急性虫垂炎は、大腸の始まりの部分から突出している盲端の管状組織である虫垂に炎症が生じる疾患です。一般的に「盲腸」と呼ばれることが多いですが、医学的には虫垂に炎症が起きている状態を指します。虫垂は大腸の始まりの部分から突出し盲端となる腸管の一部で、通常右下腹部に位置しています。
虫垂炎の発症メカニズムとしては、様々な要因により虫垂の内腔が閉塞されることが主な原因です。閉塞の原因としては以下が考えられます。
虫垂の内腔が閉塞されると、粘液の排出が妨げられ、内圧が上昇します。これにより血流が阻害され、組織の虚血状態を引き起こします。同時に、虫垂内で細菌が増殖し、炎症が生じた病態を指します。炎症が進むと、虫垂壁に浮腫や壊死が生じ、最終的には穿孔(破裂)を起こす可能性があります。
年齢別の発症リスクについては、虫垂炎は年長児ほど発生しやすく、5歳以下は少ないとされています。とくに2歳以下のお子さんに発症することは極めて稀です。一方で、年長児から若年成人にかけて発症率が高くなる傾向があります。
病態の進行については、通常以下のステージに分類されます。
小児の虫垂炎は特に注意が必要です。小児の虫垂炎は大人と比べて訴えが不確実で診断が遅れがちです。また、虫垂の壁が薄いため穿孔(破裂しやすく)、容易に腹膜炎を併発します。
急性虫垂炎の病態を正確に理解することは、適切な治療方針の決定に不可欠です。特に、炎症の程度や穿孔の有無によって、選択すべき治療アプローチが大きく異なってきます。
急性虫垂炎の症状は進行段階によって異なり、典型的な経過をたどることが多いですが、非典型的な症状を呈する場合もあります。医療従事者として、以下の症状に注意することが重要です。
【主な症状】
そのまま放っておいて炎症が進むと、お腹が突っ張って歩き方にも影響が出てくることがあります。
【診断方法】
急性虫垂炎の診断は、以下の方法を組み合わせて行われます。
診断精度を高めるためのスコアリングシステムも開発されています。
鑑別診断としては、以下の疾患を考慮する必要があります。
診断の難しさは患者の年齢や状態によって異なります。特に小児、高齢者、妊婦、免疫不全患者では非典型的な症状を呈することが多く、診断が難しいことがあります。虫垂炎を早期に正確に診断することで、不要な手術を避けるとともに、穿孔のリスクを最小限に抑えることができます。
急性虫垂炎の治療アプローチは過去数十年で大きく変化してきました。従来は「急性虫垂炎=手術」という考え方が主流でしたが、現在では炎症の程度や患者の状態に応じて、内科的治療(抗菌薬治療)を第一選択とするケースも増えています。
【内科的治療の適応】
内科的治療(抗菌薬療法)が考慮される主な症例は以下の通りです。