「CHA2DS2-VAScスコアが高いほど、抗凝固薬を使えば必ず脳梗塞を防げる」と思っていませんか?実はスコア1点の患者への抗凝固薬投与で、出血リスクがメリットを上回る可能性があります。

CHA2DS2-VAScスコアは、非弁膜症性心房細動(NVAF)患者の脳梗塞発症リスクを定量的に評価するために考案された指標です。 各項目の配点は以下のとおりです。
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| 略字 | 危険因子 | 点数 |
|---|---|---|
| C | うっ血性心不全・左室機能不全 | 1点 |
| H | 高血圧 | 1点 |
| A₂ | 年齢 75歳以上 | 2点 |
| D | 糖尿病 | 1点 |
| S₂ | 脳卒中・TIAの既往 | 2点 |
| V | 血管疾患(心筋梗塞既往・末梢動脈疾患・大動脈プラーク) | 1点 |
| A | 年齢 65〜74歳 | 1点 |
| Sc | 女性 | 1点 |
最大スコアは9点で、点数が高いほど年間脳梗塞発症リスクが上昇します。 このスコアはもともと、CHADS2スコア0〜1点と評価された「低リスク群」の中からさらに真の低リスク者を識別するために開発されました。
関連)https://pharmacista.jp/contents/skillup/academic_info/cardiology/3045/
CHADS2スコア1点で年間脳梗塞発症率は約2.8%/年ですが、これはCHA2DS2-VAScスコアでは3点相当に対応します。 つまり、CHADS2スコアで0点や1点でも、VAScの追加因子(血管疾患・65〜74歳・女性)がそろっていれば抗凝固薬開始を検討すべき場合があります。これは重要な知識です。
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ファーマシスタ:CHADS2スコアとCHA2DS2-VAScスコアの詳細解説(薬剤師向け)
ここが臨床で最も混乱しやすいポイントです。欧米のESCガイドラインと日本のガイドラインでは、スコアの使い方に明確な違いがあります。
2024年改訂のESCガイドラインでは、CHA2DS2-VAスコア(女性因子を除いた改訂版)を採用し、スコア≧2でクラスI推奨、スコア=1でクラスIIa推奨と位置づけています。 注目すべきは、2024年版から「女性」が独立したリスク因子として点数から外れた点です。 これは従来の常識を覆す大きな改訂です。
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一方、日本循環器学会の2020年改訂版「不整脈薬物治療ガイドライン」では、CHA2DS2-VAScスコアではなくCHADS2スコアを基本として採用しています。 理由は、日本人においてVASc追加3因子(血管疾患・65〜74歳・女性)が有意な独立危険因子として検証されていないためです。
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日本のガイドラインでは。
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結論は「日本と欧米でガイドラインが違う」です。国際論文を読む際と日本の実臨床では異なる基準が適用されることを常に念頭に置く必要があります。
日本循環器学会:2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン(全文PDF)
スコア1点への対応は、臨床現場で最も判断が難しい領域の一つです。
CHA2DS2-VAScスコア1点の患者における年間虚血性脳卒中リスクは約0.9%/年とされています。 この数値は低く見えますが、絶対数が多い低リスク群の患者の脳梗塞発生件数は全体に占める割合が大きいという逆説的な問題があります。
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抗凝固薬(特にワルファリン)は出血リスクを伴います。スコア1点では、出血によるデメリットが脳梗塞予防のメリットを上回る可能性があるため、エビデンスが乏しく一律の推奨が困難です。 痛いところですね。
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DOACの登場後は出血リスクが低下し、スコア1点への適応も議論されています。男性でスコア1点(女性のみが原因の場合はスコア1でも実質0点に相当)では抗血栓療法を行わない選択肢も許容されています。 「女性」のみの1点は特別な扱いを受けます。
抗凝固療法の可否を判断するにあたって、血栓リスクの評価だけでは不十分です。必ず出血リスクも並行して評価する必要があります。
ESCガイドラインでは、出血リスク評価ツールとしてHAS-BLEDスコアの使用が推奨されています。 HAS-BLEDスコアは高血圧・腎/肝機能障害・脳卒中既往・出血既往または素因・不安定なINR・高齢(>65歳)・薬物/アルコール使用などを評価するものです。
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重要な点は、出血リスクが高いからといって抗凝固薬を中止する理由にはならないということです。 ESCの2024年ガイドラインでは「出血予防のためのリスクスコアを抗凝固薬中止の根拠には使わない(クラスIII)」と明示されています。 修正可能な出血因子(降圧治療・INR管理・抗血小板薬の不必要な併用排除など)を徹底的に管理したうえで、抗凝固療法を継続することが原則です。
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これは使えそうです。出血リスクが高いからと安易に抗凝固薬を中断すると、かえって脳梗塞リスクを高める可能性があることを、患者指導の際にも伝えることが大切です。
土橋内科医院:2024 ESC心房細動ガイドライン改訂ポイント解説(日本語)
スコアで抗凝固療法の適応が決まったあと、次の問いは「どの薬を選ぶか」です。
DOACはダビガトラン・リバーロキサバン・アピキサバン・エドキサバンの4剤が日本でも使用可能です。非弁膜症性心房細動に対してはDOACがワルファリンより優先されます。 DOACを推奨する理由は、ワルファリンに対する優越性(主要脳卒中・全身性塞栓症の減少、または非劣性+頭蓋内出血の明らかな減少)が示されているためです。
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ただし、ワルファリンが依然として選ばれるケースもあります。
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日本のガイドラインでは、ワルファリン使用時のINR目標値として年齢によらず1.6〜2.6を基本とし(70歳未満の高リスク例はINR 2.0〜3.0を考慮)、これはESCの2.0〜3.0とは異なります。 日本人の出血リスクに配慮した独自の基準です。これが原則です。
関連)https://www.jcc.gr.jp/members/kaiininfo/data/2020.08.MedicalTribune.pdf
多くの医療従事者がスコアの計算方法を知っていても、「女性」因子の解釈には混乱が生じやすい現状があります。
従来のCHA2DS2-VAScスコアでは女性に1点が加算されますが、これは「女性であること自体が独立したリスク因子」ではなく、「女性は同じリスク因子を持つ男性と比べて脳梗塞になりやすい」という修正係数的な意味合いがありました。 そのため、女性1点のみ(他のリスク因子なし)は実質的な低リスクとして扱われてきました。
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2024年ESCガイドライン改訂では、この議論に決着がつきました。女性因子をスコアから外し、新たに「CHA2DS2-VAスコア」として運用することが推奨されています。 この変更により、女性患者のスコアが実質的に1点下がるケースが生じます。意外ですね。
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日本の現場への示唆
さらに、CHA2DS2-VAScスコアはあくまでNVAF(非弁膜症性心房細動)に適用するスコアです。弁膜症性心房細動(特に機械弁・リウマチ性僧帽弁狭窄)にはスコアに関係なく抗凝固療法が必須となり、スコアは適用外です。 「スコアが低いから抗凝固薬不要」という判断は弁膜症性では成り立ちません。これだけ覚えておけばOKです。
斎藤クリニック:CHADS2とCHA2DS2-VAScの比較解説(2025年更新)
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