CDAIスコアが150点未満でも、粘膜治癒が達成されていない患者が約4割存在します。
CDAIとは「Crohn's Disease Activity Index」の略称で、1976年にBestらによって開発されたクローン病の疾患活動性を数値化するための指標です。この指標は現在も国際的な臨床試験や日常診療の場で広く使われており、クローン病の標準的な評価ツールとして確立されています。
CDAIは以下の8項目を7日間にわたって記録し、それぞれに重み付け係数を乗じた後に合計して算出されます。
| 評価項目 | 係数 | 記録方法 |
|---|---|---|
| ①軟便・水様便の回数(7日間合計) | ×2 | 患者自記 |
| ②腹痛の程度(0〜3点×7日間合計) | ×5 | 患者自記 |
| ③一般状態(0〜4点×7日間合計) | ×7 | 患者自記 |
| ④合併症の有無(7項目) | ×20 | 医師判定 |
| ⑤下痢止め服用の有無 | ×30 | 患者自記 |
| ⑥腹部腫瘤の有無(0/2/5) | ×10 | 医師判定 |
| ⑦ヘマトクリット値からの偏差 | ×6 | 検査値 |
| ⑧標準体重との比(1−実測体重/標準体重) | ×100 | 測定値 |
合計スコアによる活動性の分類は以下の通りです。
特に「寛解」の定義となる150点未満という閾値は、多くの生物学的製剤の臨床試験でも一次エンドポイントとして採用されてきました。つまり治療効果の判定に直結するスコアです。
また、臨床的寛解からさらに「70点以上のスコア低下」を達成した状態を「臨床的奏効(clinical response)」と定義する試験も多く、単なる数値の低下だけでなく低下幅も重要になります。これが基本です。
係数⑦のヘマトクリット値は、男性では「47−実測値」、女性では「42−実測値」を使用します。貧血を伴うクローン病患者ではこの項目だけで数十点加算されることもあり、スコアへの影響が大きい点に注意が必要です。
参考:日本消化器病学会「炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2020」ではCDAIを含む活動性評価指標について記載があります。
CDAIが臨床的に便利なツールである一方、その本質的な限界について理解しておくことは医療従事者として不可欠です。
CDAIは8項目のうち約5項目が患者の主観的な自覚症状に基づいています。腹痛や一般状態、排便回数といった項目は患者の記録に依存するため、病態の客観的な炎症の程度を直接反映しない場合があります。意外ですね。
実際に複数の研究データにおいて、CDAIが寛解基準(150点未満)を満たしていても、内視鏡検査で活動性の粘膜潰瘍が残存していた患者が約30〜40%に上ることが報告されています。CDAIの低値だけで安心するのは危険です。
現代のクローン病診療では「Treat to Target(T2T)」戦略が主流となりつつあります。T2Tとは単なる症状改善だけでなく、内視鏡的粘膜治癒(Endoscopic Remission)を最終目標に据えた治療戦略のことです。粘膜治癒を達成した患者では、手術リスクや入院リスクが長期的に有意に低下することが示されています。
CDAIだけでT2Tの達成を判断することはできません。補完的な客観的指標が条件です。具体的には以下の指標との併用が推奨されています。
特にフェカルカルプロテクチン(FC)は、250µg/g以上で内視鏡的活動性との相関が高く、非侵襲的に炎症の残存を推定できる点で実用性が高いとされています。CDAIと組み合わせて定期モニタリングに活用する施設が増えています。
CDAIが低くてもFCが高値なら、粘膜治癒が達成されていない可能性を疑う必要があります。そこが大事です。
CDAIと並んでよく使われる活動性指標が「Harvey-Bradshaw Index(HBI)」です。両者の使い分けを正確に理解していない医療従事者が少なくありませんが、それぞれの特性を把握することが外来診療の精度向上に直結します。
HBIは1980年にHarveyとBradshawによって開発されたCDAIの簡略版です。7日間の記録が不要で、当日の状態だけで算出できる利便性が最大の特徴です。
| 比較項目 | CDAI | HBI |
|---|---|---|
| 記録期間 | 7日間 | 当日のみ |
| 項目数 | 8項目 | 5項目 |
| 寛解の閾値 | 150点未満 | 4点以下 |
| 主観性 | 高い | 高い(同様) |
| 臨床試験での採用 | 多い | 増加傾向 |
| 外来での簡便さ | 低い | 高い |
HBIのスコアリングは次の5項目から成ります。①一般状態(0〜4)、②腹痛(0〜3)、③腹部腫瘤(0〜3)、④1日の軟便・水様便回数(×1)、⑤合併症の有無(各1点)です。合計4点以下が寛解、5〜7点が軽症、8〜16点が中等症、17点以上が重症とされています。
CDAIとHBIの相関係数は0.93と非常に高いという報告があり、両者は概ね同様の活動性を反映すると考えられています。これは使えそうです。
ただし外来診療においては、CDAIの7日間記録を患者に毎回依頼するのは現実的に負担が大きいケースもあります。定期外来での簡易スクリーニングにはHBIが実用的であり、一方で臨床試験の組み入れ判断や生物学的製剤の治療効果判定の文脈ではCDAIが依然として標準として用いられることが多い、という使い分けが実際には行われています。
HBIの結果をCDAIに換算する簡易式「CDAI ≒ HBI × 38 + 24」も報告されており、記録の互換性を保ちながら評価軸を統一したい場面で参照されることがあります。ただしあくまで近似値であり、過信は禁物です。
CDAIスコアは、クローン病に対する治療介入の判断基準としても深く組み込まれています。どのスコア帯でどの治療選択肢が検討されるか、体系的に理解しておくことが治療方針の迷いを減らします。
一般的な治療ステップは以下のように整理されます。
生物学的製剤の保険適用における活動性の定義は薬剤によって異なりますが、インフリキシマブ(レミケード®)やアダリムマブ(ヒュミラ®)の添付文書・臨床試験ではCDAI 220以上が中等症〜重症の目安として参照されています。
また、ウステキヌマブ(ステラーラ®)の国内承認試験(IM-UNIFI試験)でも、CDAIが組み入れ基準の一部として活用されていました。スコアが治験参加適格性に直結するということですね。
重要なのは「ステロイド依存例」や「ステロイド抵抗例」への対応です。ステロイドで一時的にCDAIが低下しても、その後の再燃や依存が繰り返される場合は免疫調節薬や生物学的製剤への早期切り替えを検討する必要があります。ステロイドのスコア改善を過信するのは危険です。
栄養療法については、特にCDAI 200〜350程度の活動期において成分栄養剤(エレンタール®など)の摂取が腸管の炎症を軽減し、CDAIを有意に低下させるという国内データが蓄積されています。薬物療法との並行で管理栄養士と連携した栄養指導体制を整えることが、長期的な疾患コントロールに寄与します。
Mindsガイドラインライブラリ|クローン病診療ガイドライン(推奨内容と治療フロー)
これは検索上位ではあまり触れられていない独自視点ですが、実臨床上きわめて重要な観点です。
CDAIの8項目には、肛門病変(痔瘻・肛囲膿瘍など)の活動性を直接評価する項目が存在しません。合併症の有無として「痔瘻」は1点加算されますが、活動性の程度(排膿量・疼痛・感染の有無)については全く反映されない構造になっています。
クローン病患者の約30〜40%が肛門病変を合併するとされており(一部報告では50%超)、肛門病変の活動性が高い状態であっても腸管のCDAIが低ければ「寛解」と判定されてしまうケースが存在します。これは臨床上の盲点です。
肛門病変の評価には「PDAI(Perianal Disease Activity Index)」が専用指標として存在します。PDAIは排膿・疼痛・日常活動制限・肛門皮膚病変・硬結の5項目で構成され、4点以下が寛解とされています。肛門病変を抱えるクローン病患者ではCDAIとPDAIの両方を定期的に評価することが推奨されます。
また、見落とされがちなのが患者の心理的・精神的負担の評価です。クローン病患者ではうつ病や不安障害の合併率が一般人口の2〜3倍程度と報告されており、HRQoL(健康関連QOL)の低下が疾患活動性と独立して存在することが示されています。CDAIが寛解域でも患者のQOLが著しく低い場合は要注意です。
QOL評価ツールとしてはIBDQ(Inflammatory Bowel Disease Questionnaire)の使用が推奨されており、CDAIとIBDQの乖離が大きい患者では、心理的サポートや精神科・心療内科との連携が治療の質を高める可能性があります。患者の訴えを「症状コントロールが悪いのか」「心理的苦痛が前景に出ているのか」を丁寧に切り分けることが、外来診療のレベルを大きく左右します。
CDAIだけに頼らない多面的評価が原則です。
国立精神・神経医療研究センター|炎症性腸疾患と精神・心理的合併症についての解説