テニポシド casの番号・構造・作用機序と研究用途を解説

テニポシドのCAS番号「29767-20-2」を軸に、植物由来の化学構造から抗がん作用の仕組み、エトポシドとの違い、研究用試薬としての取り扱い方まで徹底解説。この化合物の正体、知っていますか?

テニポシド cas(29767-20-2)の構造・作用・研究用途

抗がん剤として使われるテニポシドは、がん細胞を殺すと同時に健康な細胞でも二次発がんリスクを生む化合物です。


🧪 テニポシド(CAS 29767-20-2)の3ポイント概要
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植物由来の半合成化合物

メギ科植物から得られるポドフィロトキシンを原料とした半合成誘導体。分子式 C₃₂H₃₂O₁₃S、分子量 656.65。

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DNAトポイソメラーゼII阻害剤

DNA複製に不可欠な酵素「トポイソメラーゼII」を阻害し、がん細胞のアポトーシス(細胞死)を誘導します。

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IARC発がん性分類 2A(おそらく発がん性あり)

WHO傘下の国際がん研究機関(IARC)でグループ2Aに指定。研究用試薬としての取り扱いには法規制への対応が必要です。


テニポシドのCAS番号29767-20-2と基本化学情報

テニポシドのCAS登録番号は 29767-20-2 です。CAS番号とは、Chemical Abstracts Serviceが化学物質ごとに付与する固有の識別番号であり、この番号を使えば世界中のデータベースで同一の化合物を確実に特定できます。


分子式は C₃₂H₃₂O₁₃S、分子量は 656.65 g/mol です。分子量 656 というのは、たとえばアスピリン(分子量 180)の約3.6倍に相当する大きな分子です。これほど複雑な構造を持つがゆえに、細胞内の特定の酵素と選択的に作用できる特性があります。


外観は白色〜ベージュ色の粉末または結晶で、融点は 244〜247℃ という比較的高い値を示します。溶解性については、水にはほとんど溶けませんが、DMSO(ジメチルスルホキシド)には 10 mg/mL 程度で透明に溶解します。この性質が試薬として使用する際の溶媒選択に直結するため、覚えておくと実験計画が立てやすくなります。


つまり水溶液系の試験には事前の溶媒設計が必要です。


保存条件は −20℃(冷凍) が推奨されており、吸湿性があるため密封した状態での管理が原則です。また、貯蔵温度管理が不十分な場合には化学的な分解が起こりうるため、開封後の長期保管には特に注意が必要です。


別名・略号も多数存在します。代表的なものには以下があります。


- VM-26(開発コード)
- Vumon(製品名)
- Eniposide / Tenoposide(異表記)
- NSC-122819(米国国立がん研究所コード)


国際的な文献や試薬カタログを調べる際には、これらの別名を組み合わせて検索すると、より多くの情報にアクセスできます。これは使えそうです。


ChemicalBook:テニポシド(CAS 29767-20-2)の物性・安全性・供給者情報


テニポシドの化学構造とポドフィロトキシンとの関係

テニポシドは、ポドフィロトキシン(podophyllotoxin) という天然化合物を原料として化学合成された半合成誘導体です。ポドフィロトキシンはメギ科の多年生草本 *Podophyllum peltatum*(ポドフィルム)および *Podophyllum emodi* の根茎から抽出される結晶性成分で、古くから医薬用途に研究されてきたリグナン系化合物です。


天然のポドフィロトキシンには有糸分裂阻害作用(微小管形成阻害)があります。しかし、テニポシドおよびエトポシドはその構造を化学修飾することで、微小管への作用を排除し、代わりに DNAトポイソメラーゼIIへの選択的な阻害作用 を付与した誘導体です。これが重要な点です。


テニポシドの化学構造における最大の特徴は、グルコース部分に チオフェン環(2-テニリデン基) を持つことです。このチオフェン含有のアセタール修飾が、類似化合物であるエトポシドとの大きな構造上の違いであり、異なる薬理特性(より高い脂溶性、より強い薬効)の根拠となっています。


KEGG DRUGのATC分類では、テニポシドは L01CB02(ポドフィロトキシン誘導体)に分類されており、L01CB01のエトポシドと同一カテゴリに属します。この分類から、両者が同じ作用機序を持ちながら別の化合物であることがわかります。


同じ誘導体でも脂溶性の違いが大きいということですね。


分子内には4つの環構造(フロナフトジオキソール骨格)が縮合した複雑な多環系が構築されており、この立体構造がDNA-トポイソメラーゼII複合体への結合を可能にしています。InChIKeyは NRUKOCRGYNPUPR-QBPJDGROSA-N で、各データベースをまたいだ化合物の同一性確認にも利用されます。


J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター:テニポシドの物質情報・法規制番号・構造情報


テニポシドの作用機序:DNAトポイソメラーゼII阻害とアポトーシス誘導

テニポシドの薬理作用の中心は、DNAトポイソメラーゼII(TopoII)の阻害です。まずトポイソメラーゼIIとは何かを整理します。


細胞がDNAを複製する際、二重らせん構造はねじれやひずみを生じます。トポイソメラーゼIIはDNAの二本鎖を同時に切断し、別のDNA鎖を通過させてから再結合させることで、このねじれを解消する酵素です。いわばDNAの「絡まりをほどく係」です。


テニポシドはこのトポイソメラーゼIIに結合し、DNA-トポイソメラーゼII複合体を安定化させます。本来ならDNAを再結合するはずの酵素が「止まった」状態で固定されるため、DNA鎖の切断が蓄積し続けます。その結果、細胞はDNA損傷を修復できなくなり、最終的に アポトーシス(プログラム細胞死) へと誘導されます。


この作用はがん細胞の増殖を止める上で効果的です。


特筆すべきは、テニポシドの作用が用量依存的に一本鎖断裂・二本鎖断裂の両方を引き起こす点です。低濃度では一本鎖断裂が優勢ですが、濃度が上がるにつれて二本鎖断裂が増加し、より強いアポトーシス誘導効果を示します。この特性が in vitro の細胞死研究(アポトーシスモデル)において広く活用されている理由です。


エトポシドと比較すると、テニポシドは約3倍の効力を持ち、脂溶性が高いという特徴があります。また血漿タンパク結合率はおよそ99%と非常に高く、これがエトポシドとの体内動態の差に直結します。タンパク結合率の高さは、血中での遊離型薬物濃度が低く保たれることを意味し、副作用プロファイルにも影響します。タンパク結合率99%が基本です。


細胞周期においては、S期後半からG2期の細胞に対して特に強い殺細胞作用を示すことが知られています。急速に分裂しているがん細胞はこの時期に感受性が高まるため、理論上はがん細胞への選択性が期待できます。


がん情報サイト「オンコロ」:トポイソメラーゼ阻害薬の作用機序と副作用の解説


テニポシドの臨床・研究での使用と日本での位置づけ(独自視点)

テニポシドは海外(特に米国)では Vumon® という製品名で、主に小児の難治性急性リンパ性白血病(ALL) の治療に用いられています。小児ALLは現在では約90%が治癒可能とされており、その治療レジメンの一部にテニポシドが組み込まれてきた歴史があります。他に小細胞肺がん、悪性リンパ腫、神経芽細胞腫などへの適応も報告されています。


ここで重要な点があります。日本国内では、テニポシドは現在も未承認薬の位置づけです。がん診療ガイドライン(脳腫瘍、小児白血病)においても「国内未承認:使用テニポシド(VM-26)」と明記されており、日本の医療現場で投与するには特別な手続きが必要です。


一方、研究用試薬としては国内でも入手可能です。東京化成工業(TCI)では純度98.0%以上(HPLC)の規格品が 20mg 約6,100円 / 100mg 約21,200円 で販売されており、富士フイルム和光純薬でも 1g 約98,000円 というラインナップがあります。ただし、いずれも「試験・研究用のみ」の用途に限定されており、医薬品・食品・家庭用品への転用は認められていません。


研究用としては厳格な用途制限があります。


もう一つ見落とされがちな点は、テニポシドが労働安全衛生法の対象物質であるという事実です。CAS 29767-20-2 はIARCのグループ2A(おそらく人に対して発がん性がある)に分類されており、厚生労働省のリスク評価対象物質リストにも「医薬品(抗がん剤)」として名前が挙がっています。つまり研究機関で扱う場合は、安衛法57条に基づく有害物表示対象物質として、SDSの整備・保護具の着用・ばく露防止措置といった管理体制が求められます。


抗がん剤を「治療薬だから安全」とみなして扱うのは危険です。


この規制情報は意外に知られていません。試薬を扱う研究者・化学系の実務担当者にとって、CAS番号を確認した上で法規制データベースを照合する習慣は非常に重要です。PMDAの医薬品情報検索ページや、厚生労働省のGHS対応SDSを確認する流れを一度設定しておくと、その後の試薬管理が格段に楽になります。


厚生労働省:テニポシド(CAS 29767-20-2)を含むIARC発がん性物質のリスク評価対象物質リスト(PDF)


テニポシド casを調べる際の信頼できるデータベースと取り扱い注意点

テニポシドに関する情報を正確に調べるには、CAS番号 29767-20-2 を軸に複数のデータベースを横断参照するのが最も確実です。以下に代表的なリソースを整理します。


| データベース | 主な確認内容 |
|---|---|
| KEGG DRUG(D02698) | 薬理分類・構造マップ・関連パスウェイ |
| PubChem(CID: 17396865) | 化学的・生物活性データ |
| J-GLOBAL(JST) | 日本語での物質情報・法規制番号 |
| ChemicalBook | 価格・供給者・物性・GHSラベル |
| PMDA医薬品検索 | 国内承認状況の確認 |


情報の信頼性は参照先次第です。


取り扱い時の注意点について整理します。GHSラベルでは H341(遺伝性疾患のおそれの疑い) および H412(長期的影響により水生生物に有害) が付与されており、注意喚起語は「警告」です。保護手袋・保護衣・保護眼鏡の着用(P280)、廃棄物の適切な処理(P501)、暴露時の医師への相談(P308+P313)が求められています。


保管は −20℃ 冷凍・施錠保管が条件です。


また、マウスに対する腹腔内投与のLD₅₀(50%致死量)は 29,570 μg/kg(約29.6 mg/kg) と報告されています。これはアスピリンのLD₅₀(マウス経口:約1,750 mg/kg)と比較すると約60倍以上の毒性の高さであり、微量でも致死的な影響が出る可能性を示しています。扱いには十分な専門知識と設備が必要です。


LD₅₀から見ても高毒性物質です。


輸送区分はUN 2811、クラス6.1 / PGIII(急性毒性固体、梱包等級III)に相当します。研究機関で外部に発注・受け取る際には、この輸送区分に準じた受領・保管フローを事前に構築しておくことが推奨されます。


なお、テニポシドはエトポシドよりも CYP3A4 による代謝速度が遅い ことが知られており、これは体内での消失半減期(約5時間)と合わせて考えると、投与後の血中濃度推移が緩やかになることを意味します。研究用途でin vivoモデルに使用する際の投与スケジュール設計においても、この薬物動態特性を考慮することが実験精度に直結します。


KEGG DRUG D02698:テニポシドの薬理分類・構造・データベースリンク集