ドラベ症候群の症状と治療:小児てんかんの診断から予後まで

ドラベ症候群は1歳以内に発症する重篤な小児てんかんで、SCN1A遺伝子変異が原因の85%を占めます。発熱時の間代発作から始まり、多様な発作症状と知的障害を呈する指定難病として、早期診断と適切な治療が重要です。医療従事者として知っておくべき診断のポイントや治療戦略について詳しく解説します。どのような点に注意して診療にあたるべきでしょうか?

ドラベ症候群の症状と治療

ドラベ症候群の基本概要
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遺伝的要因

SCN1A遺伝子変異により85%の症例で発症する希少疾患

発作症状

発熱時の間代発作から始まり、多様なてんかん発作を呈する

🏥
診断・治療

早期診断と専門的治療により予後改善が期待される

ドラベ症候群の発症機序とSCN1A遺伝子変異

ドラベ症候群は、2番染色体の2q24.3領域に位置するSCN1A遺伝子の変異や欠失により引き起こされる重篤な小児てんかん症候群です 。このSCN1A遺伝子は、脳神経細胞の電位依存性ナトリウムチャネルNav1.1のα1サブユニットをコードしており、神経の電気信号の伝達において重要な役割を担っています 。
参考)https://genetics.qlife.jp/diseases/dravet

 

遺伝子変異により、特にGABA作動性ニューロンと呼ばれる抑制性神経細胞の機能が障害され、神経細胞の過剰な電気的興奮が生じることがてんかん発作の原因となります 。興味深いことに、従来は機能喪失型変異が原因とされてきましたが、近年の研究では機能獲得型変異による症例も報告されており、病態の複雑さが明らかになっています 。
参考)https://www.ncnp.go.jp/hospital/partnership/docs/880dec2fc93e2e37b7fde93b1efc66e3420ea14c.pdf

 

🧬 遺伝的背景の特徴

ドラベ症候群の多様な症状と臨床経過

ドラベ症候群の症状は、年齢とともに変化し多彩な発作症状を呈することが特徴的です 。生後1年以内、特に7か月以前に発熱に伴う片側性または全身性の間代発作で発症し、その後様々なタイプのてんかん発作が出現します 。
参考)https://kakehashi-mc.jp/dravet-syndrome/

 

初期は発熱時の発作が中心ですが、1歳を過ぎると非発熱時にも発作が起こるようになり、発作の種類も多様化します 。強直発作、間代発作、ミオクロニー発作、欠神発作、焦点意識減損発作など複数の発作型が混在することが診断の重要な手がかりとなります 。
参考)https://www.nippon-shinyaku.co.jp/healthy/dravet-syndrome/about/

 

年齢別発作パターン


  • 乳児期:発熱時の間代発作、片側性発作が中心

  • 幼児期以降:ミオクロニー発作、非定型欠神発作が加わる

  • 学童期:発作頻度は減少傾向だが完全消失は困難

発作症状以外にも、知的障害、運動失調、言語発達遅延などの神経発達障害を伴います 。さらに、自律神経症状として四肢の冷感、発汗異常、瞳孔散大などが見られることもあり、包括的な管理が必要です 。
参考)https://dravetsyndromejp.org/dravetsyndrome/dravetsyndrome2/

 

ドラベ症候群の診断方法と検査所見

ドラベ症候群の診断は、臨床経過、発作症状、各種検査結果を総合的に判断して行われます 。早期診断のためのスクリーニングテストとして、Hattori らが開発した1歳までの経過評価が有用とされています 。
参考)https://medicaldoc.jp/cyclopedia/disease/d_head/di0991/

 

診断に必要な検査は以下の通りです:
🔬 主要検査項目


  • 遺伝子検査:SCN1A遺伝子変異の確認(保険適用)

  • 脳波検査:背景活動の徐波化、広汎性多棘徐波の検出

  • 脳MRI検査:初期は正常、後に大脳・海馬萎縮を確認

  • 発達評価:運動発達、高次機能の評価

脳波所見では、初期には明らかな異常を認めないことが多いですが、1歳以降に特徴的な所見が出現し、年齢とともに変化します 。MRI検査においても、乳児期は正常所見を示すことが多く、幼児期以降に非特異的な大脳萎縮が観察されるようになります 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000101184.pdf

 

遺伝子検査は確定診断に重要ですが、SCN1A遺伝子変異は他のてんかん症候群でも認められるため、臨床症状との総合判断が必要です 。

ドラベ症候群の治療戦略と最新治療薬

ドラベ症候群の治療は、従来の抗てんかん薬では十分な効果が得られないことが多く、専門的な知識と豊富な経験に基づく治療戦略が必要です 。基本的な治療薬として、バルプロ酸、クロバザム、スチリペントールなどが使用されますが、多剤併用療法が一般的となります 。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2022/P20220925001/820110000_30400AMX00433_G100_1.pdf

 

近年、新たな治療選択肢として注目されているのがフェンフルラミン(セレクトロン®)です。これは5-HT受容体に作用する薬剤で、従来の抗てんかん薬とは異なる作用機序により発作抑制効果を示します 。海外では既に承認されており、国内でも臨床試験が進められています。
参考)https://patents.google.com/patent/JP2016216438A/ja

 

💊 治療薬の特徴と使用法


  • 第一選択薬:バルプロ酸(VPA)+ クロバザム(CLB)

  • 追加療法:スチリペントール(STP)、トピラマート

  • 新規治療:フェンフルラミン、zorevunersenの開発進行中

最も革新的な治療アプローチとして、疾患修飾薬zorevunersenの開発が進められています 。これはアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)技術を用いた治療薬で、ドラベ症候群の根本原因に対処する初の治療薬となる可能性があります。現在、グローバル第III相EMPEROR試験が実施されており、52週間の治療期間を通じてその有効性と安全性が評価されています 。
参考)https://www.biogen.co.jp/news/2025-08-19-news.html

 

ドラベ症候群の予後と長期管理における独自の視点

ドラベ症候群の長期予後は、従来悲観的に捉えられがちでしたが、近年の治療法の進歩により改善の兆しが見えています 。死亡率は約10%と高く、その主因はてんかん重積に伴う急性脳症(36%)、溺水や事故などが挙げられます 。
しかし、興味深い新しい知見として、運動障害に対するレボドパの有効性が三次元歩行解析を用いたランダム化クロスオーバー試験により証明されました 。この研究は、ドラベ症候群の進行性歩行障害という従来見過ごされがちな症状に対する具体的な治療選択肢を提示する画期的なものです。
参考)https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2024/03/post-641.html

 

🏃‍♂️ 革新的な運動機能改善アプローチ


  • 三次元歩行解析による客観的評価の実現

  • レボドパによる歩行改善効果の科学的証明

  • 運動障害の病態解明への新たな手がかり

成人期に達したドラベ症候群患者の長期経過についても、新たな研究成果が報告されています 。従来、小児期の経過に焦点が当てられがちでしたが、成人期における詳細な臨床的・脳波学的検討により、長期にわたる病態変化の全貌が明らかになりつつあります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/joma/123/2/123_2_91/_pdf/-char/ja

 

この分野での医学の進歩により、単なる発作抑制だけでなく、患者の生活の質(QOL)向上を目指した包括的なアプローチが可能になってきています。特に、歩行機能の改善は患者や家族の生活に直接的な恩恵をもたらすため、今後の治療戦略において重要な位置を占めると考えられます。

ドラベ症候群患者の日常生活管理と予防的ケア

ドラベ症候群の管理において、薬物療法と並行して重要なのが日常生活での発作予防と安全対策です 。発熱や体温上昇が主要な発作誘因となるため、体温管理が治療の基本となります。
参考)https://dravetsyndromejp.org/download/DSJ_handbook_2021.pdf

 

具体的な体温管理方法として、こまめな体温測定、適切な衣服調節、夏季のクーリンググッズ使用が推奨されます 。入浴時には浴槽温度を38℃前後に設定し、長湯を避けてシャワー浴にする、冬季は脱衣所を暖めるなどの配慮が必要です 。
🌡️ 体温管理の実践的ポイント


  • 入浴温度:38℃前後、長湯禁止

  • 運動時:霧吹きによる気化熱利用

  • 環境整備:脱衣所の暖房、適切な衣服選択

光感受性による発作誘発も重要な注意点です 。光の点滅や図形・模様の凝視で発作が誘発される場合、専用眼鏡の着用、片目を覆う、テレビ画面や強い日差しへの注意などの対策が有効です 。
参考)https://www.nanbyou.or.jp/entry/4744

 

睡眠障害も頻繁に見られる症状で、成長に伴い入眠障害や夜間・早朝覚醒が増加します 。メラトニンや睡眠導入剤の処方とともに、日中の活動量増加や生活リズムの整備が重要な管理要素となります 。
また、摂食嚥下障害による栄養管理の問題、成長障害への対応も含めた多職種連携による包括的ケアが患者の長期予後改善には不可欠です 。