ダモクトコグ アルファ ペゴル(商品名:ジビイ)は、血友病A患者における革新的な治療薬として2018年に承認された遺伝子組換え血液凝固第VIII因子製剤です。この薬剤の最大の特徴は、60kDaの分枝型ポリエチレングリコール(PEG)が第VIII因子の1804アミノ酸位に部位特異的に結合していることです。
PEG化による効果は従来の第VIII因子製剤と比較して劇的な改善をもたらしました。臨床試験において、ダモクトコグはオクトコグ アルファ(コージネイトFS)と比較して血中第VIII活性-時間曲線下面積(AUC)が増加し、血漿中クリアランスが低下することで消失半減期が約17.1時間まで延長することが確認されています。
この半減期延長により、従来の週2-4回投与が必要だった定期補充療法を週1回または5日ごとの投与に減らすことが可能となり、患者のQOLとアドヒアランスの大幅な向上が期待されています。
国際共同第II/III相臨床試験(PROTECT VIII試験)において、ダモクトコグの優れた出血抑制効果が実証されました。12歳から65歳の既治療重症血友病A患者を対象とした試験では、以下の投与レジメンで有効性が確認されています。
特に注目すべきは、出血回数0の患者割合が週2回投与群で45.5%、5日ごと投与群で44.2%、7日ごと投与群でも37.2%に達したことです。これは従来の第VIII因子製剤では達成困難な優れた出血予防効果を示しています。
出血時補充療法においても、95.3%の症例で2回以下の投与により止血が達成され、迅速かつ確実な止血効果が確認されています。手術時の止血管理においても、必要な第VIII因子レベルに応じて適切な投与間隔で管理することで、十分な止血効果が得られることが示されています。
ダモクトコグの安全性については、複数の臨床試験で詳細に評価されています。安全性評価対象134例(日本人11例を含む)中15例(11.2%)に副作用が認められ、主な副作用として以下が報告されています。
頻度5%未満の副作用
重大な副作用(頻度不明)
12歳未満の小児患者74例を対象とした試験では、19例(25.7%)に副作用が認められ、主な副作用は発熱9例(12.2%)、関節痛5例(6.8%)、四肢痛5例(6.8%)、嘔吐5例(6.8%)でした。
重要な安全性上の注意点として、PEGに対する免疫反応のリスクが挙げられます。特に6歳未満の小児患者においてはPEGに対する免疫反応の発現割合が高く、良好なベネフィット・リスクプロファイルの確立が困難とされています。
血友病A治療において最も懸念される副作用の一つがインヒビター(第VIII因子に対する中和抗体)の発現です。ダモクトコグにおけるインヒビター発現については、治療歴のある患者では発現が認められていませんが、治療歴のない患者(PUP)105例における発現率は26.7%(28例)と報告されています。
この数値は他の遺伝子組換え第VIII因子製剤と同程度であり、ダモクトコグ特有のリスク増加は認められていません。しかし、PEG部分に対する抗体産生の可能性があり、抗BAY 94-9027抗体および抗PEG抗体の検出例が報告されています。
これらの免疫反応は過敏症反応や有効性の欠如と関連している可能性が示唆されており、投与開始後は十分な観察が必要です。特に初回投与時や投与初期には、胸部圧迫感、めまい、低血圧、悪心等の症状に注意し、異常が認められた場合は直ちに投与を中止する必要があります。
ダモクトコグの安全性は年齢によって異なるプロファイルを示します。12歳以上の患者では良好な安全性が確認されており、大部分の患者で5日ごとまたは7日ごとの投与頻度での定期補充療法が可能です。
年齢別安全性の特徴
投与時の注意点として、本剤および添付溶解液を冷所保存している場合は調製前に室温に戻すこと、溶解操作は簡便なプレフィルドシリンジを用いることが推奨されています。また、VWFのD'D3ドメインを付加することで内因性VWFには結合しないようデザインされており、従来の第VIII因子製剤とは異なる薬物動態特性を示します。
薬価については、ジビイ静注用500が61,861円/瓶、同1000が133,264円/瓶、同2000が217,252円/瓶、同3000が345,929円/瓶と設定されており、投与頻度の減少により総治療コストの最適化が期待されています。
血友病A治療におけるダモクトコグの導入により、患者の生活の質の向上と治療アドヒアランスの改善が期待される一方、適切な患者選択と慎重な安全性監視が重要な課題となっています。