ESD治療の最新手技とガイドライン

ESD治療における最新の手技とガイドラインについて詳しく解説します。適応拡大から合併症対策まで、医療従事者が知っておくべき重要なポイントを網羅的に紹介していますが、どの程度まで理解できているでしょうか?

ESD治療の最新ガイドラインと手技

ESD治療の概要
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内視鏡的粘膜下層剥離術

高周波デバイスで病巣周囲の粘膜を切開し粘膜下層を剥離

📋
最新ガイドライン対応

2022年更新のESGEガイドラインに準拠した治療法

低侵襲治療

外科手術と比較して患者負担を大幅に軽減

ESD治療のガイドライン適応病変と適応拡大

ESD治療の適応については、日本胃癌学会および日本消化器内視鏡学会のガイドライン第2版で詳細に規定されています。
絶対適応病変

  • 2cmを超える肉眼的粘膜内癌(cT1a)、分化型癌、UL0と判断される病変
  • 3cm以下の肉眼的粘膜内癌(cT1a)、分化型癌、UL1と判断される病変

適応拡大病変

  • 2cm以下の肉眼的粘膜内癌(cT1a)、未分化型癌、UL0と判断される病変

適応拡大病変については現在JCOG1009/1010試験が進行中であり、長期予後に関するエビデンスの蓄積が待たれています。

 

相対適応病変の場合は、年齢や併存症により外科的胃切除が困難な症例において、推定リンパ節転移率を考慮した上で患者の十分な理解と同意のもとに実施されます。

ESD治療の具体的手技とナイフの選択

ESD治療の手技は以下のような段階的なプロセスで実施されます:
マーキングと前処置

  • 病変周囲にマーキングを配置し、切除範囲を決定
  • 粘膜下層にヒアルロン酸ナトリウムや生理食塩水を局注
  • 病変を挙上させ、周囲組織との分離を促進

切開・剥離手技

  • フラッシュナイフやITナイフによる病変周囲の粘膜切開
  • 弧状の切開でフラップを作成し、粘膜下層に緩やかに潜り込む
  • スコープの捻りによる回転操作で安定したデバイス操作を実現

体位変換の重要性
重力と粘膜の張力を効率的に利用するため、病変を水のたまる位置の対側に持ってくることで、切開剥離時の展開が格段にしやすくなります。
大腸ESDの特殊考慮事項
大腸では病変の局在やスコープ操作性により治療難易度が大きく変動するため、ヒダにまたがる病変や屈曲部の病変では、ハイボリュームセンターでの治療を考慮する必要があります。

ESD治療における合併症とその対策

ESD治療における主要な合併症とその発生率、対策について詳しく解説します。
術中・術後出血 📊

  • 発生率:数パーセント
  • 胃ESD後の出血では緊急内視鏡による止血術が必要
  • 食道・大腸では頻度が低く、多くは自然止血

穿孔 ⚠️

  • 全体の発生率:約5%前後
  • 大腸では最も頻度が高く約10%弱
  • 小さな穿孔はクリップで閉鎖可能
  • 大きな穿孔では緊急手術が必要

遅発性合併症

  • 遅発性穿孔:低頻度だが緊急手術が必要
  • 術後疼痛・違和感:数日以内に自然軽快
  • 術後発熱:微熱が多く、高熱時は抗生剤投与を検討

合併症予防策
安全なESD実施のため、徐々に深い層(粘膜下層上1/3→中央→下1/3→筋層直上)へ進む手技が重要です。また、病変の特徴を術前に十分評価し、自身の技量で完遂可能かどうかの判断が不可欠です。

ESD治療の治療成績と長期予後

最新の治療成績データによると、ESD治療は優れた長期予後を示しています。
大腸ESDの治療成績

  • 5年全生存率:93.6%
  • 疾患特異的生存率:99.6%
  • 腸管温存率:88.6%
  • 治癒切除例の腸管温存率:98%

胃癌ESDの長期予後
早期胃癌外科手術例における他病死を除いた5年生存率は、pT1aで99.3%、pT1bで96.7%と極めて良好な成績が報告されています。

 

QOL(生活の質)の向上
ESDは粘膜下層までの切除であるため、治療前とほぼ同様の生活を送ることができ、外科切除後に必発する小胃症状によるQOL低下を回避できます。
適応拡大病変の予後
現在進行中のJCOG0607試験では、適応拡大病変に対するESDの5年生存割合が外科切除成績と同等であることの検証が行われており、将来的にESDが標準治療となる可能性が示唆されています。

 

ESD治療の最新技術動向と今後の展望

ESD治療技術は近年著しい進歩を遂げており、より安全で効率的な治療法の開発が続いています。
技術革新のポイント 🔧

  • 新型ナイフの開発による切開・剥離効率の向上
  • 拡大内視鏡技術の発達による病変範囲の正確な診断
  • AI技術を活用した病変深達度診断の精度向上

Hybrid ESD技術
最後はスネアで切除するハイブリッド手技により、従来のESDよりも手技時間の短縮が可能となっています。スネアが十分に粘膜下層に食い込む程度まで剥離を行えばよいため、全周切開も可能です。

 

教育・トレーニングシステムの確立
高リスクな穿孔や出血を避けるため、段階的なトレーニングシステムと安全な手技習得のための教育プログラムが整備されています。

 

国際ガイドラインの動向
2022年に更新されたESGE(European Society of Gastrointestinal Endoscopy)ガイドラインでは、ESDが表在性食道扁平上皮癌および表在性胃病変に対する第一選択治療として推奨されています。
将来の展望 🚀

  • ロボット支援ESDの臨床応用
  • バイオマーカーを用いたリンパ節転移予測
  • 組織再生技術との組み合わせによる合併症軽減

これらの技術革新により、ESD治療はより多くの患者に安全で効果的な治療選択肢を提供できるようになると期待されています。

 

日本胃癌学会の最新ESDガイドライン - 内視鏡的切除の詳細な適応基準と手技について
胃癌に対するESD/EMRガイドライン(第2版)- 治療方針決定のための包括的指針
Safe and Efficient Procedures and Training System for Endoscopic Submucosal Dissection - 安全で効率的なESD手技と教育システム