ファイファー症候群は、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)遺伝子の変異によって引き起こされる先天性疾患です。主要な原因遺伝子はFGFR2で、稀にFGFR1の変異も認められます。
FGFR2遺伝子変異の特徴
遺伝形式は常染色体優性遺伝で、親が罹患している場合、子どもは約50%の確率で発症します。しかし、2型と3型では多くが突然変異によって発症するため、家族歴がない場合も珍しくありません。
発症メカニズムは、FGFR遺伝子変異によって線維芽細胞増殖因子受容体の構造異常が生じ、FGFシグナル伝達が持続的に活性化されることです。その結果、骨芽細胞の分化が誘導され、頭蓋縫合が早期に骨化・癒合してしまいます。
ファイファー症候群の初期症状は、出生時または乳児期早期から確認できることが多く、医療従事者にとって早期発見の鍵となります。
頭蓋・顔面の初期症状
頭蓋縫合早期癒合は、通常6歳頃まで続く脳の急速な成長に頭蓋骨が対応できなくなることで、様々な合併症を引き起こします。脳の大きさは生後6ヶ月で2倍、2歳で成人の90%まで成長するため、この時期の頭蓋骨の柔軟性は極めて重要です。
四肢の特徴的症状
これらの症状は個人差が大きく、軽症例では手術後の予後は良好とされています。
ファイファー症候群は臨床症状の重症度により3つの型に分類され、それぞれ異なる治療戦略が必要です。
1型(軽症型)の特徴
2型(重症型)の特徴
3型(重症型)の特徴
重症度の違いは予後に大きく影響し、1型は比較的予後良好である一方、2型・3型は予後不良とされています。予後因子として水頭症、小脳扁桃下垂、脊髄空洞症、環軸椎脱臼、上気道閉塞、喉頭気管奇形などが挙げられます。
ファイファー症候群の診断は、特徴的な身体所見と画像検査、遺伝学的検査を組み合わせて行います。
臨床診断のポイント
画像検査による評価
機能評価
鑑別診断
ファイファー症候群と鑑別すべき疾患として、以下が挙げられます。
遺伝学的検査
ファイファー症候群では、明らかな外表奇形に注意が向きがちですが、生命に関わる潜在的な合併症への注意が必要です。
気道管理の重要性
気管形態異常を伴う場合、気管切開が必要になることがありますが、気管が硬いため気管カニューレの選択が困難で、気道管理に特別な注意が必要です。重度な睡眠時無呼吸がある場合は、経鼻チューブ、気管内挿管、気管切開術を緊急で行う場合があります。
頭蓋内圧亢進症状の早期発見
頭蓋縫合早期癒合により頭蓋内圧が上昇し、以下の症状が現れる可能性があります。
聴覚障害への対応
92%の患者に聴覚障害が合併するため、定期的な聴力検査が必要です。病態として耳小骨形態異常、中耳・内耳の形態異常、外耳道閉鎖などがあり、早期の補聴器装用や人工内耳の検討が必要な場合があります。
脊椎・脊髄合併症
環軸椎脱臼は生命に関わる重篤な合併症で、脊髄圧迫による神経症状や突然死のリスクがあります。また、脊髄空洞症や小脳扁桃下垂も合併することがあり、定期的な画像検査による経過観察が重要です。
多診療科連携の重要性
ファイファー症候群の管理には、形成外科、脳神経外科、眼科、耳鼻咽喉科、歯科口腔外科、遺伝診療科などの多診療科連携が不可欠です。特に指定難病(183番)として認定されているため、適切な医療費助成の申請も含めた包括的な支援が必要です。
治療は複数回の手術を要することが多く、患者・家族への長期的な心理的サポートも重要な要素となります。
難病情報センターのファイファー症候群詳細情報
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4675
神奈川県立こども医療センターの専門的診療情報
https://dbmedj.org/manual/chapter/ch4-18/index.html