急性虫垂炎(盲腸)の症状と治療方法の最新知見について

急性虫垂炎(盲腸)の最新の治療アプローチと症状の見分け方について医療従事者向けに解説します。内科的治療と外科的治療、どちらが患者さんにとって最適な選択になるでしょうか?

急性虫垂炎(盲腸)の症状と治療方法

急性虫垂炎(盲腸)の基本情報
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発症メカニズム

虫垂内での細菌増殖による炎症が主な原因

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主な症状

腹痛、発熱、食欲低下、嘔吐、下痢など

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治療アプローチ

内科的治療(抗菌薬)と外科的治療(虫垂切除)

急性虫垂炎の定義と病態メカニズム

急性虫垂炎は、大腸の始まりの部分から突出している盲端の管状組織である虫垂に炎症が生じる疾患です。一般的に「盲腸」と呼ばれることが多いですが、医学的には虫垂に炎症が起きている状態を指します。虫垂は大腸の始まりの部分から突出し盲端となる腸管の一部で、通常右下腹部に位置しています。

 

虫垂炎の発症メカニズムとしては、様々な要因により虫垂の内腔が閉塞されることが主な原因です。閉塞の原因としては以下が考えられます。

  • 糞石(便が固まったもの)
  • リンパ組織の腫大
  • 寄生虫
  • 腫瘍
  • 異物

虫垂の内腔が閉塞されると、粘液の排出が妨げられ、内圧が上昇します。これにより血流が阻害され、組織の虚血状態を引き起こします。同時に、虫垂内で細菌が増殖し、炎症が生じた病態を指します。炎症が進むと、虫垂壁に浮腫や壊死が生じ、最終的には穿孔(破裂)を起こす可能性があります。

 

年齢別の発症リスクについては、虫垂炎は年長児ほど発生しやすく、5歳以下は少ないとされています。とくに2歳以下のお子さんに発症することは極めて稀です。一方で、年長児から若年成人にかけて発症率が高くなる傾向があります。

 

病態の進行については、通常以下のステージに分類されます。

  1. カタル性虫垂炎:初期段階で、軽度の炎症が粘膜に限局している状態
  2. 蜂窩織炎性虫垂炎:炎症が虫垂全層に及び、白血球浸潤が見られる状態
  3. 壊疽性虫垂炎:虫垂の一部に壊死が生じている状態
  4. 穿孔性虫垂炎:虫垂が破裂し、腹腔内に炎症が波及している状態

小児の虫垂炎は特に注意が必要です。小児の虫垂炎は大人と比べて訴えが不確実で診断が遅れがちです。また、虫垂の壁が薄いため穿孔(破裂しやすく)、容易に腹膜炎を併発します。

 

急性虫垂炎の病態を正確に理解することは、適切な治療方針の決定に不可欠です。特に、炎症の程度や穿孔の有無によって、選択すべき治療アプローチが大きく異なってきます。

 

急性虫垂炎の主な症状と診断方法

急性虫垂炎の症状は進行段階によって異なり、典型的な経過をたどることが多いですが、非典型的な症状を呈する場合もあります。医療従事者として、以下の症状に注意することが重要です。

 

【主な症状】

  • 腹痛:最初はみぞおちや臍周囲(上腹部)に鈍痛として始まり、1日ぐらいで右下腹部に痛みが移動します。これは虫垂炎の典型的な痛みの移動パターンです。
  • 発熱:軽度から中等度の発熱が見られます。
  • 食欲低下:炎症による全身反応として現れます。
  • 悪心・嘔吐:特に小児では多く見られます。
  • 下痢または便秘:どちらも生じる可能性があります。
  • 右下腹部の圧痛:マクバーニー点(臍と右上前腸骨棘を結ぶ線の外1/3の点)での圧痛が特徴的です。
  • 筋性防御:腹壁の緊張が見られ、これは腹膜刺激症状の一つです。
  • ブルンベルグ徴候:右下腹部を圧迫した後、急に手を離すと痛みが増強します。
  • ロブジング徴候:右下腹部を押さえた状態で咳をすると痛みが増強します。

そのまま放っておいて炎症が進むと、お腹が突っ張って歩き方にも影響が出てくることがあります。

 

【診断方法】
急性虫垂炎の診断は、以下の方法を組み合わせて行われます。

  1. 病歴聴取と身体診察
    • 痛みの性質、部位、進行経過の詳細な聴取
    • 上記の腹部所見(圧痛、筋性防御、ブルンベルグ徴候など)の確認
    • 直腸診や婦人科的診察を含む総合的な評価
  2. 血液検査
    • 白血球数増加(特に好中球増多)
    • CRP上昇
    • その他の炎症マーカー
  3. 画像診断
    • 腹部X線検査:糞石の確認や遊離ガス像の検出に役立ちます
    • 腹部超音波検査:非侵襲的で初期評価に有用。虫垂の腫大、壁肥厚、周囲の脂肪織輝度上昇などを確認できます
    • 腹部CT検査:特に成人や診断が難しいケースで高い精度を示します
    • MRI検査:放射線被曝を避けたい妊婦や小児に考慮されることがあります

診断精度を高めるためのスコアリングシステムも開発されています。

  • Alvaradoスコア:症状、身体所見、血液検査結果に基づくスコア(0〜10点)
  • Pediatric Appendicitis Score(PAS):小児用に調整されたスコアリング
  • RIPASA score:アジア人口向けに開発されたスコアリングシステム

鑑別診断としては、以下の疾患を考慮する必要があります。

診断の難しさは患者の年齢や状態によって異なります。特に小児、高齢者、妊婦、免疫不全患者では非典型的な症状を呈することが多く、診断が難しいことがあります。虫垂炎を早期に正確に診断することで、不要な手術を避けるとともに、穿孔のリスクを最小限に抑えることができます。

 

急性虫垂炎の内科的治療と適応症例

急性虫垂炎の治療アプローチは過去数十年で大きく変化してきました。従来は「急性虫垂炎=手術」という考え方が主流でしたが、現在では炎症の程度や患者の状態に応じて、内科的治療(抗菌薬治療)を第一選択とするケースも増えています。

 

【内科的治療の適応】
内科的治療(抗菌薬療法)が考慮される主な症例は以下の通りです。

  • 炎症が軽い場合:軽度の虫垂炎に対しては、抗生物質の投与などの薬物療法を行います
  • 手術リスクの高い患者
  • 患者自身が手