反跳痛は、腹部を圧迫した後に急に圧迫を取り除いたときに感じる疼痛のことで、ブルンベルグ徴候(Blumberg's sign)とも呼ばれます。この症状は、壁側腹膜の炎症性刺激によって起こると考えられ、筋性防御とともに重要な腹膜刺激症状として位置づけられています。
腹膜に炎症があると起こる腹膜刺激症状の一つで、反動痛とも呼ばれるこの所見は、腹膜炎の際に特に顕著に現れます。名称は、この徴候を報告したドイツ人の外科医であるヤーコプ・モーリッツ・ブルムベルク(Jacob Moritz Blumberg)に由来しています。
医療従事者にとって反跳痛の正確な診断技術は必須のスキルです。なぜなら、この所見の有無によって緊急性のある腹痛と通常の腹痛を明確に判別できるからです。
反跳痛の診断は、4本の指を揃えるようにして、患者の腹壁にゆっくりと垂直に押し込み、押し込んだその手を急激に離すという方法で確認します。この際、押し込んだときと押し込んだ手を急激に離したときのどちらが痛いかを患者に確認することが重要です。
診断のポイントは以下の通りです。
触診の順序も重要で、疼痛部位を最後にし、はじめは弱く、次第に強く圧迫するようにします。また、左右を比較することで筋性防御・筋硬直の有無を正確に評価できます。
興味深いことに、反跳痛と呼ばれる診察方法は不要な痛みを惹起するため、軽い打診での患者の反応を見る方法(percussion tenderness、あるいはtapping pain)を行うとよいとする報告もあります。
反跳痛が陽性となる腹膜炎は、無菌の腹腔内に何らかの原因によって細菌感染が生じたり、出血・外傷・穿孔などによる化学的刺激などが加わったりすることで生じます。
腹膜炎の主な原因として以下が挙げられます。
腹膜炎の患者は、動いたり、ちょっとした衝撃を受けたりするだけで痛みが増悪するため、じっと痛みをがまんして動かないことが多いのが特徴です。歩いているだけで響く痛みがある場合は、腹膜炎という炎症がお腹の中で起きている可能性が高くなります。
急性虫垂炎は反跳痛が最も典型的に現れる疾患の一つです。右下腹部を押すと痛みがあり、さらにその部位を押して急に離した時に痛みが強まる反跳痛が特徴的な症状として現れます。
急性虫垂炎の診断における反跳痛の意義。
急性膵炎では、上腹部(心窩部)の痛みが特徴的で、この部位での反跳痛は膵炎が腹膜にまで炎症を及ぼしている重篤な状態を示唆します。
胆嚢炎においても、右上腹部での反跳痛が認められる場合があり、特に30歳未満の女性の右上腹部痛では、Fitz-Hugh-Curtis症候群も鑑別に含める必要があります。
高齢者では自覚症状や腹部所見が乏しいこともあるため、反跳痛の評価には特に注意が必要です。症状が軽くても病状自体は悪化する上に、急性疾患は炎症が比較的早く進むため、発見が遅れると重症になる可能性があります。
反跳痛の発生機序については、従来の腹膜刺激による説明だけでなく、神経学的な観点からも研究が進んでいます。興味深いことに、神経ブロック後に生じる反跳痛の機序解明に関する研究も行われており、フラビン蛋白蛍光イメージング法を用いた研究が報告されています。
この神経学的アプローチは、反跳痛の発生機序をより詳細に理解することで、診断精度の向上や新たな診断法の開発につながる可能性があります。特に、痛みの程度や痛がり方には個人差があるため7、客観的な評価方法の開発は臨床的に重要な意義を持ちます。
壁側腹膜に炎症が及ぶために生じる腹膜刺激症状としての反跳痛は、圧迫時よりも圧迫解除時により強い疼痛を感じるという特異的な特徴を持っています。この現象は、腹膜の神経支配と炎症による感覚変化を反映したものと考えられています。
臨床現場では、反跳痛の評価において「患者が飛び上がるような痛み」「声が出るような痛み」といった強い反応に注目することが重要とされており7、単純な有無の判定ではなく、反応の強さも含めた総合的な評価が求められています。
反跳痛の診断技術は、医療従事者にとって習得すべき基本的なフィジカルアセスメント技術の一つです。正確な診断により、緊急性の高い腹膜炎を早期に発見し、適切な治療につなげることができるため、患者の生命予後に直接関わる重要なスキルといえるでしょう。