タシグナ(ニロチニブ)による脱毛症は、分子標的薬特有の副作用として現れる皮膚関連症状の一つです。初発の慢性骨髄性白血病患者556例を対象とした国際共同試験では、脱毛症の発現頻度は12.1%(67/556例)と報告されています。
参考)https://ueno-okachimachi-cocoromi-cl.jp/knowledge/tasigna/
この脱毛は従来の殺細胞性抗がん剤によるものとは異なる特徴を示します。一般的な化学療法による脱毛が急速で広範囲に及ぶのに対し、タシグナによる脱毛は以下のような特徴があります。
日本の臨床データでは脱毛症の発現頻度は11.4%とされており、国際データとほぼ同様の結果を示しています。医療従事者は、この頻度を踏まえて患者への適切な事前説明と継続的なモニタリングを行う必要があります。
参考)https://ganryoyo.jp/%E6%8A%97%E3%81%8C%E3%82%93%E5%89%A4%E6%83%85%E5%A0%B1/%E3%82%BF%E3%82%B7%E3%82%B0%E3%83%8A/
タシグナによる脱毛症状の発現時期には大きな個人差があります。投与開始直後から現れる患者もいれば、1年以上経過してから症状が顕在化する患者も存在します。
参考)https://ganmedi.jp/tasigna/
実際の患者体験談では、投与開始翌日から髪の抜けやすさを自覚し、1週間目にはまつ毛の異常な脱落が認められたケースが報告されています。この患者は「まつ毛を軽く引っ張ったら簡単にスルッと抜けて、引っ張った時の抵抗感も痛みも何も感じなかった」と症状を記述しています。
参考)https://ameblo.jp/aya-yay-120/entry-12774371236.html
症状の進行パターンは以下のように分類されます。
早期発症型(投与開始~1ヶ月)
遅発性型(1ヶ月~1年以上)
医療従事者は、投与期間に関係なく継続的な観察を行い、患者が症状を自覚した場合の適切な対応策を準備しておく必要があります。
タシグナ投与患者では、脱毛症状と併行して皮膚乾燥症状が現れることが多く報告されています。皮膚乾燥の発現頻度は9.7%とされ、脱毛症の11.4%と近い値を示していることから、同一の機序による症状である可能性が示唆されます。
患者の実体験では、「肌や唇、頭皮、喉や口の中の粘膜までとにかく乾燥してつらい」「肌に関しては、服やタオル、布団の繊維が触れると引っかかって痛いし痒い」といった全身的な乾燥症状が報告されています。
この乾燥症状は毛髪にも直接的な影響を与え、以下のような変化をもたらします。
頭皮環境の変化
毛髪構造への影響
医療従事者は、脱毛症状を単独で評価するのではなく、皮膚乾燥や他の皮膚症状との関連性を総合的に判断し、包括的なケア計画を立案することが重要です。
医療従事者は、タシグナ投与患者に対して適切なケア指導を行うことで、脱毛症状の悪化防止と患者のQOL維持に貢献できます。以下の指導ポイントが効果的です。
日常的なヘアケア指導
頭皮環境の保護
まつ毛ケアの特別指導
タシグナではまつ毛の脱落が特徴的であることから、以下の点に特に注意が必要です。
ウィッグや補助具の相談対応
脱毛が進行した患者に対しては、医療用ウィッグの情報提供や、専門業者との連携による適切な製品選択のサポートを行います。また、まつ毛エクステンションやつけまつ毛の使用については、皮膚刺激のリスクを考慮した個別の判断が必要です。
慢性骨髄性白血病の治療薬として使用される他のチロシンキナーゼ阻害薬と比較して、タシグナの脱毛症状には独特の特徴があります。患者アンケート調査では、薬剤変更による脱毛パターンの変化も報告されています。
参考)https://www.cancernet.jp/wp-content/uploads/2022/04/enquete_CML-patients.pdf
他剤からタシグナへの変更時の変化
スプリセル(ダサチニブ)からタシグナに変更した患者では、「タシグナになって抜け毛が増えた」との報告があり、薬剤特異的な脱毛パターンの存在が示唆されます。
髪質変化の多様性
患者調査では以下のような髪質変化が報告されています。
治療継続性の判断基準
脱毛症状が治療継続に与える影響については、以下の点を総合的に評価する必要があります。
医療従事者は、これらの要素を総合的に判断し、患者との十分な相談の上で治療継続または変更の方針を決定することが求められます。特に、脱毛症状が患者の社会生活や精神的健康に深刻な影響を与えている場合には、治療選択肢の再検討が必要となる場合があります。