不活化ポリオワクチン いつから導入され定期接種となったのか

不活化ポリオワクチンの導入時期と背景、接種スケジュールの変遷について詳しく解説しています。生ポリオワクチンからの切り替えがなぜ行われ、どのような効果をもたらしたのでしょうか?

不活化ポリオワクチン いつから導入されたか

不活化ポリオワクチン導入の重要ポイント
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導入時期

2012年9月1日から定期接種として導入

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接種回数

初回接種3回、追加接種1回の計4回接種

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切り替え理由

ワクチン関連麻痺のリスク排除と安全性向上

不活化ポリオワクチンの導入経緯と歴史的背景

日本では長年、経口生ポリオワクチン(OPV)が使用されてきましたが、2012年9月1日に大きな転換点を迎えました。この日から、不活化ポリオワクチン(IPV)が定期接種として導入され、それまで48年間にわたって使用されてきた経口生ポリオワクチンは定期接種から外されることとなりました。

 

ポリオワクチンの歴史を紐解くと、1950年代にアメリカでソーク株を利用した不活化ワクチン(注射)が最初に実用化されました。しかし、当時の不活化ポリオワクチンは免疫持続期間がやや短いという課題があったため、セイビン株による生ワクチン(経口)の開発も並行して進められました。日本では昭和39年(1964年)から国産の経口生ポリオワクチンの接種が開始され、長らくこれが標準的な予防接種として続けられてきたのです。

 

不活化ポリオワクチン導入への転換点となったのは、経口生ポリオワクチンに関連する安全性の問題でした。厚生労働省の報告によると、2001年以降の10年間で15人がワクチン接種による被害と認定され、6人が二次感染と確認されていました。経口生ポリオワクチンでは、100万人に2〜4人の割合で「ワクチン関連麻痺」と呼ばれる副反応が発生する可能性があり、接種した子どもがポリオを発症したり、さらに接種した子どもから周囲の人への二次感染が起こったりするケースも報告されていました。

 

こうした背景から、ポリオの流行がない欧米や多くの国々ではすでに不活化ポリオワクチンへの切り替えが進んでいました。日本でも安全性向上を目指し、2012年4月に不活化ポリオワクチンが認可され、同年9月より定期予防接種として単独接種が開始されたのです。

 

不活化ポリオワクチンの接種スケジュールと回数について

不活化ポリオワクチンの接種スケジュールは、経口生ポリオワクチンと大きく異なります。2012年9月の導入時点での規定では、不活化ポリオワクチンは以下の接種スケジュールが標準とされました。

  • 初回接種(3回):生後3か月から12か月に3回(20日以上の間隔をおく)
  • 追加接種(1回):初回接種から12か月から18か月後(最低6か月後)に1回

これは三種混合(DPT)ワクチンと同じ接種スケジュールとなっており、合計4回の接種が必要です。標準的な接種期間を過ぎた場合でも、90か月(7歳半)に至るまでの間であれば接種が可能とされています。

 

また、厚生労働省の通知によれば、導入初期の特例措置として、「当分の間(3年程度)に限って、単独の不活化ポリオワクチンについては20日以上の間隔をおいて、必要な回数(4回以内)の接種をできる」とされました。これは、三種混合ワクチンの既接種者や生ポリオワクチンの1回既接種者、国内未承認ワクチンの一部既接種者については、既に接種したワクチンとの関係で、接種間隔を一律に規定することが困難であったためです。

 

さらに注目すべき点として、不活化ポリオワクチン導入時には、過去の接種歴に応じた対応が定められていました。

  1. 生ポリオワクチンをすでに2回接種していた人は、不活化ポリオワクチンの追加接種は不要
  2. 生ポリオワクチンを1回接種していた人は、合計3回の不活化ポリオワクチン接種が必要
  3. すでに不活化ポリオワクチンを1回〜3回受けていた人は、合計4回となるよう残りの回数を接種

このように、不活化ポリオワクチンの導入にあたっては、それまでの接種状況に配慮したきめ細かな対応が行われました。

 

不活化ポリオワクチンと生ポリオワクチンの違いと特徴

不活化ポリオワクチンと生ポリオワクチンには、製造方法、投与経路、効果、安全性などにおいて明確な違いがあります。ここでは、両者の特徴を比較しながら詳しく解説します。

 

まず、最も基本的な違いは、ワクチンの性質です。不活化ポリオワクチンは、ポリオウイルスを不活化(殺し)し、免疫をつくるのに必要な成分を取り出して病原性を無くして作られています。一方、生ポリオワクチンは弱毒化されたウイルスを含み、体内で増殖することで免疫を獲得させるものです。

 

投与方法に関しても大きな違いがあります。不活化ポリオワクチンは注射で接種するのに対し、生ポリオワクチンは経口(口から飲む)で投与します。この点は被接種者の心理的負担にも関わる重要な違いです。

 

安全性については、不活化ポリオワクチンの最大の利点として、ワクチン由来のポリオ発症リスクがゼロである点が挙げられます。不活化ポリオワクチンはウイルスとしての働きがないため、ポリオと同様の症状が出るという副反応はありません。一方、生ポリオワクチンでは、まれ(数十万〜数百万回に1回)に「ワクチン関連麻痺」と呼ばれるポリオ様症状が発生するリスクがありました。

 

副反応に関しては、不活化ポリオワクチンでも通常の注射ワクチンと同様に、注射部位の紅斑(66.2%)、腫脹(37.8%)、疼痛(8.1%)などの局所反応や、発熱(14.9%)、傾眠状態(29.7%)などの全身反応が報告されています。また、重い副反応としてショック、アナフィラキシー様症状(頻度不明:海外で報告されている)があるとされています。

 

効果の面では、生ポリオワクチンはポリオの感染予防に極めて高い効果を持ち、きちんと接種すれば一生感染予防効果があるとも言われていました。これに対し、不活化ポリオワクチンは生ワクチンに比べるとやや予防効果が劣るという指摘もあります。しかし、安全性の観点から、ポリオの流行していない国・地域では不活化ポリオワクチンの使用が一般的となっています。

 

以下の表に、両ワクチンの主な違いをまとめました。

項目 生ポリオワクチン(OPV) 不活化ポリオワクチン(IPV)
性質 弱毒化生ウイルス 不活化(殺した)ウイルス
投与経路 経口(飲む) 注射
ワクチン関連麻痺のリスク あり(100万人に2〜4人) なし
二次感染リスク あり なし
免疫持続期間 長期(一生とも言われる) やや短い
日本での使用期間 1964年〜2012年8月 2012年9月〜現在

不活化ポリオワクチン導入後の4種混合ワクチン開発と実施

不活化ポリオワクチン(IPV)が2012年9月1日に定期接種として導入された後、さらなる改善として2012年11月1日から4種混合ワクチン(ジフテリア破傷風・百日せき・不活化ポリオ混合、DPT-IPV)の接種が開始されました。この4種混合ワクチンの導入は、被接種者の負担軽減と接種率の向上を目的としたものでした。

 

4種混合ワクチンの開発過程を振り返ると、厚生労働省の資料によれば、2012年4月27日に単独の不活化ポリオワクチン(サノフィパスツール株式会社製)が薬事承認された後、4種混合ワクチンの開発も並行して進められていました。阪大微生物病研究会と化学及血清療法研究所(現KMバイオロジクス)の2社が4種混合ワクチンの開発を進め、それぞれ2011年12月と2012年1月に薬事申請を行い、2012年11月からの導入を目指すことが計画されていました。

 

4種混合ワクチンの対象者は、原則として3種混合ワクチン(DPT)も単独不活化ポリオワクチン(IPV)も接種していない子どもたちです。この点は医療現場で注意が必要でした。というのも、4種混合ワクチンに使用されている不活化ポリオワクチンと単独不活化ポリオワクチンに使われている株が異なるため、通常はどちらか一方でも接種していると4種混合ワクチン接種の対象にならないからです。

 

ただし、国の臨床研究によって、単独不活化ポリオワクチンと4種混合ワクチンを併せて使用した場合でも同等の効果が得られることが明らかになっていたため、どちらかのワクチンの不足等が生じた場合には併用しても差し支えないとされていました。これは、当時の切り替え期特有の柔軟な対応として重要でした。

 

4種混合ワクチンの導入により、それまで別々に受けていた3種混合ワクチンと不活化ポリオワクチンを1回の接種で済ませることができるようになりました。これにより、子どもたちの身体的・精神的負担が軽減されただけでなく、保護者の通院負担も減少し、結果として接種率の向上にもつながったと考えられています。

 

医療提供者側にとっても、接種スケジュールの管理が容易になり、ワクチン在庫管理の効率化にもつながりました。4種混合ワクチンの導入は、ワクチン行政における大きな進歩の一つと言えるでしょう。

 

不活化ポリオワクチンの5回目接種検討と長期免疫持続性

不活化ポリオワクチン(IPV)の導入から継続的に議論されてきた課題の一つが、長期的な免疫持続性と追加接種の必要性です。この点については、医療従事者の間でも十分に認識されていない情報が多く含まれています。

 

厚生労働省の資料によると、2012年8月の第4回不活化ポリオワクチンの円滑な導入に関する検討会において、IPVのみの接種を導入している国の多くで2歳以降に追加の接種を行っていることが報告されました。この事実に基づき、日本でも抗体保有率の経年変化の観察を行う必要があるとされ、それに基づいてIPVの5回目接種の必要性、およびその接種時期の検討を行うこととなりました。

 

2013年7月の第3回研究開発及び生産流通部会においても、IPVの5回目接種の必要性が議論され、改めて抗体保有率の経年変化について調査を継続し、その結果に基づき5回目接種の必要性を検討することが決められました。

 

この問題の背景には、不活化ポリオワクチンは生ポリオワクチンに比べると免疫持続期間がやや短い可能性があるという懸念があります。生ポリオワクチンはポリオの感染予防にきわめて高い効果を持ち、きちんと接種すれば一生感染予防効果があるとも言われていましたが、不活化ポリオワクチンの長期的な効果については検証が必要とされていました。

 

実際、米国をはじめとする諸外国では、幼児期の基礎接種(4回)に加えて、学童期(4〜6歳)に5回目の追加接種を行っている国も多いのです。日本小児科学会でも、就学前の不活化ポリオワクチン接種を推奨しており、一部の小児科医たちは就学前接種を定期予防接種化するよう署名活動を行っていたことが報告されています。

 

また、今なおポリオが流行している国があることを考慮すると、長期的な免疫維持は重要な課題です。万が一、再びポリオが流行した場合、不活化ポリオワクチンだけで対処できるのかという問題も提起されています。

 

これらの議論とデータに基づき、医療従事者としては、現在の4回接種スケジュールで十分な免疫が得られているかどうかを注視し、今後の研究結果や政策変更に関する情報を継続的に収集していくことが重要です。また、海外渡航を予定している患者や特定の医学的条件を持つ患者に対しては、個別に追加接種の必要性を検討することも考慮すべきでしょう。

 

国立感染症研究所のポリオに関する詳細情報

不活化ポリオワクチン導入の国際的背景と日本の対応

不活化ポリオワクチン導入の背景には、国際的な動向と日本固有の事情が複雑に絡み合っています。世界保健機関(WHO)は、ポリオの根絶を目指す「ポリオ根絶計画」を推進しており、その一環として、ポリオ流行地域と非流行地域で異なるワクチン戦略を採用していました。ポリオの流行が続いている地域では感染力の強い生ポリオワクチン(OPV)が、流行がない地域では安全性の高い不活化ポリオワクチン(IPV)が推奨されていました。

 

日本は1980年以降、自然感染によるポリオの発生を認めていなかったにもかかわらず、2012年まで生ポリオワクチンを使用し続けていました。これは、不活化ポリオワクチンの承認・導入が国際的な基準に比べて遅れていたことを意味します。

 

この遅れには、日本のワクチン政策における「ドラッグ・ラグ」(医薬品の承認審査の遅れ)の問題や、予防接種行政における慎重姿勢が関係していました。しかし、2010年代に入ると、医療関係者や市民団体からの声が高まり、国内未承認の輸入不活化ワクチンを自費で接種する親も増えていました。

 

こうした背景から、2012年に入ると状況が大きく動き始めます。国会議員有志による輸入不活化ワクチンの緊急承認に関する議員立法の動きなどもあり、厚生労働省は不活化ワクチンの「二段階申請」という前例のない承認プロセスを受け入れました。これにより、2012年4月に不活化ポリオワクチンが承認申請から2ヶ月という異例の速さで認可され、同年9月から定期接種が開始されたのです。

 

この「二段階申請」とは、通常であれば全ての臨床試験データが揃った段階で申請・承認を行うところを、一部のデータが揃った段階で先行して承認し、残りのデータは後日提出するという方式です。これは日本の医薬品行政において画期的な対応であり、以後の間隔をあけて複数回投与する薬剤に関して、二段階申請が可能になる前例となりました。

 

さらに、日本の不活化ポリオワクチン導入は、単独ワクチンから始まり、わずか2ヶ月後には4種混合ワクチン(DPT-IPV)の導入へと素早く移行した点も特筆に値します。これは、それまでの日本のワクチン行政の慎重さから考えると、非常に迅速な対応でした。

 

こうした迅速な政策転換の背景には、医療関係者や市民の声に加え、国際的な潮流への対応という側面もありました。多くの先進国がすでに不活化ポリオワクチンに移行し、混合ワクチンの利用も進んでいる中で、日本も国際標準に合わせる必要があったのです。

 

この一連の流れは、日本のワクチン政策が「国際調和」に向けて大きく動き始めた象徴的な事例として、医療従事者が認識しておくべき重要な歴史的転換点と言えるでしょう。