アナプラズマ日本発見何年経過した感染症研究

日本におけるアナプラズマ感染症の発見から現在までの研究歴史と臨床実態について詳しく解説。初回検出から約20年経過した現在の課題と対策を紹介。医療従事者必見の情報とは?

アナプラズマ日本何年

日本のアナプラズマ感染症の歴史
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2003年:初回検出

静岡県でマダニから初めてAnaplasma phagocytophilumを検出

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2013年:初症例確認

国内初のヒト顆粒球アナプラズマ症患者を2例確認

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2014年:犬での確認

茨城県で犬への感染例を国内初確認

アナプラズマ日本初検出の歴史的背景

日本でアナプラズマの研究が始まったのは2003年から2004年にかけてです。2025年現在で約22年が経過しており、この感染症の認知度と対策は着実に進展しています。
参考)https://idsc.niid.go.jp/iasr/27/312/dj312d.html

 

最初の発見は静岡県、山梨県、長野県において実施されたマダニ調査で、Ixodes属のマダニ273匹を対象とした研究から始まりました。この調査により、日本に生息するIxodes persulcatus(シュルツェマダニ)とI. ovatus(ヤマトマダニ)からAnaplasma phagocytophilumが検出され、日本国内での感染リスクが初めて明らかになりました。
参考)http://wwwnc.cdc.gov/eid/article/11/11/05-0407_article.htm

 

興味深いことに、日本で検出されたA. phagocytophilumは、米国やヨーロッパの株とは異なる独特のp44/msp2遺伝子配列を持つことが判明しました。これは日本独自の進化を遂げた病原体である可能性を示唆しており、地域特性を考慮した診断・治療法の開発が重要であることを物語っています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3367361/

 

アナプラズマヒト感染症日本での臨床確認

ヒトでのアナプラズマ感染症が日本で初めて確認されたのは2013年で、2例の患者が後向き調査により確認されました。この発見は医学界に大きなインパクトを与え、それまで「日本にはない感染症」と考えられていたアナプラズマ症の存在が証明されました。
参考)http://wwwnc.cdc.gov/eid/article/19/2/12-0855_article.htm

 

患者の血液サンプルからは独特のp44/msp2遺伝子が検出され、抗体検査では興味深い発見がありました。従来HL60細胞を用いた診断法では検出できなかったものの、THP-1細胞を用いることで確実に診断できることが判明しました。この発見により、日本でのアナプラズマ症診断には両方の細胞株を併用する必要性が示されました。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3559047/

 

さらに注目すべきは、2014年4月に茨城県つくば市で犬への感染が確認されたことです。3歳のシーズーが公園でマダニに刺された後、発熱と血小板減少を示し、日本初の犬でのアナプラズマ感染症として報告されました。この症例は第一選択薬であるドキシサイクリン投与により速やかに回復し、治療法の有効性も確認されました。
参考)https://komachi-ah.com/blog/20210315_01/

 

アナプラズマ日本分布調査研究成果

日本全国でのアナプラズマ保有マダニの分布調査により、予想以上に広範囲な汚染状況が明らかになっています。北海道から本州にかけて、複数のマダニ種がA. phagocytophilumを保有していることが確認されました。
参考)https://aem.asm.org/content/72/2/1102.full.pdf

 

具体的には以下のマダニ種から検出されています。

  • I. persulcatus(シュルツェマダニ)
  • I. ovatus(ヤマトマダニ)
  • Amblyomma testudinarium(タカサゴキララマダニ)
  • Haemophysalis longicornis(フタトゲチマダニ)
  • H. formosensis(タカサゴチマダニ)
  • H. megaspinosa(オオトゲチマダニ)

特に北海道と本州の野生シカを対象とした調査では、A. phagocytophilum、A. bovis、A. centraleの複数種が同時に検出され、さらに新しいEhrlichia属細菌も発見されています。これらの発見は、日本の自然環境中に多様なアナプラズマ属細菌が存在することを示しており、今後の監視体制強化の必要性を裏付けています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1392898/

 

西日本での調査では、マダニの約3.0%がA. phagocytophilumを保有していることが判明し、日本紅斑熱との混合感染の可能性も指摘されています。この高い保有率は、アウトドア活動時のマダニ対策の重要性を強調するものです。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/24281

 

アナプラズマ日本診断技術開発進歩

日本でのアナプラズマ症診断技術は、この20年余りで大幅に進歩しました。初期の遺伝子検出法から始まり、現在では複数の診断手法が確立されています。

 

最も重要な発見の一つは、日本株のA. phagocytophilumに対しては、従来の診断法では不十分であることが判明したことです。THP-1細胞とHL60細胞の両方を用いた抗体検査法の開発により、見逃されていた症例の検出が可能になりました。
さらに、組換え蛋白抗原3種を用いたウエスタンブロット法と感染細胞抗原蛍光抗体法の組み合わせにより、新たな陽性患者の発見に成功しています。これらの診断法の組み合わせは有効ですが、より効率的な抗原作製法とエピトープ解析の必要性も指摘されています。
PCR法による遺伝子診断では、16S rRNA遺伝子、p44/msp2遺伝子、groEL遺伝子を標的とした多重検査法が開発され、確実性が向上しました。特に日本株特有の遺伝子配列の特定により、海外株との鑑別診断も可能になっています。

 

アナプラズマ日本今後課題と展望

アナプラズマ症の日本での研究開始から22年が経過した現在、いくつかの重要な課題が残されています。まず、約80%の疑い症例で原因が特定できない現状があり、より包括的な診断体制の構築が急務です。
気候変動に伴うマダニの生息域拡大も懸念材料です。従来は限定的だった地域でもマダニ媒介感染症のリスクが高まっており、全国的な監視システムの強化が必要です。特に都市部近郊の公園や里山でのマダニ刺咬事例が増加傾向にあり、市民への啓発活動の重要性が増しています。

 

治療面では、ドキシサイクリンが第一選択薬として確立されていますが、重症例や合併症例への対応、薬剤耐性菌の出現監視などの課題があります。また、予防ワクチンの開発も今後の重要な研究テーマです。

 

アジア地域での疫学調査により、極東ロシア、モンゴル、中国との病原体の遺伝的類似性が明らかになっており、国際的な監視体制の構築も重要な課題となっています。特に人や物の国際移動が活発化する中、越境感染症としての対策が求められています。
参考)https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23406012/

 

医療従事者にとっては、マダニ刺咬歴の詳細な問診、臨床症状の早期認識、適切な検査法の選択が重要です。発熱と血小板減少を認める患者で、マダニへの曝露歴がある場合は、積極的にアナプラズマ症を疑うことが求められています。

 

日本の感染症研究機関では、国立感染症研究所を中心とした全国的な検査ネットワークが構築されており、地方衛生研究所との連携による迅速診断体制の整備が進んでいます。今後は、医療現場での簡易診断キットの開発や、AIを活用した画像診断支援システムの導入なども期待されています。

 

国立感染症研究所のアナプラズマ属菌検出に関する詳細な技術情報
日本初の犬でのアナプラズマ感染症の臨床経過と治療法の詳細