エドキサバンの最も重要な副作用は出血性合併症であり、第Xa因子の直接阻害作用により抗凝固効果が発現する反面、出血リスクが増加します。ENGAGE AF-TIMI 48試験では、エドキサバン高用量群(60mg)において副作用発現頻度が28.9%(2,024/7,012例)で、主な副作用として鼻出血6.2%(434/7,012例)、血尿3.5%(247/7,012例)が報告されています。
参考)医療用医薬品 : リクシアナ (リクシアナOD錠15mg 他…
出血性副作用の重症度には幅があり、軽微な皮下出血や鼻出血から、致死的となりうる消化管出血(1.3%)、頭蓋内出血(0.3%)、眼内出血(0.2%)まで多岐にわたります。特に消化管出血、頭蓋内出血、後腹膜出血などの重大な出血は死亡に至る可能性があるため、臨床的に問題となる出血が認められた場合には直ちに投与を中止する必要があります。
参考)リクシアナ錠30mgの効能・副作用|ケアネット医療用医薬品検…
| 出血部位 | 発現頻度 |
|---|---|
| 鼻出血 | 1~10%未満 |
| 血尿 | 1~10%未満 |
| 皮下出血 | 1~10%未満 |
| 消化管出血 | 1.3% |
| 頭蓋内出血 | 0.3% |
| 眼内出血 | 0.2% |
出血リスク管理において重要なのは、定期的な臨床観察と患者への適切な服薬指導です。手術や侵襲的処置を予定している患者では、通常手術の24時間前からエドキサバンを休薬し、術後の出血リスクが低下した時点で再開することが推奨されます。
参考)エドキサバントシル酸塩水和物(リクシアナ) href="https://kobe-kishida-clinic.com/respiratory-system/respiratory-medicine/edoxaban-tosilate-hydrate/" target="_blank">https://kobe-kishida-clinic.com/respiratory-system/respiratory-medicine/edoxaban-tosilate-hydrate/amp;#8211; …
エドキサバンによる薬剤性肺障害は頻度不明とされていますが、臨床上注意すべき重大な副作用です。間質性肺疾患では、咳嗽、息切れ、呼吸困難、発熱、肺音異常などの症状が出現し、血痰や肺胞出血を伴う場合があります。
参考)リクシアナ錠60mgの効果・効能・副作用
実際の症例報告では、エドキサバン内服開始2ヶ月後に微熱と経皮的酸素飽和度の低下が出現し、胸部CTで両側肺野に広範なすりガラス様陰影を認め、気管支肺胞洗浄液ではリンパ球増多が確認されました。薬剤性肺障害と診断し、エドキサバンを中止してステロイドパルス療法を行うことで速やかな改善が得られています。
参考)https://is.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/ajrs/006040260j.pdf
同じ活性化凝固第X因子阻害薬であるリバーロキサバンやアピキサバンによる薬剤性肺障害の報告も年々増加しており、重症化してステロイド投与が必要となる例が見られるため、エドキサバンにおいても肺障害の発生に留意し、注意深く経過観察を行う必要があります。
疑わしい症状が認められた場合には、速やかに胸部X線、胸部CT、血清マーカー(SP-D、KL-6など)の検査を実施し、間質性肺疾患が疑われた場合には投与を中止し、副腎皮質ホルモン剤の投与などの適切な処置を行うことが重要です。
参考)リクシアナ錠15mgの効能・副作用|ケアネット医療用医薬品検…
経口抗凝固薬の投与後には急性腎障害があらわれることがあり、これは抗凝固薬関連腎症として知られています。この病態では血尿を認めるものや、腎生検により尿細管内赤血球円柱を多数認めるものが報告されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/111/6/111_1157/_pdf
抗凝固薬関連腎症の発症機序として、尿中の高濃度ヘモグロビンが近位尿細管のレセプターに接着することで産生される活性酸素が尿細管細胞膜を傷害し、アポトーシスやネクローシスの原因となること、赤血球円柱による尿細管閉塞が局所的にネフロンでの糸球体灌流量を低下させることなどが考えられています。
臨床症例では、エドキサバン内服中に肉眼的血尿とともに食思不振等の全身症状が出現し、腎機能の急激な悪化が認められたケースがあります。腎生検では赤血球円柱による尿細管閉塞が確認され、エドキサバンを中止したことで腎機能の改善が得られましたが、eGFR 30 ml/min/1.73 m²程度の腎障害が残存しました。
抗凝固薬の内服開始後数カ月以内に急性腎障害の発症が認められた場合は、抗凝固薬関連腎症の可能性を念頭に置き、腎生検を考慮する必要があります。予防策としては、抗凝固薬開始後に定期的な腎機能のフォローを行い、早期発見に努め、抗凝固薬を適切な用量に調節することが重要です。
エドキサバンによる肝機能障害は頻度不明ですが、AST上昇、ALT上昇等を伴う肝機能障害や黄疸があらわれることがあります。その他の副作用として、1~10%未満で肝機能異常、1%未満でγ-GTP上昇、ALT上昇、ビリルビン上昇、AST上昇、ALP上昇、LDH上昇が報告されています。
参考)リクシアナ錠15mg 他の添付文書/電子添文(副作用など)、…
血小板減少症も頻度不明ながら重大な副作用として報告されており、定期的な血液検査によるモニタリングが必要です。血小板減少症が認められた場合には出血リスクがさらに増大するため、慎重な経過観察と必要に応じた投与中止の判断が求められます。
その他、1~10%未満の頻度で貧血、1%未満で血小板数増加や好酸球増多が報告されています。貧血はエドキサバン投与中の主要な副作用の一つであり、非弁膜症性心房細動患者を対象とした国内臨床試験では3.3%(16/492例)で認められました。
エドキサバンでは過敏症反応として、発疹、そう痒(1%未満)、血管浮腫、蕁麻疹(頻度不明)が報告されています。血管浮腫やアナフィラキシー反応は重篤な過敏症であり、本剤成分に対し過敏症の既往歴のある患者は禁忌とされています。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2014/P201400133/430574000_22300AMX00547000_B100_1.pdf
これらの過敏症反応は投与開始後比較的早期に出現することがあるため、初回投与時から数日間は特に注意深い観察が必要です。過敏症反応が疑われた場合には直ちに投与を中止し、適切な処置を行う必要があります。
参考)リクシアナOD錠60mgの効能・副作用|ケアネット医療用医薬…
その他の副作用として、精神神経系では1%未満で頭痛、頻度不明で浮動性めまい、消化器系では1%未満で下痢、頻度不明で悪心や腹痛が報告されています。また、頻度不明の副作用として浮腫、尿酸上昇、トリグリセリド上昇、発熱なども知られています。
エドキサバンは主に腎臓から排泄されるため、腎機能低下患者では血中濃度が上昇し、出血リスクが増大します。非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制では、通常成人に60mgを1日1回経口投与しますが、体重60kg以下、中等度の腎機能障害(クレアチニンクリアランス30~50 mL/min)、または特定のP-糖タンパク質(P-gp)阻害薬を併用する患者では30mgへの減量が必要です。
参考)医療用医薬品 : リクシアナ (リクシアナ錠15mg 他)
高度の腎機能障害(クレアチニンクリアランス15~30 mL/min未満)を有する患者への投与は禁忌とされており、透析患者を含む高度腎機能障害患者では使用できません。腎機能は経時的に変化するため、定期的な腎機能検査(3~6ヶ月ごと)を実施し、必要に応じて用量調整を行うことが副作用予防に重要です。
参考)https://www.ho.chiba-u.ac.jp/pharmacy/No13_sotsugo1_0422.pdf
| 腎機能 | クレアチニンクリアランス | 推奨用量(NVAF) |
|---|---|---|
| 正常~軽度低下 | >50 mL/min | 60mg 1日1回 |
| 中等度低下 | 30~50 mL/min | 30mg 1日1回 |
| 高度低下 | 15~30 mL/min | 投与禁忌 |
| 末期腎不全 | <15 mL/min | 投与禁忌 |
実際の臨床例では、80歳の女性患者が体重減少により60kg以下になった際、用量調整を行わずに標準量を継続していたため軽度の出血傾向が見られ、速やかに30mgへ減量したところ症状が改善し安全に治療を継続できたケースが報告されています。
エドキサバンはP-糖タンパク質(P-gp)の基質であり、P-gp阻害薬との併用により血中濃度が上昇し、出血リスクが増加します。P-gp阻害作用を有する薬剤として、アミオダロン、ベラパミル、キニジン、ドロネダロン、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、ケトコナゾール、シクロスポリンなどが知られており、これらの薬剤との併用時には慎重な投与が必要です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3781304/
シクロスポリン500mg単回経口投与がエドキサバンと活性代謝物M4の最高血中濃度をそれぞれ1.7倍と8.2倍に上昇させることが報告されています。低用量シクロスポリンでも、P-gpの50%阻害濃度を超えるため相互作用が容易に起こり、出血性イベントのリスクが増加します。実際の臨床研究では、P-gp阻害薬が9例で併用されており、これが出血リスクの増加に寄与していました。
参考)エドキサバンによる出血性イベントに及ぼす低用量シクロスポリン…
一方、リファンピシンなどのP-gp誘導薬との併用では、エドキサバンの血中濃度が低下し、抗凝固効果が減弱する可能性があります。P-gp誘導薬は2例で使用され、エドキサバンの有効性を潜在的に低下させる可能性が指摘されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4488474/
エドキサバンは主にカルボキシエステラーゼ-1により代謝され、CYP3A4/5による代謝は10%未満と限定的ですが、P-gpとCYP3A4の両方を阻害する薬剤との併用では、より顕著な相互作用が生じる可能性があります。薬物相互作用を適切に管理するため、併用薬の確認と必要に応じた用量調整が重要です。
参考)https://www.jseptic.com/journal/75.pdf
高齢者、特に80歳以上の患者では、加齢に伴う腎機能低下、体重減少、併存疾患、多剤併用などにより出血リスクが増大します。高齢の患者(80歳以上を目安とする)で、体重50kg以下かつクレアチニンクリアランス30~50mL/minのいずれも満たす場合、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合のみ、1日1回15mgに減量できます。
参考)高齢者へのDOAC、本当に減量・中止すべき患者とは/日本循環…
ELDERCARE-AF試験では、既存の経口抗凝固薬を承認された用法及び用量で投与することが困難な80歳以上の出血リスクの高い非弁膜症性心房細動患者を対象に、エドキサバン15mgとプラセボを比較しました。主要評価項目である脳卒中および全身性塞栓症の年間発現率は、エドキサバン群2.3%に対しプラセボ群6.7%で、エドキサバン群の優越性が示されました。重大な出血の年間発現率は、エドキサバン群3.3%に対しプラセボ群1.8%で、エドキサバン群において高い傾向にありましたが、致死的な出血や頭蓋内出血は両群間で差はありませんでした。
参考)https://www.daiichisankyo.co.jp/media/press_release/detail/index_5542.html
高齢者へのDOAC投与では、減量基準に該当しなければ用量を守り、減量基準を満たす患者は減量したうえで、いかに出血の関連リスクを減らせるかが重要です。ENGAGE AF-TIMI 48試験の事後解析では、80歳以上の減量基準を満たさない患者においても、エドキサバン30mgはエドキサバン60mgとの比較で重大な出血が少なく、虚血性イベントは増加しなかったことが示されています。
参考)減量基準を満たさない80歳以上の心房細動患者、低用量エドキサ…
高齢者では定期的な腎機能検査、肝機能検査、体重測定を実施し、患者の状態変化に応じた用量調整と慎重な経過観察が副作用予防に不可欠です。特に出血症状(貧血、繰り返す鼻出血など)が見られた場合は、慎重に経過観察しつつ用量減量を考慮することで、出血症状を改善しながら脳卒中予防効果を維持することが可能です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/59/3/59_59.285/_pdf