「飲酒歴のある患者の腹痛は、まず膵炎を疑えばいい」と思っていると、約7%の症例で腹痛のない無痛性急性膵炎を見逃す可能性があります。

急性膵炎の初発症状として最も多いのは、持続的な上腹部痛であり、全症例の約93%に認められます。 痛みはみぞおちから始まり、背中(腰背部)へと放散するのが特徴で、「貫くような」「締め付けられるような」と表現されることが多いです。
関連)https://todai-tansui.com/case/academic/case08.html
痛みはアルコール摂取後、数日かけて増強していくことが多く、急激に始まるとは限りません。 食後数時間後から痛みが発現するパターンも多く見られます。
| 症状 | 頻度 | 特徴 |
|---|---|---|
| 上腹部痛(みぞおち痛) | 93.2% | 持続的・難治性 |
| 嘔気・嘔吐 | 22.2% | 食事で悪化 |
| 背部痛 | 13.9% | 放散痛として出現 |
| 食思不振 | 6.0% | 初期から出現 |
| 発熱 | 5.7% | 炎症マーカー上昇を伴う |
| 腹部膨満感 | 4.2% | 腸閉塞様の所見も |
関連)https://www.uoeh-u.ac.jp/kouza/3nai/pdf/b_kyuseisuien.pdf
鎮痛剤が効きにくい「難治性の腹痛」が続く場合、単なる胃炎や過飲酒の二日酔いと混同しがちな点が落とし穴です。つまり問診だけに頼らず血清アミラーゼ・リパーゼの確認が原則です。
「腹痛がないから膵炎ではない」は危険な判断です。急性膵炎では稀ではあるものの、腹痛を訴えない無痛性急性膵炎が存在します。 こうした非典型例では、嘔気・倦怠感・軽度の発熱のみで来院することも珍しくありません。
関連)https://www.uoeh-u.ac.jp/kouza/3nai/pdf/b_kyuseisuien.pdf
特に飲酒が原因の場合、患者は「飲みすぎただけ」と自己判断して受診を遅らせる傾向があります。 医療者側も「腹痛の訴えがない=膵炎を除外」とはできないということですね。
また、アルコール性膵炎では中等度から重度の痛みのほかには何の症状も出ない患者がいる一方で、脈拍数100〜140拍/分・浅速呼吸・発汗を伴い急激に全身状態が悪化するケースもあります。 この幅広い症状スペクトラムが、初期評価を難しくしています。
重症化した場合の見逃しは生命に直結します。重症急性膵炎の死亡率は現在でも約6%とされており、早期の重症度判定が予後を左右します。 疑わしい患者には迷わず膵酵素測定と画像評価を行う、これが基本です。
関連)https://www.suizou.org/citizen/qa/qa02-1.htm
参考:急性膵炎の症状・重症度についての詳細は膵臓学会市民向けページが充実しています。
急性膵炎を繰り返すことで膵臓の組織が線維化し、慢性膵炎へと移行します。慢性膵炎の約67.5%はアルコール性であり、男性では75.7%に達します。 これが慢性化した場合、症状は腹痛だけにとどまらなくなります。
関連)https://www.do-yukai.com/medical/74.html
慢性膵炎の代償期(炎症初期)には上腹部痛・腰背部痛が主体ですが、非代償期(進行期)になると膵外分泌機能の低下により、脂肪便・下痢・体重減少が出現します。 インスリン分泌障害による膵性糖尿病も生じます。これは見逃すと損です。
関連)https://www.ando-naikaonaka.jp/chronic-pancreatitis/
非代償期には膵酵素(アミラーゼ・リパーゼ)が正常値になることもあり、「検査値が正常だから膵炎ではない」という誤判断を招きやすいです。慢性膵炎の進行期では酵素産生細胞自体が減少するためです。 検査値だけで除外しないよう注意すれば大丈夫です。
関連)https://www.do-yukai.com/medical/74.html
参考:慢性膵炎の病期と症状の変化についての詳細です。
慢性膵炎の原因はアルコール?症状のチェックと食事方法|あんどう内科おなかクリニック
「断酒したから再発しない」という過信は禁物です。 ガイドラインデータによると、膵炎後2年間の再発率は、飲酒量不変で55%・減酒で35%・断酒で15%とされています。断酒できても15人に2人以上は再発します。
関連)https://ameblo.jp/otonari9120/entry-12398129907.html
減酒だけでは再発リスクが断酒の2倍以上、飲酒継続では約4倍に達します。 患者に「お酒を減らしています」と言われた場合でも、それだけでは再発リスクは十分に下がっていないということですね。
関連)https://ameblo.jp/otonari9120/entry-12398129907.html
この数字を患者・家族に具体的に伝えることが、医療者として実践できる最も効果的な再発防止策の一つです。慢性膵炎ガイドライン2023でも、家族同伴での断酒指導と専門機関への紹介が推奨されています。 再飲酒が確認された場合にはアルコール依存症専門機関への受診をあらかじめ約束させることが条件です。
関連)https://minds.jcqhc.or.jp/common/summary/pdf/c00141_chapter3_12.pdf
関連)https://ameblo.jp/otonari9120/entry-12398129907.html
また、アルコール性慢性膵炎の発症4年後死亡率は15%で、非アルコール性(9%)より高く、死因の最多は膵がんです。 患者への長期フォローアップが必要なのはこのためです。
関連)https://hakujyujikai.or.jp/chuo/health/2021/wordpress/wp-content/uploads/2022/02/wonder-no.69.pdf
参考:患者への断酒指導の具体的アプローチと再発率データです。
「大量飲酒者だけが膵炎になる」は誤解です。これは医療従事者にも意外な事実です。 アルコール性急性膵炎の発症リスクは飲酒量の増加とともに高まりますが、飲酒習慣のある人で急性膵炎を発症する割合は10%未満にとどまります。
つまり、同じ量を飲んでも膵炎になる人とならない人がいます。遺伝子異常・カルシウムシグナル異常・ミトコンドリア機能障害などの個体側の感受性が大きく関与しています。 「飲んでいる量が少ないから大丈夫」とは言えないということですね。
関連)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_3899
感受性が高い患者では、短期間の大量飲酒(いわゆる「一気飲み」や「週末飲み」)後にも急性膵炎が発症しうるとされています。 初回発症後は既往歴として必ず記録し、次の腹痛エピソードで積極的に膵炎を鑑別することが大切です。
患者が「毎日そんなに飲んでいない」と言っても、アルコール性膵炎の可能性を除外できません。この視点は問診の質を大きく変えます。
参考:アルコール性急性膵炎の発症機序と個体差についての専門的解説です。
アルコール性急性膵炎の機序は?依存性がなければ既往患者の再飲酒の是非|日本医事新報社
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