トルコ鞍 下垂体窩の解剖学的構造と臨床的意義

トルコ鞍と下垂体窩の解剖学的特徴や機能、関連疾患について詳しく解説します。医療従事者が知っておくべき構造的特性と病理学的変化について理解できるでしょうか?

トルコ鞍 下垂体窩の構造

トルコ鞍 下垂体窩の基本構造
🏛️
解剖学的位置

頭蓋底中央部の蝶形骨にある鞍状の陥凹部位

🧠
機能的役割

下垂体を保護し、ホルモン分泌機能を支える重要な骨構造

📏
形状特性

前後が盛り上がり中央が凹んだ古代トルコの鞍に類似

トルコ鞍の基本的解剖学的構造

トルコ鞍は蝶形骨体上面の中央部に位置する鞍状の陥凹部位で、ラテン語名「sella turcica」から命名されています 。この名称は1664年にイギリスの医師トーマス・ウィリスが解剖学書「Cerebri anatome」で、古代トルコ人が使用していた鞍の形状に類似していることから付けられました 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AB%E3%82%B3%E9%9E%8D

 

下垂体窩(hypophysial fossa)はトルコ鞍の中央部に位置する深いくぼみで、下垂体が収納される解剖学的空間です 。頭蓋の内側の内頭蓋底において中頭蓋窩の正中部に存在し、蝶形骨から形成されています 。
参考)https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/orthodontics/36427

 

この構造の特徴的な形状は以下のようになっています:


  • 前方:鞍結節(tuberculum sellae)という横走する稜が境界を形成
    参考)https://funatoya.com/funatoka/anatomy/spalteholz/J605.html


  • 中央:横位楕円形の下垂体窩が陥凹している

  • 後方:鞍背(dorsum sellae)という上方に突出した骨板が存在

  • 側方:後床突起(posterior clinoid process)が両側に突出

下垂体窩のサイズと形態的特性

下垂体窩の大きさは個体差がありますが、一般的な測定値として前後径約8-12mm、横径約10-14mmの範囲内にあることが知られています 。下垂体そのものは非常に小さな器官で、前後径約8mm、幅約10mm、重量は男性で約0.5g、女性ではやや重いとされています 。
参考)https://imidas.jp/genre/detail/F-135-0050.html

 

下垂体窩の形態は年齢や性別、病理学的状態によって変化することが報告されています。特に下顎前突症患者においては、下垂体窩の形態変化と顎顔面形態との関連性が指摘されており、成長ホルモンの分泌亢進による影響が示唆されています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjoms1967/28/11/28_11_1831/_pdf/-char/ja

 

トルコ鞍の構造的特徴として、前端がやや高く、中央部は平坦かやや凹み、後端が相当高い形状を取ることが特徴的です 。この三次元的な構造により、下垂体は安定して保護された環境に置かれています。

下垂体窩と周囲組織との関係性

下垂体窩は単独で存在するのではなく、周囲の重要な解剖学的構造物と密接な関係を持っています。下垂体は鞍隔膜(diaphragma sellae)という膜構造によって蓋をされるように被覆されており、この膜は本来くも膜の一部です 。
参考)https://seibu.marianna-u.ac.jp/medical/cases/10524/

 

周囲組織との位置関係は以下のように整理されます:

頭蓋骨の最内側は硬膜によって裏打ちされており、トルコ鞍も例外ではありません 。下垂体の外側には硬膜があり、その外側に薄い骨があり、さらに外側は鼻粘膜で被覆された蝶形骨洞の空洞となっています 。

トルコ鞍空洞症候群の病理学的変化

トルコ鞍空洞症候群(Empty Sella Syndrome)は、トルコ鞍と下垂体窩の病理学的変化を理解する上で重要な疾患です 。この病態では、脳脊髄液とトルコ鞍を分離する障壁に欠損が生じ、髄液が下垂体とトルコ鞍壁を圧迫することで、トルコ鞍の拡大と下垂体の扁平化が起こります 。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/12-%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%81%A8%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E4%B8%8B%E5%9E%82%E4%BD%93%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E3%83%88%E3%83%AB%E3%82%B3%E9%9E%8D%E7%A9%BA%E6%B4%9E%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4

 

発症メカニズムとして、以下の要因が関与します:


  • 一次性:先天的な鞍隔膜の欠損や脆弱性

  • 二次性:下垂体手術、放射線療法、下垂体腫瘍の梗塞後に発生

  • リスク因子:過体重と高血圧のある中年女性に多く発症

画像診断では、CT検査やMRI検査でトルコ鞍が髄液で満たされ空洞に見える特徴的な所見が認められます 。多くの場合は無症状で経過しますが、約半数で頭痛が生じ、まれに髄液鼻漏や視覚障害が発生することがあります 。

下垂体腫瘍とトルコ鞍の形態変化

下垂体腫瘍は原発性脳腫瘍の約22%を占める比較的頻度の高い疾患で、その多くは下垂体腺腫です 。腫瘍の成長に伴い、トルコ鞍と下垂体窩の形態に特徴的な変化が現れます。
参考)https://www.med.fukuoka-u.ac.jp/neurosur/patient_disease_0203.html

 

先端巨大症を引き起こす下垂体腫瘍では、以下の画像所見が特徴的です:
トルコ鞍の変化


  • トルコ鞍の拡大

  • 二重底(double floor)の所見

  • 鞍背の菲薄化や破壊

頭蓋骨の二次的変化


  • 前頭洞や副鼻腔の拡大

  • 頭蓋冠の肥厚

  • ネアンデルタール人様の眼窩上隆起

腫瘍の進展方向として、上方(鞍上部)、側方(海綿静脈洞)、下方(蝶形骨洞)への拡大が認められ、それぞれ特有の臨床症状を引き起こします 。
腫瘍による圧迫症状として、視神経圧迫による両耳側半盲、正常下垂体組織の圧迫による下垂体機能低下症、頭蓋内圧亢進による頭痛などが挙げられます 。これらの症状は腫瘍のサイズと進展方向に密接に関連しており、早期診断と適切な治療が重要となります。
参考)https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000129/