イサツキシマブ投与後に間接クームス試験が約6ヵ月間偽陽性になり、輸血適合性判定を誤ると患者が重篤な転帰を招く恐れがあります。
イサツキシマブ(販売名:サークリサ点滴静注)は、サノフィ株式会社が製造販売する抗CD38モノクローナル抗体です。 効能・効果は「多発性骨髄腫」であり、承認時から段階的に適応が拡大されてきました。 添付文書は2025年2月20日改訂(第4版)が最新版です。これが原則です。kegg+1
多発性骨髄腫は形質細胞が骨髄内で異常増殖する血液がんで、日本における年間新規患者数は約7,000例とされています。イサツキシマブはこのCD38陽性の骨髄腫細胞に直接結合し、ADCC(抗体依存性細胞傷害)・ADCP(抗体依存性細胞貪食)・CDC(補体依存性細胞傷害)・アポトーシス誘導という4つのメカニズムで腫瘍細胞を攻撃します。 複合的な作用機序が特徴ですね。
参考)医療用医薬品 : サークリサ (サークリサ点滴静注100mg…
また、適応患者の選択に際しては、添付文書「17. 臨床成績」の内容を熟知したうえで行うことが求められます。 再発または難治性の多発性骨髄腫患者にデキサメタゾン単独または本剤単独で投与する場合は、特に慎重な適応検討が必要です。つまり、安易な単独投与には注意が必要です。
参考)https://hokuto.app/medicine/pQjzolvyaLX1OYQvWs4G
参考:PMDAによるサークリサの医薬品情報ページ(添付文書PDF・審査報告書へのアクセス)
PMDA 医療用医薬品情報 サークリサ点滴静注 – 医療関係者向け
用法・用量は、他の抗悪性腫瘍剤との併用では1回10mg/kgを、A法またはB法の投与間隔で点滴静注します。 デキサメタゾン単独との併用または本剤単独投与(再発・難治性に限る)の場合は1回20mg/kgとなり、投与量が2倍になる点に注意が必要です。これは見逃しやすいポイントです。
| 投与法 | 用量 | 投与間隔(A法) | 投与間隔(B法) |
|---|---|---|---|
| 他の抗悪性腫瘍剤との併用 | 10mg/kg | 1週→2週 | 1週→2週→4週 |
| Dex単独併用または単独投与(再発・難治性) | 20mg/kg | 1週→2週 | − |
初回投与時は25mL/時からスタートし、Infusion reactionが認められなければ30分ごとに25mL/時ずつ最大150mL/時まで速度を上げることができます。 2回目以降は段階的に速度を引き上げられ、3回目投与以降は最大200mL/時まで可能です。ただし、投与速度は200mL/時を超えないことが条件です。
希釈は250mLの生理食塩液または5%ブドウ糖液を使用します。20mg/kg投与時は250mL×2バッグが必要になるため、事前の準備が重要です。 点滴バッグはポリオレフィン製・DEHP含有ポリ塩化ビニル製・エチレン酢酸ビニル製のいずれかを使用してください。これは必須です。
Infusion reactionは35.4%という高頻度で発現し、添付文書が指定する最も重要な重大副作用の1つです。 アナフィラキシー・呼吸困難・悪寒・気管支痙攣・高血圧・嘔吐などの症状が初回投与時に多く認められますが、2回目以降にも起こりえます。初回投与だけ気をつければいい、とは言えません。
参考)イサツキシマブ(遺伝子組換え)(サークリサⓇ)では、どのよう…
Infusion reaction発現時の対応は、Grade別に異なります。
前投薬として、本剤投与開始15〜60分前にデキサメタゾン・抗ヒスタミン剤・H2受容体拮抗剤・解熱鎮痛剤の4剤投与が義務付けられています。 前投薬の省略・遅延は許されません。これが原則です。
骨髄抑制も見逃せない副作用で、好中球減少症が21.3%・血小板減少症が8.0%・発熱性好中球減少症が2.9%と報告されています。 Grade 3またはGrade 4の好中球減少が発現した場合は、好中球数が1000/mm³以上に回復するまで休薬が必要です。好中球数1000/mm³というのは、感染リスクが急激に高まる水準ですね。
参考:サノフィ公式の医療関係者向けサークリサ製品情報ページ(添付文書・安全性情報)
サークリサ 多発性骨髄腫 製品情報 – サノフィ e-MR(医療関係者向け)
イサツキシマブが赤血球上のCD38と結合することで、間接クームス試験の結果が偽陽性になります。 この干渉は本剤最終投与から約6ヵ月間持続します。厳しいところですね。
輸血が予定されている患者では、投与前に不規則抗体スクリーニングを含む輸血前検査を済ませ、輸血検査部門に干渉の事実を周知することが求められます。 投与前に検査を完了させておくのが基本です。
干渉回避のためにジチオスレイトール(DTT)処理が有効ですが、Kell血液型抗原はDTT処理で変性するため、Kell抗体の評価が不能になるという新たな問題が生じます。 つまりDTT処理は万能ではないということです。輸血検査部門向けのRMP資材がPMDAから提供されており、施設内で活用するとよいでしょう。info.pmda+1
さらに、本剤はIgGκ型モノクローナル抗体であるため、血清蛋白電気泳動法・血清免疫固定法の結果にも干渉します。 IgGκ型多発性骨髄腫患者では完全奏効(CR)の評価やCRからの再発判定に影響が出る可能性があるため、担当医・臨床検査技師間の連携が不可欠です。検査値の解釈に注意すれば問題ありません。
あまり注目されていない重要な情報として、臨床試験において皮膚有棘細胞癌・乳房血管肉腫・骨髄異形成症候群(MDS)などの二次性悪性腫瘍の発現報告があります。 抗腫瘍薬でありながら、新たな腫瘍リスクを伴うという逆説的な事実は、患者説明と長期フォローアップの視点から重要です。意外ですね。
抗イサツキシマブ抗体が産生されると、血漿中濃度が低下する傾向が報告されています。未治療の多発性骨髄腫患者を対象とした第3相試験では、9.1%(25/275例)に抗体産生が認められました。 抗体陽性例では治療効果が減弱するリスクがあるため、効果減弱の兆候を早期にキャッチすることが臨床上重要です。これは見落としやすい視点です。
保管は2〜8℃での冷蔵保存が必要で、外箱開封後は遮光が必須です。 希釈後の液は冷蔵(2〜8℃)で48時間以内、室温では8時間以内(点滴時間を含む)に使用しなければなりません。保管・調製管理は薬剤師と看護師の連携が条件です。
参考:HOKUTOによるサークリサ点滴静注500mgの薬剤情報ページ(用法用量・副作用・薬価を一覧確認可能)
サークリサ点滴静注500mgの効果・効能・副作用 | 薬剤情報 – HOKUTO