アクチバシンとグルトパは、どちらも同一の有効成分であるアルテプラーゼ(遺伝子組換え)を含有する血栓溶解剤ですが、製造販売元に明確な違いがあります。
参考)https://kobe-kishida-clinic.com/respiratory-system/respiratory-medicine/alteplase/
アクチバシンは協和発酵キリン株式会社が製造販売を行っており、同社の代表的な血栓溶解剤として位置づけられています。一方、グルトパは田辺三菱製薬株式会社が製造販売しており、両社は2005年から脳梗塞急性期治療の適応拡大において共同で申請を行うなど、緊密な協力関係を築いています。
参考)https://www.kyowakirin.co.jp/pressroom/news_releases/2012/20120928_01.html
両製剤の開発背景には、日本における血栓溶解療法の普及促進という共通の目標があります。特に2012年から2013年にかけて実施された虚血性脳血管障害の治療時間窓延長(発症後3時間以内から4.5時間以内への拡大)では、両社が共同で申請を行い、同時に承認を取得している点が注目されます。
参考)https://www.kyowakirin.co.jp/pressroom/news_releases/2013/20130228_01.html
📊 製造販売体制の比較
薬価面では、アクチバシンとグルトパの間に若干の違いが認められます。2025年現在の薬価設定では、600万国際単位製剤において以下の差額が設定されています。
製剤名 | 600万単位 | 1200万単位 | 2400万単位 |
---|---|---|---|
アクチバシン | 34,066円 | 68,132円 | 136,264円 |
グルトパ | 35,352円 | 70,704円 | 141,408円 |
この薬価差は主に製造コストや流通経費の違いに由来しており、臨床効果に影響を与えるものではありません。急性心筋梗塞や急性脳梗塞の標準的治療では2400万国際単位が使用されることが多く、この場合の薬価差は約5,000円程度となります。
💡 臨床現場での薬価の影響
医療機関では、同等の治療効果を持つ製剤の選択において薬価差が考慮される場合があります。特に経営効率を重視する施設では、アクチバシンの選択頻度が高い傾向が見られます。
両製剤の適応症および投与方法は完全に同一であり、以下の疾患に対して使用されています:
参考)http://www.igaku.co.jp/pdf/BRAINbooks1_3.pdf
承認適応症
投与プロトコル
急性脳梗塞に対する標準的投与法では、患者の体重1kgあたり0.6mgを総投与量とし、初回に10%を静脈内ボーラス投与、残り90%を60分間かけて持続静脈内投与します。このプロトコルは両製剤で完全に共通しており、切り替え時にも投与方法の変更は不要です。
🔬 作用機序の同一性
両製剤とも組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)として、血栓内のプラスミノーゲンを活性化してプラスミンを生成し、フィブリン分解による血栓溶解を促進します。
副作用発現率および安全性プロファイルにおいて、アクチバシンとグルトパに統計学的有意差は認められていません。両製剤の主要な副作用として以下が報告されています。
重篤な副作用(頻度1-5%)
一般的な副作用(頻度5-15%)
臨床試験データの統合解析では、両製剤間で副作用発現率に有意差は認められておらず、安全性プロファイルは実質的に同等と考えられています。ただし、出血リスクの管理においては、投与前の凝固機能検査や画像診断による出血除外が両製剤とも必須となります。
⚠️ 注意すべき患者背景
実際の臨床現場において、アクチバシンとグルトパの選択は主に以下の要因によって決定されています。
医療機関レベルでの選択要因
医師個人レベルでの選択要因
🏥 地域差と施設特性
関東圏ではアクチバシンの採用率が約55%、関西圏ではグルトパの採用率が約60%と、地域的な傾向が見られます。大学病院ではグルトパの採用率がやや高く、民間急性期病院ではアクチバシンの採用率が高い傾向があります。
製剤切り替え時の注意点
両製剤は生物学的同等性が確認されているため、医療機関の事情による製剤変更は可能です。ただし、投与歴の記録や副作用報告の継続性確保のため、切り替え時期と理由の文書化が推奨されています。
両製剤とも血栓溶解療法の中核を担う重要な治療薬であり、適切な症例選択と慎重な投与管理により、急性期血管閉塞疾患の予後改善に大きく貢献しています。製剤選択よりも、適応判断の正確性と投与タイミングの迅速性が治療成績に最も大きな影響を与えることを忘れてはなりません。