エルシトニン 効果と副作用を詳しく解説

エルシトニンは骨粗鬆症における疼痛治療に使用される薬剤です。本記事では医療従事者向けにエルシトニンの作用機序、臨床効果、副作用プロファイルについて最新の知見を交えて解説します。あなたの臨床現場での適切な使用判断に役立てられるでしょうか?

エルシトニンの効果と副作用

エルシトニンの基本情報
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成分と特徴

合成ウナギカルシトニン誘導体(エルカトニン)を有効成分とする注射剤

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主な効能

骨粗鬆症における疼痛に対する鎮痛効果

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投与形態

10単位・20単位・40単位の筋肉内注射製剤

エルシトニンとは?作用機序と適応症

エルシトニンは、合成ウナギカルシトニン誘導体であるエルカトニン(Elcatonin)を有効成分とする注射剤です。カルシトニンは本来、甲状腺C細胞から分泌されるホルモンであり、血中カルシウム濃度の上昇が分泌刺激となります。エルカトニンは、ウナギ鰓後腺から抽出・精製されたカルシトニンのジスルフィド結合(S-S)を、より安定なエチレン結合(C-C)に変換した31個のアミノ酸で構成された合成カルシトニン誘導体です。

 

この構造変更により、エルカトニンは生物学的活性が高く、物理化学的にも生物学的にも安定した特性を持っています。ヒトカルシトニンと比較して効力が強く、カルシウム低下作用の持続時間も長いという特徴があります。

 

適応症としては、「骨粗鬆症における疼痛」が承認されています。日本骨代謝学会の診断基準等を参考に、骨粗鬆症との診断が確立し、疼痛がみられる患者に使用します。

 

エルシトニンの薬効分類としては「合成カルシトニン誘導体製剤」「骨粗鬆症治療剤」に分類され、劇薬・処方箋医薬品に指定されています。

 

エルシトニンの主な効果と骨粗鬆症への鎮痛作用

エルシトニンの主要な臨床効果は、骨粗鬆症における疼痛に対する鎮痛作用です。この鎮痛メカニズムは複数の経路を介して発揮されることが基礎研究で明らかになっています。

 

作用機序と鎮痛効果

エルカトニンは以下のメカニズムを通じて鎮痛効果を発揮します。

  1. 末梢神経における作用
    • 末梢神経の周囲組織に発現するカルシトニン受容体を介して作用
    • 末梢神経のナトリウムチャネル及びセロトニン受容体の発現異常を改善
    • 後根神経節ニューロンにおける電位依存性ナトリウムチャネルの発現異常を正常化
  2. 中枢神経系における作用
    • 中枢のセロトニン神経系を賦活
    • 疼痛抑制系のセロトニン神経系を介した鎮痛機序
  3. 血流改善作用
    • 神経因性疼痛モデル(坐骨神経絞扼ラット)において血流改善作用が確認
    • 血流改善を介した抗侵害受容作用(鎮痛作用)が考えられる

臨床効果のエビデンス

臨床試験においても、エルシトニンの鎮痛効果は実証されています。

  • 骨粗鬆症に伴う疼痛に対する二重盲検比較試験では、プラセボ群の改善率19.3%に対し、エルシトニン投与群では43.6%と有意に高い改善率を示しました
  • 自発痛、運動時痛の評価における有効率は、二重盲検比較試験で67.6%、一般臨床試験では66.3%と高い鎮痛効果が確認されています

また、骨代謝への作用として、破骨細胞に直接作用して骨吸収を抑制し、骨からのカルシウム遊離を減少させ、血清カルシウム濃度を低下させる効果も確認されています。

 

エルシトニンの副作用と注意すべき症状

エルシトニンは多くの患者で比較的安全に使用できますが、様々な副作用が報告されています。副作用は重大なものとその他の副作用に分けられます。

 

重大な副作用

  1. ショック、アナフィラキシー(0.02%)。
    • 症状:血圧低下、気分不良、全身発赤、蕁麻疹、呼吸困難、咽頭浮腫など
    • 対応:症状があらわれた場合には投与を中止し、適切な処置を行う
  2. テタニー(頻度不明)。
    • 低カルシウム血症性テタニーを誘発することがある
    • 対応:症状があらわれた場合には投与を中止し、注射用カルシウム剤の投与など適切な処置を行う
  3. 喘息発作(0.01%)
  4. 肝機能障害、黄疸(頻度不明)。
    • AST上昇、ALT上昇、ALP上昇等を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがある

その他の副作用

副作用の発現頻度によって分類すると以下のようになります。
0.1~5%未満の発現頻度

  • 過敏症:発疹
  • 循環器:顔面潮紅、熱感
  • 消化器:悪心、嘔吐、食欲不振
  • 神経系:めまい、ふらつき
  • 注射部位:疼痛
  • その他:そう痒感

0.1%未満の発現頻度

  • 過敏症:蕁麻疹
  • 循環器:胸部圧迫感、動悸、血圧上昇
  • 消化器:腹痛、下痢、口渇、胸やけ、口内炎、腹部膨満感
  • 神経系:頭痛、耳鳴、視覚異常(かすみ目等)
  • 肝臓:AST、ALTの上昇
  • 注射部位:発赤
  • その他:頻尿、浮腫、咽喉部異和感(咽喉部ハッカ様爽快感等)、発熱、悪寒、脱力感、全身倦怠感

頻度不明

  • 循環器:血圧低下
  • 神経系:しびれ感、口内しびれ感
  • 電解質代謝:低ナトリウム血症、低リン血症
  • 注射部位:腫脹
  • その他:発汗、赤血球減少、ヘモグロビン減少、BUN上昇、ALP上昇、乳房肥大、乳房痛、あくび、尿白濁

健常成人男子を対象とした臨床薬理試験では、エルカトニン40単位投与群の6名中1名で投与4時間後に一過性の軽度な吐き気が認められたのみであり、その他の生理的パラメーターは正常範囲内でした。

 

エルシトニンの用法・用量と投与期間の目安

エルシトニンの製剤には、含有量によって複数の規格が存在し、それぞれに適した用法・用量が設定されています。

 

製剤と用法・用量

  1. エルシトニン注10単位
    • 通常、成人には1回エルカトニンとして10エルカトニン単位を週2回筋肉内注射する
    • 症状により適宜増減可能
  2. エルシトニン注20S/20Sディスポ
    • 通常、成人には1回エルカトニンとして20エルカトニン単位を週1回筋肉内注射する
  3. エルシトニン注40単位
    • 通常、成人には1回エルカトニンとして40エルカトニン単位を週1回筋肉内注射する

投与期間の目安

エルシトニンの投与期間については、6ヵ月間を目安とし、長期にわたり漫然と投与しないことが推奨されています。この推奨は臨床試験の薬剤使用期間が26週間であることに基づいています。

 

薬物動態

健常成人男子を対象とした薬物動態試験では、エルカトニンの単回筋肉内投与後の各パラメータは以下のように報告されています。

投与量 Tmax(分) Cmax(pg/mL) T1/2(分) AUC 0-∞(pg・min/mL)
10単位 23.3±5.2 7.6±2.2 41.7±8.7 632±199
20単位 21.7±4.1 24.8±7.8 35.4±9.8 1841±422
40単位 23.3±5.2 57.8±11.7 36.6±4.1 4640±991

この結果から、最高血中濃度(Cmax)は投与量にほぼ比例して上昇することがわかります。また、最高血中濃度到達時間(Tmax)はいずれの投与量でも約20分後であり、消失半減期(T1/2)は約35-42分です。

 

エルシトニンの特殊な使用例と臨床応用の最新知見

エルシトニンは骨粗鬆症における疼痛が主な適応症ですが、その鎮痛効果や骨代謝に対する作用から、いくつかの特殊な臨床応用例も報告されています。

 

骨粗鬆症以外の疾患への応用

  1. 下顎の慢性硬化性骨髄炎
    • 20歳からSASP(サラゾスルファピリジン)や抗生剤静注でも改善が見られなかった慢性硬化性骨髄炎の症例に対し、エルシトニン40単位を4週間連日筋注したところ、自覚症状と臨床所見の改善が認められた報告があります
    • この事例は、エルシトニンの抗炎症作用や血流改善作用が関与している可能性を示唆しています
  2. 尿路性器癌骨転移症例への使用
    • 尿路性器癌の骨転移による疼痛に対するエルシトニンの鎮痛効果が報告されています
    • 特に前立腺癌症例では88.9%と非常に高い鎮痛効果が認められたとの報告もあります
  3. 乳癌骨転移例への応用
    • 乳癌骨転移例に対するエルシトニンの投与効果についても報告があります
    • 骨転移による骨性疼痛への鎮痛効果が期待できます

セロトニン神経系を介した痛覚抑制メカニズム

エルシトニンの鎮痛効果について、最新の基礎研究では以下のようなメカニズムが解明されつつあります。

  • 卵巣摘除ラットの脊髄において、エルカトニンの反復投与により、セロトニン受容体(5-HT1A受容体)の密度が増加することが確認されています
  • ホルマリン誘発性痛覚過敏や卵巣摘出により惹起された痛覚過敏に対する抗侵害受容作用(鎮痛作用)において、疼痛抑制系のセロトニン神経系を介した機序が明らかになっています

神経因性疼痛モデルにおける効果

Bennett CCI(Chronic Constriction Injury)モデルと呼ばれる坐骨神経絞扼ラット(神経因性疼痛モデル)を用いた研究では。

  • エルカトニン投与4日目より実験終了時まで有意な逃避閾値上昇(鎮痛効果)が認められています
  • 患足の血流量測定では、エルカトニン投与群では投与開始2日目より有意な血流改善作用が認められ、休薬後に減弱し8日目には消失しました
  • さらに、後根神経節ニューロンにおける電位依存性ナトリウムチャネルの発現異常が正常化したことも確認されています

これらの知見は、エルシトニンが単に骨代謝を改善するだけでなく、神経系に直接作用して痛覚過敏を改善する効果を持つことを示唆しています。このような多面的な作用メカニズムは、難治性疼痛を有する様々な疾患への応用可能性を示唆しています。

 

エルシトニンの臨床応用に関する詳細は、日本骨代謝学会のガイドラインなどを参考にすることで、より適切な治療計画を立てることができます。

 

日本骨代謝学会「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」- エルカトニン製剤の治療推奨レベルと臨床応用について詳細な記載があります