WPW症候群の心電図が「正常」に見えることで、心室細動リスクを見落とすと患者が突然死する可能性があります。

WPW症候群の心電図診断は、3つの所見を同時に確認することが原則です。 ①デルタ(Δ)波、②PQ時間の短縮(0.12秒未満)、③QRS幅の延長(0.12秒以上)——この3点が揃えば、副伝導路(ケント束)の存在を強く示唆します。
関連)https://www.shouman.jp/disease/details/04_06_006/
デルタ波とは、QRS波の立ち上がりがなだらかになる波形です。副伝導路を介して心室の一部が正規の刺激伝導系より「先に興奮」するために生じます。 つまり早期興奮が心電図上に波として現れているということですね。
関連)https://www.cardiac.jp/view.php?lang=ja&target=wpw_synd.xml
PQ時間の短縮は「副伝導路が房室結節を迂回している」ことを意味します。 通常の伝導では房室結節でいったん電気信号がスローダウンしますが、WPWではその遅延がないため0.12秒未満に短縮します。QRS幅の延長は、副伝導路経由の興奮と正規経路の興奮が混在することで波形が広がるためです。これが脚ブロックとの鑑別で重要な視点になります。
関連)https://heart-clinic.jp/wpw%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4
| 心電図所見 | 基準値 | 臨床的意義 |
|---|---|---|
| デルタ(Δ)波 | QRS波立ち上がりがなだらか | 副伝導路存在の直接証拠 |
| PQ時間短縮 | 0.12秒未満 | 房室結節迂回を示唆 |
| QRS幅延長 | 0.12秒以上 | 心室早期興奮・融合波 |
WPWは副伝導路の位置によってA型・B型・C型に分類され、それぞれV1誘導の波形が異なります。 A型はV1でデルタ波が陽性(上向き)であり、左側副伝導路が多いとされます。B型はV1でデルタ波が陰性(下向き)で、右側副伝導路を示唆します。
関連)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.18885/HV.0000001092
分類が重要なのはカテーテルアブレーションの標的部位同定に直結するからです。これは使えそうです。近年はより詳細なアルゴリズム(Milstein分類など)が用いられ、12誘導心電図だけで副伝導路の位置を±1〜2cm程度に絞り込むことが可能になっています。
関連)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.18885/HV.0000001092
C型はV1からV3にかけてQS波を示し、一見すると前壁心筋梗塞と非常によく似た波形を示すことがあります。 見落としに注意が必要ですね。このような偽性心筋梗塞パターンがあることは、特に救急・外来の読影で見逃しやすい落とし穴です。
関連)https://heart-clinic.jp/wpw%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4
潜在性WPW症候群は、副伝導路が「逆行性(心室→心房方向)」のみ伝導し、順行性伝導を持たない状態です。 デルタ波が出ないため、通常の安静時心電図では完全に正常に見えます。診断できないということですね。
この型の患者が頻拍発作を起こした場合、発作中の心電図で初めて異常が発覚します。 発作中は房室回帰性頻拍(AVRT)の形をとり、QRS幅は正常で、QRS直後に逆行性P波が見られることが特徴です。 電気生理学的検査(EPS)でのみ確定診断が可能です。
関連)https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/wolff-parkinson-white/
臨床上の問題は、安静時心電図が正常であるため「WPWの疑いなし」と判断されてしまうことです。繰り返す原因不明の頻拍発作がある患者に対しては、心電図が正常でもWPWを鑑別から外してはいけません。
WPW症候群に心房細動が合併すると、最も危険な状態になります。これが最大のリスクです。 心房の乱れた電気信号がケント束を介してそのまま心室に伝わり、心室細動へ移行するリスクがあるためです。
この状態の心電図は「不規則かつ幅広いQRS波(QRS幅≧0.12秒)」が特徴で、一見心室頻拍のように見えます。 鑑別が難しいですが、RR間隔が不規則であることがWPW合併Afの大きなヒントです。血圧が低下している場合は電気的除細動(DCショック)が第一選択となります。
絶対に覚えておくべき禁忌薬があります。カルシウム拮抗薬(ベラパミル)やジゴキシンは、房室結節の伝導を抑制しケント束側の伝導を相対的に促進するため、心室細動を誘発する危険があります。 これは禁忌の原則です。血行動態が安定している場合はサンリズム(プロパフェノン)やシベノール(シベンゾリン)などのIc群抗不整脈薬の静脈注射が推奨されます。
| 薬剤 | WPW合併Afへの使用 | 理由 |
|---|---|---|
| ベラパミル(Ca拮抗薬) | ❌ 絶対禁忌 | ケント束伝導促進 → Vf誘発 |
| ジゴキシン | ❌ 絶対禁忌 | 同上 |
| アデノシン | ⚠️ 原則禁忌 | Afを促進・Vf誘発リスク |
| サンリズム・シベノール(Ic群) | ✅ 推奨(血行動態安定時) | ケント束伝導抑制 |
| 電気的除細動(DC) | ✅ 第一選択(血圧低下時) | 即時リズム回復 |
WPW症候群は他疾患に酷似した偽性所見を作り出すことがあり、誤診の原因になります。これは意外ですね。 特に問題になる3パターンが臨床現場では報告されています。
関連)https://heart-clinic.jp/wpw%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4
第一は「偽性心筋梗塞パターン」です。B型やC型WPWではV1〜V3に陰性デルタ波が出現し、異常Q波と区別がつきにくくなります。 実際に急性心筋梗塞として誤診されたケースが存在します。PQ短縮があるかどうかを必ず確認することで、心筋梗塞との鑑別が可能です。
関連)https://heart-clinic.jp/wpw%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4
第二は「偽性脚ブロックパターン」です。QRS幅が0.12秒以上に延長するため、左脚ブロックや右脚ブロックと誤読されることがあります。 脚ブロックではPQ時間は正常ですが、WPWではPQ短縮が伴う点が鑑別の核心です。PQ短縮の確認が条件です。
関連)https://www.cardiac.jp/view.php?lang=ja&target=wpw_synd.xml
第三は「無症候性偶発発見」の問題です。WPWの頻度は約500人に1人とされ、 健診の心電図で偶然デルタ波が見つかることがあります。 無症状でも心房細動を合併した場合には突然死リスクがゼロではないため、精密検査(電気生理学的検査)を紹介することが臨床的に適切です。
関連)https://cloud-dr.jp/medical-navi/disease/1356/
WPW症候群の読影においては、①PQ短縮の確認、②デルタ波の有無、③QRS幅の計測——この順で系統的に評価する習慣が誤診を防ぎます。
関連)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.18885/HV.0000001092
WPW症候群の詳細な副伝導路同定アルゴリズムや臨床管理指針については、以下の権威ある参考情報も確認してください。
副伝導路の位置同定アルゴリズムやA型・B型分類の詳細解説(東亜医療電子:心電図講座)。
WPW症候群の12誘導心電図解説PDF(東亜医療電子)
禁忌薬・治療指針の臨床根拠(大垣中央病院 循環器内科)。
WPW症候群の診断と治療(大垣中央病院)
MSDマニュアル プロフェッショナル版 WPW症候群の病態・治療。
MSDマニュアル:WPW症候群(プロフェッショナル版)
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