カシューナッツアレルギーは近年急激に症例数が増加している食物アレルギーです。2024年度の全国実態調査では、木の実類の症例数が全体の24.6%に達し、第2位の原因食物となりました 。カシューナッツ単体では全症例数の4.6%を占め、2021年度の2.9%から約1.6倍に増加しています 。
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カシューナッツに含まれる主要なアレルゲンタンパク質は3つのタイプに分類されます。Ana o 1(7Sグロブリン)、Ana o 2(11Sグロブリン)、そして最も重要なAna o 3(2Sアルブミン)です 。これらの中でもAna o 3は、カシューナッツアレルギー患者の81%で感作が認められ、最も診断的価値が高いアレルゲンコンポーネントとして知られています 。
参考)http://senoopc.jp/al/nutsallergy.html
Ana o 3は2Sアルブミンに属する貯蔵タンパク質で、熱や消化に対して高い安定性を示します。この特性により、調理や加工を経ても活性を失わず、全身症状の発現に強く関与しています 。従来のカシューナッツ特異的IgE検査(f202)は臨床的感度は十分でしたが、特異度が不十分で偽陽性が多いという課題がありました 。
参考)Ana o 3(カシューナッツ由来)
Ana o 3の測定により、より精度の高い診断が可能となります。粗抽出アレルゲンと組み合わせて測定することで、経口負荷試験対象者の適切な抽出や、必要最小限の原因食物除去の判断に寄与します 。また、Ana o 3は加熱処理によって性質が変化することも知られており、深煎りしたカシューナッツでは可溶性タンパク質の40%を占めるまでに増加することが報告されています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5615785/
カシューナッツアレルギーの症状は、軽微な口腔内のかゆみから生命に関わるアナフィラキシーショックまで多岐にわたります。主な症状として、口や唇、喉のかゆみ、皮膚の乾燥、発疹、腹痛、下痢、吐き気、嘔吐などが挙げられます 。
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特に注目すべきは、カシューナッツアレルギーの重篤化しやすい特徴です。アナフィラキシーショックの発症率は約20%と高く 、全体の4位となっています 。2024年度の調査では、カシューナッツによる重篤なケースが37件報告されており、意識障害やアナフィラキシーショックなどの症例が含まれています 。症状は摂取後15分から2時間程度で現れることが多く、迅速な対応が求められます 。
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カシューナッツアレルギーの複雑さの一つに、他の食品との交差反応性があります。最も顕著なのは、同じウルシ科に属するピスタチオとの交差反応で、カシューナッツアレルギーの83%がピスタチオアレルギーを併発し、逆にピスタチオアレルギーの97%がカシューナッツアレルギーを有するという高い相関関係があります 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/72/10/72_1205/_pdf/-char/ja
近年の研究では、新規アレルゲンであるシトリンとの交差反応性も注目されています。シトリンは柑橘類の種子に含まれる11Sグロブリンで、カシューナッツのAna o 2と高い相同性を有しています 。また、増粘多糖類のペクチンとの間にも強い交差反応性が存在し、製造過程で柑橘類の種子が混入するペクチン中にもシトリンが含まれているため、ペクチンアレルギーの真の原因抗原はシトリンであるとの仮説も提唱されています 。
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カシューナッツアレルギーの診断には、段階的なアプローチが重要です。まず特異的IgE検査(カシューナッツ粗抽出物f202)を実施し、陽性の場合はAna o 3などのアレルゲンコンポーネント検査を追加することで、より精密な診断が可能となります 。皮膚プリックテストや経口負荷試験も診断確定に有用ですが、重篤な反応のリスクを考慮して慎重に実施する必要があります。
参考)カシューナッツ(CAPアレルゲン)略号:f202
治療面では、経口免疫療法による積極的な治療アプローチが注目されています。ナッツアレルギーは自然寛解することがないため、症状のない範囲で摂取し、食べられる範囲を徐々に増やしていく治療法が推奨されています 。治療期間は週2〜3回の摂取を1〜3年継続する必要があり、複数種類のナッツアレルギーを同時に治療することも多いため、飽きさせない調理方法の工夫が重要です 。ただし、5例の小児例では自然寛解の報告もあり、平均2.4年の経過観察後にAna o 3が陰転化し、経口負荷試験で摂取可能となった症例も存在します 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11321836/
カシューナッツアレルギーの管理において最も重要なのは、適切な食品表示の確認と緊急時対応の準備です。2025年度中に特定原材料としての表示義務化が決定されており、今後はより厳格な表示管理が期待されます 。アナフィラキシーのリスクが高いため、エピペン(アドレナリン自己注射薬)の携帯と、周囲の理解と協力体制の構築が不可欠です。