カリウムを計算式に入れなくても、AGの正常値が「4mEq/L」近く変わることがある。

アニオンギャップ(AG)は「体液中の測定できない陰イオン(unmeasured anions)」を反映する指標です。 体液は電気的中性を保つため、陽イオン総量と陰イオン総量は常に等しくなります。この原則を式に変換すると、AGの概念が生まれます。
参考)https://guides.lib.kyushu-u.ac.jp/c.php?g=774919&p=5559633p=5559633" target="_blank" rel="noopener">アニオンギャップ(AG) - 医学生版検査値の見方〈血ガス編…
代表的な2つの計算式は以下のとおりです。
| 計算式 | 式 | 正常値(参考) | 主に使われる地域 |
|---|---|---|---|
| K含まない(標準) | AG = Na⁺ − (Cl⁻ + HCO₃⁻) | 12 ± 2 mEq/L | 米国・日本の多く |
| K含む(K式) | AG = (Na⁺ + K⁺) − (Cl⁻ + HCO₃⁻) | 16 ± 2 mEq/L | 欧州・一部機器 |
カリウムを含む式はAGの「オリジナル文献」で最初から採用されていたとされています。 しかし米国の主要教科書はKを含まない式を採用しており、「KはNaに比べ低値で変化がAGに与える影響が小さい」ことが理由として挙げられています。 つまり、どちらを使うかは施設や使用している血液ガス分析装置のメーカーによっても変わります。
参考)血液検査から学ぶ救急医療  ー鹿…
血液ガス装置で自動計算されたAGを確認するときは、まずその装置がKを含む式かどうかを確認することが大切です。 Siemens(ドイツ)製の装置はK含む式を採用している例が知られており、装置を切り替えた後に「AGの基準値がずれた」と混乱するケースは現場で散見されます。
参考)血液検査から学ぶ救急医療  ー鹿…
これが基本です。
参考:アニオンギャップの計算にKを入れるべきかを詳細に考察した内科医ブログ(UpToDate文献引用あり)
アニオンギャップの計算にKを入れるべきか? – kekimura blog
AGの正常値は12 ± 2 mEq/L(Kなし式の場合)です。 この値が上昇するのは、測定されない陰イオン(乳酸・ケトン体・尿毒症物質・薬物毒素など)が増えた状態を示します。 逆にAGが正常範囲内であっても、代謝性アシドーシスが起きていることがある点が重要です。
参考)アニオンギャップとは? – MIII.me
AG上昇を伴う代謝性アシドーシスの主な原因をまとめます。
AG正常の代謝性アシドーシスでは、HCO₃⁻が消費されると同時に、Cl⁻が増加します(高クロール性アシドーシス)。 原因には下痢・尿細管性アシドーシス(RTA)・生食の大量投与(希釈性アシドーシス)などがあります。
参考)アニオンギャップ
鑑別のポイントはシンプルです。
> AGを計算 → 上昇あり:高AG性 → 上昇なし:高Cl性 → Cl⁻をチェック
高Cl性か高AG性かを見分けることが、アシドーシス治療の方向性を決定づけます。 正常値にこだわることも大切ですが、基準値のブレ(施設差・K含否)を意識した解釈が求められます。
参考)https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/kid/kid/resident/clinicallecture4.html
意外ですね。
参考:大阪大学腎臓内科による研修医向け血液ガス・酸塩基平衡の読み方レクチャー(STEPごとに解説)
研修医レクチャー 5 血液ガス・酸塩基平衡の読み方 – 大阪大学
多くの医療従事者がAGを計算する際に見落としがちなのが、アルブミンによるAG補正です。 アルブミンは陰性荷電を持つタンパク質で、通常のAGの正常値はアルブミン濃度4.4 g/dLを前提としています。
参考)酸塩基平衡と血液ガスの見かた - 国府台病院リウマチ膠原病科
低アルブミン血症(例:重症患者・肝硬変・悪性腫瘍)では、アルブミンが減少した分だけ未測定陰イオンが減るため、「見かけ上AGが低く出てしまう」のです。アルブミンが1 g/dL下がるごとに、AGは約2.5 mEq/L低下することが知られています。
参考)酸塩基平衡と血液ガスの見かた - 国府台病院リウマチ膠原病科
補正AGの計算式はこちらです。
補正AG = 実測AG + 2.5 × (4.4 − 実測アルブミン値)
例えば、Alb 2.0 g/dLの患者でAGが10 mEq/L(一見正常)の場合。
補正AG = 10 + 2.5 × (4.4 − 2.0) = 10 + 6.0 = 16 mEq/L(高AG性!)となります。
参考)酸塩基平衡と血液ガスの見かた - 国府台病院リウマチ膠原病科
これは見逃せません。
ICUや腫瘍科・消化器科で重症患者を診る機会が多い医療従事者は、ALbをルーティンでチェックし、必ず補正AGを算出する習慣を持つべきです。 AG正常と判断して乳酸アシドーシスやDKAの初期病態を見逃すリスクを避けるためです。
参考:国府台病院リウマチ膠原病科による酸塩基平衡・血液ガスの見かた(Step4 補正AGの計算式あり)
酸塩基平衡と血液ガスの見かた – 国立国際医療研究センター国府台病院
AG上昇が確認できた場合、次のステップとして補正HCO₃⁻(ΔAG法)を計算することで、隠れた混合性酸塩基平衡異常を検出できます。 単純な高AG性代謝性アシドーシスであれば、AGが1増えるとHCO₃⁻は1減ります。この「1対1の関係」が崩れていれば、別の病態が重なっているサインです。
参考)酸塩基平衡と血液ガスの見かた - 国府台病院リウマチ膠原病科
計算式は以下のとおりです。
補正HCO₃⁻ = 実測HCO₃⁻ + ΔAG(ΔAG = 実測AG − 12)
Δギャップ法の感度・特異度は完璧ではなく、あくまで補助的な指標です。 臨床所見やほかの電解質データと必ず組み合わせた解釈が原則です。
これは使えそうです。
例えば、嘔吐を繰り返す糖尿病患者でDKAを合併している場合、HCO₃⁻の低下がアルカローシスとアシドーシスの相殺によってマスクされることがあります。 この場合、AG単独ではなくΔギャップを使うことで病態の複雑さを検出できます。
参考)https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/kid/kid/resident/clinicallecture4.html
参考:大阪大学腎臓内科 血液ガス・酸塩基平衡レクチャー(STEP4 代償変化・混合性評価)
研修医レクチャー 5 血液ガス・酸塩基平衡の読み方 – 大阪大学
一般にカリウムはAGの計算から除外されますが、実際の臨床ではカリウム異常がAG解釈をゆがめるケースがあります。 これは教科書にはなかなか載っていない視点です。
まず、高カリウム血症(K>5.5 mEq/L)の場合を考えます。Kを含む計算式を使っている施設では、高K血症そのものがAGを数値として上昇させます。 実際の未測定陰イオン増加がなくても、K値の上昇がAGに1〜2 mEq/L程度影響することがあります。
参考)アニオン・ギャップ AG |血液ガス|用語集|ラーニング|ラ…
逆に、低カリウム血症(K<3.0 mEq/L)が代謝性アシドーシスの原因鑑別に直接絡む場面があります。 例えば尿細管性アシドーシス(RTA)タイプ1(遠位型)では、低K血症とAG正常の代謝性アシドーシスが同時に起こります。 この場合「なぜK低下?」という視点がAG正常型アシドーシスの診断に貢献します。
参考)酸塩基平衡と血液ガスの見かた - 国府台病院リウマチ膠原病科
以下の表で整理します。
| カリウム異常 | AGへの影響 | 考えるべき病態 |
|---|---|---|
| 高K血症(>5.5) | K含む式で偽高値の可能性 | 腎不全・アジソン病・溶血 |
| 低K血症(<3.0) | AG正常の場合が多い | 尿細管性アシドーシス・下痢 |
| 正常K | AGに直接影響しない | 標準的な解釈が可能 |
つまり、カリウムをAG計算式に含めるかどうかの問題だけでなく、「K値そのものが臨床診断に絡む」という点を意識することが重要です。
参考)酸塩基平衡と血液ガスの見かた - 国府台病院リウマチ膠原病科
また低K血症がアシドーシスを代償しながら悪化させる機序(細胞内外のK-H交換)も知っておくと、治療計画の優先順位が変わります。 KClの補正とアシドーシス治療のどちらを先行するかは、病態の深さに応じた判断が求められます。
カリウムが主役になる場面があります。
電解質の補正ガイドラインを手元に置いておくと、急いでいるときの判断ミスを防ぎやすくなります。 日本集中治療医学会(JSICM)のガイドラインや、UpToDateの電解質項目は根拠のある参照先として有用です。
参考:日本救急医学会によるアニオンギャップの定義と電解質の関係
アニオン・ギャップ – 日本救急医学会医学用語解説集
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