1. エルカトニン(Elcatonin)
    • 合成カルシトニン誘導体
    • 商品名:エルシトニン、ラスカルトン
    • 規格:筋注10単位、20単位、40単位
    • 適応症:骨粗鬆症における疼痛
  2. サケカルシトニン(Salmon calcitonin)
    • 天然由来成分を基にした合成カルシトニン
    • 商品名:カルシトラン、ミアカルシック(米国)
    • 分子式:C145H240N44O48S2
    • 分子量:3431.86
    • 適応症:骨粗鬆症、高カルシウム血症、骨ページェット病

カルシトニン製剤は、ATCコード分類では「H05BA(カルシトニン製剤)」に分類され、エルカトニンはH05BA04、サケカルシトニンはH05BA01のコードが付与されています。日本薬局方にも収載されており、医療用医薬品として処方されています。

 

特に骨粗鬆症患者において、骨密度の改善や椎体骨折の予防効果が認められており、エビデンスレベルは「B」と評価されています。疼痛緩和効果が比較的速やかに得られることが特徴で、急性期の痛みに対する対症療法としても有用です。

 

カルシトニン製剤の作用機序と効能効果

カルシトニン製剤は、体内で以下のような重要な作用を発揮します。
主要な作用機序:

  • 破骨細胞の活性抑制による骨吸収抑制作用
  • カルシウム代謝調節作用
  • 中枢・末梢での抗侵害受容作用(鎮痛作用)

カルシトニン製剤は特異的なG蛋白質共役受容体であるカルシトニン受容体(CALCR)に結合することで作用します。このCACLRはセクレチン受容体ファミリーに属し、特に破骨細胞に多く発現しています。

 

生体内での主な経路として、「神経刺激性リガンドとレセプターの相互作用(hsa04080)」と「破骨細胞の分化(hsa04380)」という二つの重要なシグナル伝達経路に関与しています。

 

効能効果としては、以下のような臨床効果が確認されています。

  • 骨粗鬆症における疼痛緩和(主要適応症)
  • 骨密度の増加(効果はB評価)
  • 椎体骨折の発生抑制(効果はB評価)
  • 非椎体骨折の発生抑制(効果はC評価)
  • 大腿骨近位部骨折の発生抑制(効果はC評価)

興味深いのは、カモノハシやオポッサムなどの哺乳類では、カルシトニンが特に強力な生物活性を持つことが研究で明らかになっています。この知見は松本歯科大学の山下照仁らの研究によって報告されています。

 

松本歯科大学の研究:カモノハシやオポッサムのカルシトニンに関する最新論文

カルシトニン製剤の投与方法と用量用法

カルシトニン製剤は主に注射剤として使用され、その投与方法と標準的な用量は以下のとおりです。
エルカトニンの標準的投与法:

投与経路 投与量 投与頻度
筋肉内注射 20単位 週1回
皮下注射 20単位 週1回
点滴静注 40単位 1日2回(重症例)

骨粗鬆症における疼痛管理では、一般的に20エルカトニン単位を週1回筋肉内注射する方法が最も広く採用されています。重症例や急性期の疼痛に対しては、より高用量または頻度での投与が検討されることもあります。

 

薬物動態学的特性として、筋肉内注射後約23分(21.7〜23.3分)で血中濃度がピークに達し、その後36分程度(35.4〜41.7分)の半減期で減少することが臨床データで確認されています。このため、効果の発現は比較的速やかですが、持続時間には限りがあります。

 

投与時の注意点として、注射部位は左右交互に変更し、神経走行部位を避けることが重要です。また、投与前にはアレルギー歴の確認を行い、投与中・投与後は定期的なバイタルサインの測定と15分以上の経過観察が推奨されています。

 

カルシトニン製剤の副作用と注意点

カルシトニン製剤を使用する際には、以下の副作用や注意点を考慮する必要があります。
主な副作用(頻度別):
0.1〜5%未満の頻度で発現する副作用:

  • 過敏症:発疹
  • 循環器系:顔面潮紅、熱感、胸部圧迫感、動悸
  • 消化器系:悪心、嘔吐、食欲不振
  • 神経系:めまい、ふらつき
  • 肝臓系:AST・ALTの上昇
  • 電解質代謝:低ナトリウム血症、低リン血症
  • 注射部位:疼痛

0.1%未満の頻度で発現する副作用:

  • 過敏症:蕁麻疹
  • 循環器系:血圧上昇
  • 消化器系:腹痛、下痢、口渇
  • 神経系:頭痛、耳鳴、視覚異常
  • 注射部位:発赤、腫脹

頻度不明だが報告されている副作用:

  • 循環器系:血圧低下
  • 神経系:しびれ感、口内しびれ感
  • その他:発汗、赤血球減少、ヘモグロビン減少、BUN上昇など

禁忌・注意が必要な状況:

  1. ビスホスホネート系製剤との併用:両剤のカルシウム低下作用が増強され、高度の低カルシウム血症を引き起こすリスクがあります。併用する場合は血清カルシウム値の定期的なモニタリングが必須です。
  2. 重篤な腎機能障害を有する患者:薬物の排泄遅延により副作用が強く現れる可能性があります。
  3. 妊婦・授乳婦:安全性が確立されていないため、原則として投与を避けるべきです。
  4. 過敏症の既往歴がある患者:アナフィラキシーなどの重篤な過敏反応のリスクがあります。

2025年3月19日付のエルカトニン筋注10単位「TBP」の添付文書更新では、これらの副作用情報が詳細に記載されており、最新の安全性情報に基づいた使用が推奨されています。

 

カルシトニン製剤と他の骨粗鬆症治療薬の比較

骨粗鬆症の治療薬は大きく分けて「骨吸収抑制薬」、「骨形成促進薬」、「カルシウム製剤」に分類されます。その中でカルシトニン製剤は骨吸収抑制薬に位置づけられています。以下に各治療薬とカルシトニン製剤の比較を示します。
骨吸収抑制薬の分類と特徴:

薬剤分類 代表的製剤 骨密度改善効果 椎体骨折抑制効果 非椎体骨折抑制効果 特徴
カルシトニン製剤 エルカトニン、サケカルシトニン B B C 鎮痛作用が強い、注射剤中心
ビスホスホネート製剤 アレンドロン酸、リセドロン酸 A A A 強力な骨吸収抑制、経口剤あり
SERM ラロキシフェン、バゼドキシフェン B B B 閉経後女性に適応、経口剤
抗RANKL抗体 デノスマブ A A A 6ヶ月に1回皮下注射

カルシトニン製剤の価格比較:

製品名 規格 薬価 製造会社
エルシトニン注10単位 10単位1mL 119円/管 旭化成ファーマ
エルシトニン注20S 20単位1mL 166円/管 旭化成ファーマ
エルシトニン注40単位 40単位1mL 405円/管 旭化成ファーマ
エルカトニン筋注10単位「TBP」 10単位1mL 63円/管 東菱薬品工業
エルカトニン筋注20単位「TBP」 20単位1mL 89円/管 東菱薬品工業

カルシトニン製剤の最大の特徴は、他の骨粗鬆症治療薬と比較して鎮痛効果が強いことです。このため、「骨粗鬆症における疼痛」に対する治療として特に有用とされています。一方で、骨密度の改善効果や骨折抑制効果はビスホスホネート製剤や抗RANKL抗体と比較するとやや劣るため、これらの薬剤と併用されることも多くあります。

 

骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版では、QOL改善に寄与する疼痛改善効果の観点からカルシトニン製剤が有効と評価されています。しかし、長期的な骨折予防を主目的とする場合は、より強力な骨吸収抑制効果を持つビスホスホネート製剤や抗RANKL抗体が第一選択となることが多いのが現状です。

 

特筆すべき点として、カルシトニン製剤は比較的速やかな効果発現と安全性の高さから、高齢者や他の治療薬に不耐性のある患者にも使用されやすいという特性があります。また、注射剤という特性上、服薬コンプライアンスに問題のある患者でも確実な投与が可能という利点もあります。

 

ただし、近年はより効果の高い治療薬の開発が進み、カルシトニン製剤の処方は相対的に減少傾向にあります。それでも、骨粗鬆症に伴う急性疼痛の緩和や、他の治療薬との併用療法においては依然として重要な位置を占めています。

 

骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版 - 日本骨粗鬆症学会