「A-DROPスコアが0点でも、実は入院が必要なケースがあります。」
肺炎重症度分類様式1は、日本呼吸器学会が策定した成人市中肺炎診療ガイドラインに基づき、診療報酬上の「肺炎の重症度分類に係る情報」を記録・提出するために整備された書式です。入院料の算定や加算の根拠として機能するため、医療機関にとっては診療報酬請求と直結する重要書類になります。
この書類が注目されるようになった背景には、2018年度診療報酬改定があります。この改定以降、肺炎入院患者の一部について重症度分類の記載が加算要件に明示され、記録の整備が全国の病院で急務となりました。つまり書類そのものの作成が「義務化」の性格を帯びているということです。
様式1の核となるのはA-DROPスコアです。A-DROPはAge(年齢)、Dehydration(BUN値)、Respiration(SpO₂またはPaO₂)、Orientation(意識障害)、Pressure(収縮期血圧)の5項目で構成されており、各項目1点ずつ最大5点満点でスコアリングします。スコアに応じて軽症(0点)・中等症(1〜2点)・重症(3点)・超重症(4〜5点または重篤な合併症)に分類されます。
重要なのは、このスコアが「入院の要否を自動的に決める」ツールではないという点です。あくまでも客観的指標のひとつであり、最終判断は担当医の総合的臨床判断に委ねられています。「スコアが低いから外来でいい」という思い込みは、後述するように臨床上の落とし穴になります。
様式1の記載欄には測定日時・各項目の実測値・合計スコア・重症度分類・担当医署名が含まれます。これらをすべて正確に埋めることが、査定ゼロの請求に直結します。
| A-DROPスコア | 重症度分類 | 推奨治療場所 |
|---|---|---|
| 0点 | 軽症 | 外来治療 |
| 1〜2点 | 中等症 | 入院治療(一般病棟) |
| 3点 | 重症 | 入院治療(一般病棟またはHCU) |
| 4〜5点 | 超重症 | ICU管理を考慮 |
参考:日本呼吸器学会「成人市中肺炎診療ガイドライン2024」に基づく重症度分類の解説は以下で確認できます。
A-DROPスコアを正確に算出するには、各項目の閾値と測定タイミングをきちんと理解する必要があります。ここが曖昧なまま様式1に記入してしまうと、スコアが実態と乖離し、適切な治療場所の判断を誤ることになります。
まずAge(年齢)の項目は、男性70歳以上、女性75歳以上で1点が加算されます。これは単純に見えますが、電子カルテ上の「生年月日」から入院時点の年齢を正確に換算する必要があります。誕生日前後の入院では1歳の誤差が生じることがあり、注意が必要です。
Dehydration(BUN)は、血中尿素窒素が21mg/dL以上で1点です。ポイントは「入院時の初回採血値」を使うことで、補液後の改善値を使ってしまうと実態より低いスコアになります。つまり測定タイミングが結果を左右します。
Respiration(呼吸)はSpO₂90%以下(room airで測定)またはPaO₂60mmHg以下で1点です。SpO₂はパルスオキシメーターで測定しますが、爪や末梢循環の状態によって信頼性が下がることが知られています。疑わしい場合は動脈血ガス分析で確認するのが原則です。
Orientation(意識)はJCS(ジャパン・コーマ・スケール)Ⅱ桁以上、またはGCS(グラスゴー・コーマ・スケール)14点以下で1点です。「なんとなくぼーっとしている」レベルでもJCS I-1相当(見当識あり・刺激なしで開眼)ならば0点ですが、軽度の意識混濁を見落とさないよう注意が必要です。
Pressure(血圧)は収縮期血圧90mmHg未満で1点です。この項目が陽性になる患者はショック状態に近く、超重症扱いとなるケースも少なくありません。来院時のバイタルサインを記録に残しておくことが後の査定対策にもなります。
各項目の測定値は、様式1の実測値欄にそのまま転記することが求められます。「90%以下だったから1点」ではなく、「SpO₂ 87%(room air)」のように数値を明記する習慣をつけましょう。数値が必須です。
様式1の記載不備は診療報酬請求の返戻や減点査定につながります。これは抽象的なリスクではなく、実際に多くの医療機関が経験している現実的な問題です。
最も多い記載ミスのひとつは「測定値の記載漏れ」です。スコアの合計点だけを記入し、各項目の実測値を空欄にしているケースが散見されます。審査支払機関(社保・国保)の審査では、根拠となる実測値がないと加算の正当性が認められず、返戻の対象となります。
次に多いのが「測定日時の不記載」です。入院日と採血日がずれている場合、いつの値を用いたかが不明になります。特に入院後翌日に採血を行った施設では、「入院時重症度」の評価として適切かどうかが問われます。
また「重症度分類の転記ミス」も見逃せません。スコア合計が2点なのに「軽症」と記入してしまう単純ミスが、年間に数百万円規模の返戻原因になった病院も実在します。これは痛いですね。
このようなリスクを防ぐための方法として、様式1の記載チェックリストを作成し、電子カルテのオーダー画面に埋め込む運用が効果的です。具体的には「①採血値の入力日時確認 → ②各項目の実測値入力 → ③スコア合計と重症度の照合 → ④担当医署名」の4ステップをチェックボックス形式で確認する仕組みです。
このような記載管理を徹底することで、返戻率を大幅に低下させた事例が複数報告されています。記録の質は、そのまま請求の質に直結します。
| よくあるミスの種類 | 発生しやすい状況 | 対策 |
|---|---|---|
| 実測値の記載漏れ | 多忙時の記入省略 | チェックリスト運用 |
| 測定日時の不記載 | 入院翌日採血のケース | 採血オーダーと連動させる |
| 重症度分類の転記ミス | スコア計算の手入力時 | 電子計算フォームの導入 |
| 担当医署名の漏れ | 当直引き継ぎ時 | 退院時チェック項目に追加 |
診療報酬審査に関する実務情報は以下の社会保険診療報酬支払基金のページが参考になります。
「A-DROPスコアが0〜1点だから外来管理でいい」という判断は、必ずしも正しくありません。これが、最初に触れた驚きの事実の本質です。
A-DROPスコアは市中肺炎の「標準的な重症度」を評価するツールです。しかし免疫抑制状態の患者、誤嚥性肺炎の患者、あるいは独居高齢者のように在宅環境でのフォローアップが困難な患者には、スコアが低くても入院が強く推奨されます。
具体的に見てみましょう。たとえばA-DROPスコアが1点(BUN軽度上昇のみ)の80歳男性でも、①経口摂取困難 ②独居 ③認知症あり という条件が重なれば、外来フォロー中に急激に悪化するリスクは非常に高まります。これは原則として入院適応です。
また誤嚥性肺炎は、日本呼吸器学会の分類ではA-DROPとは別のフローチャートで評価されることがあります。誤嚥性肺炎患者のうち約30〜40%はA-DROPスコアが2点以下であっても入院中に人工呼吸器管理が必要になったというデータが複数あります。つまりA-DROPだけでは補えない側面が存在します。
医療従事者にとってのメリットは、「スコアに逃げない」意識を持つことです。様式1はあくまで記録ツールであり、スコアが臨床判断の全てを代替するわけではありません。スコアと臨床判断が乖離している場合は、その根拠を診療録に記載することが医師・看護師の双方にとって重要です。
誤嚥性肺炎の重症度評価については、日本老年医学会の「高齢者肺炎診療ガイドライン」も参照することをおすすめします。
様式1の正確な記載と適切な臨床判断を両立させるには、書類管理の仕組みそのものを見直す視点が欠かせません。これは検索上位の記事ではほとんど触れられていない独自の視点です。
多くの病院では、様式1の記載を「退院時サマリーと同時に入力する運用」にしています。しかしこの方法には大きな落とし穴があります。入院から退院まで時間が経過した後に、入院「時」のバイタルや採血値を手入力することになるため、数値の誤転記リスクが高まります。
理想的な運用は「入院当日、初回採血結果確定後30分以内に様式1を記載する」フローです。具体的にはERや病棟の初期評価フォームにA-DROP評価欄を組み込み、採血結果が出た時点で自動的にスコアを計算・表示する電子カルテの設定変更を行います。こうすることで、記載ミスの発生率を大幅に抑制できます。
看護師の役割も見直す価値があります。A-DROP項目のうちSpO₂・血圧・意識レベルは看護師が入院時ケアの一環として測定しています。この測定値を医師の様式1入力に連携させることで、医師の記載負担を減らしつつ精度が上がります。これは使えそうです。
さらに、部署ごとの返戻率や査定率をKPIとして見える化し、月次でモニタリングする体制を整えている病院では、様式1の記載精度が継続的に改善している事例があります。医療事務・看護師・医師が三者連携でチェックする体制が最も効果的とされています。
診療録の整備と医事課の連携強化については、日本病院会の医療の質・安全管理に関する指針も参考になります。