DFAT細胞特徴と多分化能の解析研究動向

成熟脂肪細胞由来のDFAT細胞が示す間葉系幹細胞様の特性と多分化能について最新研究データを基に詳細解説。天井培養による調製法から血管新生、軟骨再生への応用まで幅広く紹介。医療従事者必見の再生医療実用化への可能性とは?

DFAT細胞特徴と分化能

DFAT細胞の基本特性
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脱分化現象

成熟脂肪細胞から線維芽細胞様形態への転換

高い増殖能

間葉系幹細胞に類似した細胞分裂活性

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多分化能

骨・軟骨・血管・心筋への分化可能

DFAT細胞の定義と形態学的特徴

DFAT細胞(脱分化脂肪細胞:Dedifferentiated Fat Cell)は、成熟脂肪細胞を「天井培養」という特殊な培養法で培養することにより人工的に作り出される多能性細胞です。この細胞は間葉系幹細胞に類似した性質を示し、骨、軟骨、脂肪、血管、心筋などへの分化能力を有しています。
形態学的な特徴として、培養開始後2-3日で成熟脂肪細胞がフラスコ天井側に付着し、細胞分裂により線維芽細胞様の形態を示すDFATが産生されます。産生されたDFATは分裂増殖を繰り返し、約1週間で培養皿全体に拡がります。成熟脂肪細胞マーカーの発現が完全に消失する一方、Runx2、Sox9、平滑筋αアクチンといった骨、軟骨、平滑筋の初期分化マーカーが発現していることから、間葉系前駆細胞の形質をもった細胞群であると考えられています。

DFAT細胞の表面抗原と分子学的特徴

DFAT細胞の細胞表面抗原は、培養骨髄間葉系幹細胞(BM-MSC)や脂肪由来間葉系幹細胞(ASC)にほぼ一致した発現プロファイルを示します。具体的には、間葉系幹細胞のminimal criteriaに合致した細胞表面抗原発現プロファイルを有しており、CD90、CD105、CD73などの間葉系幹細胞マーカーが陽性を示す一方、CD34、CD45などの造血系マーカーは陰性となります。
分子学的特性として注目すべきは、DFAT細胞が沿軸中胚葉由来の細胞のみならず、臓側中胚葉由来の血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、心筋細胞へも分化転換可能であることです。これは従来の間葉系幹細胞よりも広範囲な分化能を有していることを示しており、再生医療応用における大きなアドバンテージとなっています。

DFAT細胞の多分化能と増殖活性

DFAT細胞は適切な分化誘導培地で培養することにより、脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、骨格筋細胞、筋線維芽細胞などに分化する能力を持ちます。油赤O染色陽性の脂肪細胞、カルシウム沈着を伴う骨芽細胞、II型コラーゲン陽性の軟骨細胞、平滑筋αアクチン陽性の平滑筋様細胞への分化が組織学的に確認されています。
特筆すべきは、DFAT細胞が種々の血管新生因子を豊富に分泌するとともに、血管を構成する細胞への分化能を有し、安定した高い血管新生能を示すことです。これにより重症下肢虚血などの血管系疾患に対する細胞治療への応用が期待されています。
また、増殖活性の面では、高い細胞分裂能を示し、少量の脂肪組織から大量の細胞を調製することが可能です。生体から採取した1g程度の皮下脂肪組織及び吸引脂肪から大量に純度の高い細胞を調製でき、全身状態の不良な患者や小児、高齢者からも低侵襲に作製できる利点があります。

DFAT細胞の安全性と調製法の優位性

DFAT細胞の大きな特徴として、間葉系幹細胞と同様に未分化な状態で移植しても腫瘍を形成せず、安全に移植できることが動物実験で確認されています。これはiPS細胞のような全能性幹細胞とは異なり、テラトーマ形成のリスクが低いことを意味し、臨床応用における安全性の観点から重要な特性です。
調製法においても、以下のような優位性があります。

  • 純度の高い細胞調製:煩雑な選別操作なしで純度の高い細胞が得られる
  • 微量組織での調製:組織採取量が微量(1g以下)で済むため、全身状態が不良な患者や高齢者からも調製可能
  • 年齢・病状非依存性:患者の年齢や病状に左右されず、少量の脂肪から品質の高い細胞を大量に作成できる
  • 短期間調製:遺伝子操作やウイルスベクターなどを用いない簡便な方法で短期間に大量調製が可能

天井培養という培養法により、成熟脂肪細胞から約1週間でDFAT細胞への転換が完了し、継代培養を必要とせずP1で移植可能な状態となります。これにより、低コストで実用的な治療用細胞として早期の臨床応用が期待できます。

DFAT細胞のiPS細胞誘導効率と臨床応用展望

DFAT細胞は皮膚繊維芽細胞と比較して、iPS細胞への誘導効率が有意に高いことが明らかになっています。センダイウイルスベクターを用いた山中4因子の遺伝子導入により、DFAT細胞からのiPS細胞コロニー誘導効率は、標準的な供給源である皮膚繊維芽細胞(BJ、HDF)に比べて有意に高い値を示しました。誘導されたiPS細胞は、RT-PCR法にて検討した胚性幹細胞マーカー25因子すべての発現が認められ、Nanog、Oct3/4、SSEA-3、TRA1-60などの多能性マーカーに強陽性を示しました。
臨床応用の展望として、DFAT細胞を用いた再生医療は急速に実用化が進んでいます。2020年には重症下肢虚血患者に対する世界初の自家DFAT細胞を用いた血管再生医療の臨床研究が開始され、2024年12月には変形性膝関節症に対する自家DFAT細胞移植の臨床研究が再生医療等提供基準に適合している旨の判定を受けました。
日本大学医学部細胞再生・移植医学分野におけるDFAT細胞研究の詳細
さらに外科手術時に廃棄される脂肪組織を利用することにより、バンキングシステムの構築も容易であると考えられており、将来的には同種移植用の細胞ソースとしての活用も期待されています。これらの特性により、DFAT細胞は次世代の再生医療において中核的な役割を果たす細胞として位置づけられています。
AMED発表:DFAT細胞を用いた世界初の血管再生医療臨床研究について