アペール症候群はFGFR2遺伝子の変異により発症する先天性疾患で、尖頭合指症(acrocephalosyndactyly)type1に分類されます。本症候群では約5つのFGFR2変異が報告されており、主にIgIIドメインの変異Ser252Trpが2/3、IgIIIドメインの変異Pro253Argが約1/3に認められます。
参考)https://www.nanbyou.or.jp/entry/4678
病態の特徴として、FGFR2は骨細胞の増殖や分化をコントロールする重要な役割を担っており、この遺伝子異常により頭蓋骨の早期癒合と手足の指の骨の癒合が同時に生じます。発症頻度は神奈川県の調査では15万人に1人とされ、日本での年間発症数は約8人程度と推定されています。
参考)https://clila.anamne.com/column/apert_syndrome
興味深いことに、父親の年齢が高いほど変異のリスクが高くなることが知られており、多くの患者は遺伝子の突然変異で発症しています。常染色体優性遺伝の形式をとるため、次世代へ50%の確率で遺伝しますが、家族性に発症する家系の報告は少ないのが特徴です。
クルーゾン症候群もアペール症候群と同様に、主にFGFR2遺伝子(一部FGFR3遺伝子)の変異が原因となります。ただし、変異部位が異なり、FGFR2のIgIIIa/cドメインに集中している点が特徴的です。
参考)https://www.nanbyou.or.jp/entry/4672
フランスの神経外科医Octave Crouzonにより1912年に初めて報告されたこの疾患は、症候群性頭蓋縫合早期癒合症の代表的疾患の一つです。発症頻度は欧米では約6万人に1人と報告されており、日本での年間発症数は20~30人と予想されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5233708/
クルーゾン症候群では、頭蓋縫合の早期癒合により頭蓋骨が小さくなりますが、合指・趾症は伴わないという点がアペール症候群との最大の鑑別点となります。約5%に黒色表皮症を伴う場合があり、こうした症例ではFGFR3遺伝子の変異が同定されることが知られています。
参考)https://dbmedj.org/manual/chapter/ch4-14/index.html
アペール症候群の最も特徴的な症状は、**左右対称性の手や足の指の癒合(合指症・合趾症)**です。この癒合は皮膚のみの癒合ではなく、骨も癒合している骨性癒合の場合があり、全例で認められるのが特徴です。
手の異常として、第2-4指の爪の癒合を伴う合指が認められ、クモ状指の所見を示すことが多いです。足においても同様に指の癒合が観察されます。これらの四肢異常に加えて、肩関節や肘関節の形成不全を伴うことがあり、関節が硬くなり強直することもあります。
参考)https://grj.umin.jp/grj/apert.htm
上腕骨・橈骨の骨異常も報告されており、これらの骨格系の異常により患者の日常生活動作に大きな影響を与える可能性があります。癒合している指を分離する手術が必要となることが多く、複数回にわたる外科的治療が必要となります。
参考)https://www.nanbyou.or.jp/entry/4679
両症候群ともに頭蓋縫合早期癒合による共通の症状を呈しますが、細かな特徴に違いがあります。
共通する頭蓋症状として、短頭(前後径に対して幅が広い)、扁平な後頭部、頭蓋内圧亢進、水頭症などが挙げられます。顔面症状では、眼球突出、眼間開離(目と目の間が広い)、斜視、上顎骨の低形成、不正咬合なども両疾患で共通して認められます。
しかし、アペール症候群ではより重篤な上気道狭窄が生じやすく、生後2-3カ月以内に呼吸障害が発生することがあります。これに対してクルーゾン症候群では、症状の程度がやや軽い傾向があります。
西洋梨様の鼻、耳介奇形、外耳道閉鎖、後鼻孔狭窄といった特徴は両疾患で認められますが、アペール症候群でより顕著に現れることが多いとされています。
参考)https://www.nanbyou.or.jp/entry/4673
アペール症候群とクルーゾン症候群の鑑別において、最も重要なポイントは合指症の有無です。アペール症候群では全例で合指症を認めるのに対し、クルーゾン症候群では合指・趾症は伴いません。
参考)https://www.shouman.jp/disease/details/11_15_039/
診断プロセスでは、特徴的な頭部形態や顔貌、手足の所見により容易に疑うことができます。確定診断には以下の検査が有用です:
興味深い研究として、アペール症候群とクルーゾン症候群の歯列弓の三次元的評価を比較した報告があり、両疾患ともに頭蓋上顎縫合の早期癒合により歯列弓に特徴的な変化を示すことが明らかにされています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9840551/
原因遺伝子の詳細な解析により、症候性頭蓋縫合早期癒合症の包括的な理解が進んでおり、FGFR関連疾患群としての共通点と相違点が明確になってきました。
参考)https://assets.cureus.com/uploads/review_article/pdf/196829/20231213-30909-10jn2ge.pdf
両症候群ともに指定難病として認定されており、重症度分類では視覚障害(良好な眼の矯正視力が0.3未満)や聴覚障害(70dBHL以上の高度難聴)が対象となります。早期診断と適切な治療により、患者のQOL向上が期待できる疾患群です。