ドラッグリポジショニング(Drug Repositioning)とは、既に安全性と薬物動態が確認された既存薬または開発中止薬から新たな薬効を見出し、別の疾患の治療薬として実用化する研究戦略のことです 。この手法は「温故知新創薬」とも呼ばれ、新薬開発の閉塞状況を打破する有力な手段として注目されています 。
参考)https://www.ltt.co.jp/rd/dr/
従来の新薬開発では、基礎研究から市場投入まで10年以上の期間と数百億から数千億円の費用が必要とされ、成功確率はわずか8%程度でした 。一方、ドラッグリポジショニングでは、既に臨床試験でヒトでの安全性が確認されているため、非臨床試験や第Ⅰ相臨床試験の多くを省略でき、開発期間の大幅な短縮と費用削減が可能となります 。
医薬品の「副作用」概念の変化も重要な要因です。現在では「有害事象を含めた本来期待される作用以外に発生する事象」として捉えられ、この予期せぬ作用こそがドラッグリポジショニングの鍵となっています 。
参考)https://rikunabi-yakuzaishi.jp/article/column/repositioning/
📋 古典的成功事例の詳細分析
🏥 現代の革新的事例
サリドマイドは催奇形性問題で一度市場から撤退しましたが、血管新生抑制作用に着目され、多発性骨髄腫治療薬として再評価・承認されました 。この事例は、問題のあった薬剤でも適切な適応症で安全に使用できることを示す重要な例です。
最近では東和薬品とCiRAが、iPS創薬技術を活用した家族性アルツハイマー病治療薬リバスチグミンの開発を進めており、ドラッグリポジショニングの新たな展開を示しています 。
参考)https://answers.ten-navi.com/pharmanews/30310/
🤖 機械学習による創薬革命
現代のドラッグリポジショニングでは、機械学習と人工知能技術が重要な役割を果たしています。遺伝子、タンパク質、化合物、薬物、疾患に関するビッグデータ解析により、新しい医学的発見と新薬開発を効率化できます 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/67/2/67_66/_pdf
大規模言語モデル(LLM)を活用したDrugReAlignフレームワークでは、従来の特定データセット依存の制約を克服し、より広範囲な分子空間での予測精度向上を実現しています 。この技術により、アスピリンの抗血小板凝集特性など、従来発見困難だった薬効を効率的に特定できるようになりました。
🔬 データベース活用研究
医療情報データベースを活用した研究により、実臨床での薬剤使用による有害事象や治療効果データから新たな薬効を発見する手法が確立されています 。この手法は特に希少疾患やアンメットメディカルニーズに対して有効で、症例が少ない疾患でも治療薬開発が可能となります。
NECでは、がん疾患治療効果を高める薬剤組み合わせをAIで提示するシステムを開発し、未知の組み合わせによる新たな治療法の発見を支援しています 。
参考)https://jpn.nec.com/rd/technologies/202503/index.html
🦠 パンデミック対応での活用実績
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療において、ドラッグリポジショニングが重要な役割を果たしました。新規物質を一から開発する時間的余裕がない中、既存薬の効能追加を目指すアプローチが主流となりました 。
参考)https://www.jiu.ac.jp/academic-covid-19/detail/
レムデシビルは元々エボラ出血熱治療薬として開発された抗ウイルス薬で、MERS(中東呼吸器症候群)やSARS-CoV-2に対する抗ウイルス活性が確認され、COVID-19治療薬として緊急承認されました 。
参考)https://www.jpma.or.jp/opir/news/060/01.html
🎯 多様な薬剤での臨床試験展開
アビガン(ファビピラビル)も抗インフルエンザ薬からCOVID-19治療薬候補として臨床試験が実施され、既存薬の迅速な転用可能性を示しました 。また、関節リウマチ治療薬「アクテムラ」や吸入ステロイドなど、多様な既存薬でドラッグリポジショニング研究が展開されました 。
参考)https://www.yakuji.co.jp/entrytag/%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%9D%E3%82%B8%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%82%B0
デキサメタゾン(ステロイド系抗炎症薬)は、COVID-19の2番目の治療薬として位置づけられ、既存薬の迅速な転用成功例となりました 。これらの事例は、感染症拡大時における既存薬活用の重要性を実証しています。
💡 技術革新による発展可能性
iPS細胞技術とドラッグリポジショニングの融合により、従来発見困難だった薬効の特定が可能になっています。京都大学CiRAとの共同研究では、Aβ抑制効果が最も高い既存薬として特定された化合物で家族性アルツハイマー病の企業主導第2/3相試験が開始されました 。
参考)https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=78460
希少疾患分野では、オーファンドラッグ制度を活用したドラッグリポジショニングが特に有効です。症例数が限られる疾患でも、既存薬の安全性データを活用することで効率的な治療薬開発が実現できます 。
参考)https://www.jpma.or.jp/opir/news/pb1snq0000003d88-att/news-35.pdf
⚠️ 克服すべき課題と障壁
日本におけるドラッグリポジショニングの障壁として、新適応症の高い成功確率での特定、臨床試験資金調達、特許保護、承認取得などが挙げられます 。また、既存薬の権利関係や規制面での支援不足により、「ベンチャーキャピタル」企業による悪用のリスクも指摘されています 。
参考)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphar.2017.00729/pdf
医師主導治験の増加により、アカデミア主導の新薬開発機会は拡大していますが、知財戦略と事業計画の観点から戦略的なアプローチが必要です 。今後は産学官連携強化と規制環境整備により、より効率的なドラッグリポジショニング推進が期待されます。
参考)https://note.com/new_life_science/n/n3fbab521a1ee