テトラヒドロ葉酸と葉酸の違いとは?活性型や代謝の仕組みを解説

テトラヒドロ葉酸と通常の葉酸は体内での働きが大きく異なります。活性型葉酸としてのテトラヒドロ葉酸の特性や代謝経路の違いについて詳しく解説します。あなたは正しい葉酸を選べていますか?

テトラヒドロ葉酸と葉酸の基本的な違い

テトラヒドロ葉酸と葉酸の主な違い
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テトラヒドロ葉酸(THF)

体内で即座に利用できる活性型葉酸として存在し、代謝変換の必要がない

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通常の葉酸(Folic Acid)

化学合成された形態で、体内で数段階の変換を経て活性型になる必要がある

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代謝効率の差

日本人の約66%が持つ遺伝子変異により、葉酸の代謝効率に大きな個人差がある

テトラヒドロ葉酸の構造と活性型としての特徴

テトラヒドロ葉酸(THF)は、プテリン環、パラアミノ安息香酸、グルタミン酸が結合した構造を持つ活性型葉酸です。体内では主に5-メチルテトラヒドロ葉酸(5-MTHF)の形で血液中に存在し、細胞分裂や核酸合成に直接関与できる状態にあります。
通常のサプリメントに使用される葉酸(Folic Acid)とは根本的に異なる点は、テトラヒドロ葉酸がすでに還元された状態であることです。この化学構造の違いにより、体内での利用効率に大きな差が生じます。
参考)https://www.health-veg.com/column/383

 

食品中の葉酸は主にテトラヒドロ葉酸の形態で存在し、通常は複数のグルタミン酸残基を有してポリグルタミン酸を形成しています。これらの天然型葉酸は、腸管で吸収される際にモノグルタミン酸型に変換されますが、その後の代謝過程で直接活用できる利点があります。
緑黄色野菜に含まれるテトラヒドロ葉酸は、光呼吸という光合成の代謝にも関与しているため、ほうれん草では210μg/100gの高い含有量を示します。一方、動物性食品では卵9μg、牛もも肉2μgと低い数値ですが、肝臓ではアミノ酸代謝の必要性から活性型葉酸を貯蔵しており、牛レバーでは200μgの豊富な含有量となっています。

葉酸からテトラヒドロ葉酸への代謝経路

合成葉酸がテトラヒドロ葉酸として機能するためには、複数の酵素反応を経た複雑な代謝過程が必要です。まず、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)によってジヒドロ葉酸に還元され、さらに同じ酵素によってテトラヒドロ葉酸へと変換されます。
この代謝過程において重要な役割を果たすのが、メチレンテトラヒドロ葉酸レダクターゼ(MTHFR)です。MTHFR酵素は、テトラヒドロ葉酸を5-メチルテトラヒドロ葉酸に変換する反応を触媒し、葉酸代謝の最終段階を担っています。
参考)https://www.rakuten.co.jp/mimosa-pharma/contents/yousan-kasseigata/

 

興味深いことに、この代謝経路にはボトルネックが存在します。合成葉酸の過剰摂取により、DHFRの処理能力を超えた場合、未代謝の葉酸が血液中に残留する可能性があります。これが、サプリメント葉酸の摂取上限量が1mg/日に設定されている理由の一つです。
参考)https://sunchlorellashop.jp/interview/

 

体内での葉酸代謝は、補酵素としてのNADPHを必要とし、このプロセス全体がエネルギーを消費します。一方、天然のテトラヒドロ葉酸はこれらのステップを経ることなく、直接細胞内で一炭素代謝に参加できる効率性を持っています。
参考)https://lpi.oregonstate.edu/jp/mic/%E3%83%93%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3/%E8%91%89%E9%85%B8%E5%A1%A9

 

MTHFR遺伝子多型によるテトラヒドロ葉酸代謝への影響

日本人を含むアジア系民族では、MTHFR遺伝子のC677T多型を持つ人の割合が非常に高く、約66%以上がこの遺伝子変異を有しています。この遺伝子多型は、MTHFR酵素の活性を著しく低下させ、葉酸からテトラヒドロ葉酸への変換効率に重大な影響を与えます。
CT型遺伝子多型を持つ人では酵素活性が約65%に、TT型では約30%まで低下することが報告されています。このような遺伝的背景を持つ人々では、合成葉酸を摂取しても十分なテトラヒドロ葉酸が生成されない可能性があります。
実際の臨床例では、アルツハイマー病患者においてホモシステイン値が高い場合、サプリメント葉酸投与では数値改善が限定的でしたが、活性型テトラヒドロ葉酸の直接投与により劇的な改善が見られました。このケースは、遺伝子多型による代謝阻害の実例として注目されています。
遺伝子多型を持つ人々では、血液中にホモシステインが蓄積しやすく、若年性脳梗塞のリスクが高まることも知られています。ホモシステインは本来、活性型葉酸があればメチオニンに変換されるべき物質ですが、テトラヒドロ葉酸不足により代謝が停滞してしまいます。

 

この遺伝的特性を考慮すると、日本人の多くにとっては最初から活性型であるテトラヒドロ葉酸の摂取がより合理的な選択といえるでしょう。特に妊娠期や細胞分裂が活発な時期には、この差が健康に与える影響は無視できません。

 

食品中のテトラヒドロ葉酸と合成葉酸の生体利用率

食品由来のテトラヒドロ葉酸と合成葉酸では、生体利用率(バイオアベイラビリティ)に明確な違いがあります。食品中の天然葉酸の生体利用率は約50%とされる一方、合成葉酸は食品と共に摂取した場合85%以上の利用率を示します。
しかし、この数値だけを見ると合成葉酸が優れているように見えますが、実際の体内での活用効率は異なる視点で評価する必要があります。合成葉酸は確かに吸収率は高いものの、前述の代謝プロセスを経る必要があり、遺伝子多型を持つ人では最終的な活性型への変換効率が大幅に低下します。

 

柑橘類に含まれる葉酸は、100%が5-メチルテトラヒドロ葉酸の形で存在することが分析によって確認されています。オレンジジュースやレモンなどの柑橘類は、天然のテトラヒドロ葉酸を効率的に摂取できる優秀な食材源といえます。
WHO(世界保健機関)が「1日400μg以上の葉酸を食品で摂る」ことを推奨している背景には、食品由来のテトラヒドロ葉酸が持つ代謝上の利点があると考えられています。食品中の葉酸は消化吸収を経て血中から細胞に受け渡される時点で、すでに5-メチルテトラヒドロ葉酸の形になっているためです。
緑黄色野菜では、ほうれん草、小松菜、ブロッコリーなどに豊富なテトラヒドロ葉酸が含まれており、これらの食材は光呼吸という植物特有の代謝過程でも活性型葉酸を必要とするため、高い含有量を維持しています。

 

テトラヒドロ葉酸サプリメントと医療現場での活用

近年、医療現場では従来の合成葉酸に代わって、テトラヒドロ葉酸を直接配合したサプリメントへの関心が高まっています。アメリカやヨーロッパでは、5-メチルテトラヒドロ葉酸(5-MTHF)を含むサプリメントが既に市場に流通しており、メチルフォレート、メタフォリン、活性型葉酸などの名称で販売されています。
参考)https://www.healthy-pass.co.jp/blog/20150507-2/

 

がん化学療法の分野では、メトトレキサートやペメトレキセドなどの葉酸代謝拮抗薬を使用する際に、テトラヒドロ葉酸の理解が治療効果に直結します。これらの薬剤はDHFR酵素を阻害することで抗がん効果を発揮するため、患者の葉酸代謝状態を正確に把握することが重要となります。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/e88cfebba3b13109fcca3907be023118f8b2a0d1

 

妊娠期における神経管閉鎖障害の予防においても、テトラヒドロ葉酸の直接摂取は理論的により確実な効果が期待できます。特に妊娠初期の胎児神経管形成期には、活性型葉酸が即座に利用できることが、先天性疾患の予防により直接的に寄与すると考えられます。

 

血液検査における葉酸測定でも、テトラヒドロ葉酸の理解は重要です。血清葉酸値が正常であっても、実際に活用されているテトラヒドロ葉酸の量は個人の遺伝的背景によって大きく異なる可能性があります。このため、単純な血清葉酸値だけでなく、ホモシステイン値などの機能的指標も併せて評価することが推奨されています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/f8af265396e27080388225bd9b5f8687fb3035c4

 

今後の栄養指導や健康管理において、個々の遺伝的背景を考慮したテトラヒドロ葉酸摂取の個別化が重要になってくると予想されます。特に日本人においては、MTHFR遺伝子多型の高い保有率を踏まえ、活性型葉酸を優先的に摂取する戦略が有効な選択肢となるでしょう。