帯状疱疹ワクチン いつからの定期接種と対象年齢

2025年4月から始まる帯状疱疹ワクチンの定期接種について、対象年齢や接種方法、費用助成の詳細を解説します。あなたやご家族は対象になるのでしょうか?

帯状疱疹ワクチン いつから定期接種になるのか

帯状疱疹ワクチン 定期接種の概要
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開始時期

2025年4月1日から定期接種として実施

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対象者

65歳および特定の年齢層(70,75,80,85,90,95,100歳)

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ワクチン種類

生ワクチンと組換えワクチンの2種類から選択可能

帯状疱疹ワクチンの定期接種開始時期と厚生労働省の方針

帯状疱疹ワクチンは、長い間任意接種として提供されてきましたが、2025年4月1日からついに予防接種法に基づく定期接種(B類疾病)として実施されることが決定しました。これは2023年12月18日に開催された第65回厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会)において正式に了承されたものです。

 

厚生労働省は、高齢者における帯状疱疹の発症リスクと社会的影響を考慮し、予防接種法改正による定期接種化を通じて、予防対策を強化する方針を示しています。この決定は、特に高齢者において深刻な合併症をもたらす可能性のある帯状疱疹を予防することで、高齢者のQOL(生活の質)向上を目指すものです。

 

帯状疱疹はもともと水痘(水ぼうそう)にかかった際に体内に潜伏した水痘帯状疱疹ウイルスが、加齢や疲労、ストレスなどをきっかけに再活性化することで発症します。特に70歳代で発症率が最も高くなっており、皮膚の症状が治った後も神経痛が残る「帯状疱疹後神経痛」という合併症が問題となっています。

 

定期接種化に伴い、対象となる方への接種費用の一部公費負担が実施されることで、接種率の向上と帯状疱疹発症の減少が期待されています。実施にあたっては各自治体が具体的な実施方法や助成内容を決定するため、お住まいの自治体からの案内を確認することが重要です。

 

帯状疱疹ワクチンの定期接種対象者と年齢条件の詳細

帯状疱疹ワクチンの定期接種対象者は、主に65歳の方を中心としていますが、経過措置によって幅広い年齢層が含まれています。具体的な対象者は以下の通りです。

  1. 基本対象者
    • 2025年度内に65歳を迎える方(1960年4月2日〜1961年4月1日生まれの方)
  2. 特別対象者
    • 60~64歳でヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能障害があり、日常生活がほとんど不可能な方
  3. 経過措置による対象者(2025年度から2029年度までの5年間)
    • その年度内に70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳となる方
    • 具体的に2025年度の場合。
      • 70歳:1955年4月2日〜1956年4月1日生まれ
      • 75歳:1950年4月2日〜1951年4月1日生まれ
      • 80歳:1945年4月2日〜1946年4月1日生まれ
      • 85歳:1940年4月2日〜1941年4月1日生まれ
      • 90歳:1935年4月2日〜1936年4月1日生まれ
      • 95歳:1930年4月2日〜1931年4月1日生まれ
      • 100歳:1925年4月2日〜1926年4月1日生まれ
    • 特別経過措置
      • 2025年度に限り、100歳以上の全ての方(1925年4月1日以前に生まれた方)

この年齢設定について注目すべき点は、「5歳刻み」で対象年齢が設定されていることです。この設計は、初年度に全ての高齢者を対象とすると医療機関や行政の負担が大きくなるため、段階的に接種を進める方針によるものです。

 

また、任意接種でワクチン接種を既に済ませた方は、「定期予防接種として接種を行う必要がない」と基本的には認められますが、医師との相談により「接種を行う必要がある」と判断された場合は定期接種の対象となる可能性があります。これは、ワクチンの効果持続期間や個人の免疫状態によって判断されるケースがあるためです。

 

対象者となっているかどうかは、誕生日が接種年度内(4月1日〜翌年3月31日)であるかどうかで判断されます。自分や家族が対象かどうか不明な場合は、お住まいの市区町村の予防接種担当窓口に確認することをお勧めします。

 

帯状疱疹ワクチンの種類と接種方法の違いについて

帯状疱疹ワクチンには2種類あり、それぞれ特徴や接種方法が大きく異なります。医療従事者として患者さんに適切な情報提供ができるよう、両者の違いを詳しく解説します。

 

1. 生ワクチン(乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」)

  • 接種回数・方法:0.5mlを1回、皮下に接種
  • 効果:接種後1年時点で約60%、5年時点で約40%の発症予防効果
  • 帯状疱疹後神経痛に対する効果:接種後3年時点で約60%
  • 主な副反応:5%以上に注射部位の発赤・かゆみ・熱感・腫れ・痛み、硬結など
  • 接種できない方:免疫機能低下者(化学療法中の方、ステロイド投与中の方など)
  • 接種に注意が必要な方:輸血やガンマグロブリン注射を受けた方(3〜6か月間隔を空ける必要あり)
  • 費用:組換えワクチンと比較して低額(定期接種の場合、自治体により0〜5,000円程度)

2. 組換えワクチン(シングリックス筋注用)

  • 接種回数・方法:0.5mlを2回、2か月以上の間隔をあけて筋肉内に接種

    (医師判断により接種間隔を1か月まで短縮可能)

  • 効果:接種後1年時点で90%以上、5年時点で約90%、10年時点で約70%の発症予防効果
  • 帯状疱疹後神経痛に対する効果:接種後3年時点で90%以上
  • 主な副反応:10%以上に注射部位の疼痛・発赤・腫れ、吐き気、下痢・腹痛、頭痛筋肉痛、疲労・悪寒・発熱など
  • 接種できない方:特になし(免疫機能低下者でも接種可能)
  • 接種に注意が必要な方:血小板減少症や凝固障害を有する方、抗凝固療法中の方(筋肉内接種のため)
  • 費用:生ワクチンと比較して高額(定期接種の場合、自治体により約6,600〜12,000円程度)

実臨床での選択ポイントとしては、組換えワクチンは効果が高く持続期間も長いですが、2回接種が必要で費用も高額です。一方、生ワクチンは1回接種で済み費用も安価ですが、効果の持続期間が短く、免疫不全の方には使用できないという制限があります。

 

患者さんの年齢、基礎疾患(特に免疫不全状態の有無)、経済状況などを考慮して、医師と相談しながら最適なワクチンを選択することが重要です。また、接種後の副反応についても事前に説明し、適切な対応方法を伝えておくことが求められます。

 

帯状疱疹ワクチンの効果と経年的な予防効果の持続性

帯状疱疹ワクチンの効果は、ワクチンの種類によって大きく異なります。特に長期的な予防効果の持続性について、医療従事者として患者さんに正確な情報提供をすることが重要です。

 

生ワクチン(乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」)の効果持続性
生ワクチン自体のデータではありませんが、同じOka株を元に作成された同等のウイルス力価であるZOSTAVAX®のデータによると。

  • 60歳以上を対象とした研究では、接種後3.12年間で帯状疱疹発症が51.3%減少
  • 帯状疱疹後神経痛(PHN)の発症は66.5%減少
  • 50〜59歳を対象とした研究での発症予防効果は69.8%
  • 効果持続期間を調査した研究では、接種後1年以内の予防効果は68.7%だが、8年目には4.2%まで低下

つまり、生ワクチンは接種後数年間は一定の効果を示すものの、長期的には効果が徐々に減弱していくことが明らかになっています。

 

組換えワクチン(シングリックス筋注用)の効果持続性
組換えワクチンの臨床試験結果では。

  • 50歳以上での帯状疱疹発症予防効果は97.2%
  • 70歳以上でも89.8%と高い有効性
  • 帯状疱疹後神経痛の予防効果は、50歳以上で100%、70歳以上で85.5%
  • 追跡調査により、接種後少なくとも10年間は予防効果が持続することが確認されている

2022年10月の最新データによると、シングリックスは接種後10年経過しても約70%の予防効果を維持していることが確認されており、現時点で入手可能な帯状疱疹ワクチンの中では最も長期間の効果持続が期待できます。

 

年齢別の効果比較
特筆すべきは、高齢になるほど自然免疫が低下するため、ワクチンの効果にも差が出る点です。

  • 50代:両ワクチンとも比較的高い効果(生ワクチン約70%、組換えワクチン97%以上)
  • 60代:生ワクチンの効果がやや低下(約60%)、組換えワクチンは90%以上を維持
  • 70代以上:生ワクチンの効果がさらに低下、組換えワクチンも若干低下するが依然として高い効果(約90%)を示す

帯状疱疹後神経痛の予防という観点からも、組換えワクチンの方が明らかに優れた効果を示しています。これは、特に高齢者にとって重要なポイントとなります。

 

長期的な費用対効果を考えると、初期費用は高いものの、より長期間にわたって高い予防効果を維持する組換えワクチンが、特に高齢者や免疫不全状態にある方にとっては合理的な選択と言えるでしょう。

 

帯状疱疹組換えワクチンの効果に関する研究(New England Journal of Medicine)

帯状疱疹ワクチンの費用と公費助成制度の詳細

2025年4月1日から始まる帯状疱疹ワクチンの定期接種化に伴い、接種費用の一部が公費で負担されることになります。ワクチンの種類や自治体によって負担額は異なりますので、詳細を解説します。

 

定期接種における費用負担の仕組み
定期接種の場合、予防接種法に基づいて国と自治体が費用の一部を負担します。B類疾病に分類される帯状疱疹ワクチンの場合、基本的な費用分担は以下の通りです。

  • 国:接種費用の1/2を負担
  • 都道府県:接種費用の1/4を負担
  • 市区町村:接種費用の1/4を負担

ただし、自治体によって実際の自己負担額には差があります。

 

ワクチン別の費用目安(定期接種の場合)

  1. 生ワクチン(乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」)
    • 自己負担額:0円〜5,000円程度
    • 接種回数:1回のみ
  2. 組換えワクチン(シングリックス筋注用)
    • 自己負担額:約6,600円〜12,000円程度
    • 接種回数:2回(合計費用はこの2倍になる)

低所得者への配慮
多くの自治体では、以下のような方は接種費用が免除される場合があります。

  • 市民税非課税世帯
  • 生活保護受給者
  • 中国残留邦人等支援給付受給者

具体的な免除制度の有無や手続き方法は、お住まいの自治体の予防接種担当窓口に確認することをお勧めします。

 

任意接種の費用と比較
定期接種化される前の任意接種の場合の費用は以下の通りで、定期接種になることで負担が大幅に軽減されます。

  1. 生ワクチン(任意接種の場合)
    • 接種費用:約6,000円〜8,000円
  2. 組換えワクチン(任意接種の場合)
    • 接種費用:約18,000円〜25,000円(1回あたり)
    • 2回接種で合計約36,000円〜50,000円

公費助成を受けるための手続き
定期接種の公費助成を受けるための一般的な流れは以下の通りです。

  1. 自治体から対象者に接種券(クーポン券)が送付される
  2. 指定医療機関に予約する
  3. 接種当日は、接種券、健康保険証、本人確認書類を持参
  4. 医療機関で問診・診察を受け、接種の可否を判断してもらう
  5. 接種後、自己負担額を支払う

医療従事者としては、患者さんに対して、定期接種の対象年齢であれば接種費用の負担が大幅に軽減されることを伝え、経済的理由で接種をためらっている方には特に積極的な情報提供を行うことが重要です。また、低所得者向けの免除制度についても適切に案内し、接種率向上に貢献することが期待されています。

 

帯状疱疹ワクチン接種前に知っておくべき予診のポイント

帯状疱疹ワクチンの定期接種が開始されると、医療従事者は予診での適切な対応が求められます。特に知っておくべきポイントを詳しく解説します。

 

1. 過去の水痘・帯状疱疹の罹患歴確認
帯状疱疹ワクチンは、水痘に罹患したことがある人を対象としています。日本人の場合、95%以上が幼少期に水痘に罹患していると考えられていますが、予診時には以下の点を確認しましょう。

  • 水痘(水ぼうそう)に罹患した記憶があるか
  • 過去に帯状疱疹を経験したことがあるか(再発予防としての接種も有効)
  • 水痘ワクチンを接種した記憶があるか

水痘罹患歴が不明な場合でも、高齢者であれば潜伏感染している可能性が高いため、基本的には接種可能と判断されます。

 

2. ワクチンの選択における重要事項
生ワクチンと組換えワクチンのどちらを選択するかは、以下の点を考慮して判断します。

  • 患者の免疫状態:免疫抑制状態(抗がん剤治療中、ステロイド大量投与中、HIV感染など)の方は生ワクチンは禁忌
  • 基礎疾患:糖尿病や腎疾患などで免疫力低下が懸念される場合は組換えワクチンが推奨
  • 抗凝固療法中:組換えワクチンは筋肉内注射のため、出血リスクの評価が必要
  • 費用負担能力:組換えワクチンは2回接種かつ高額
  • 通院の利便性:組換えワクチンは2回接種のため来院回数が多い

3. 接種不適当者と接種延期が必要なケース
以下のような場合は、接種を見合わせるか延期する必要があります。
【接種不適当者】

  • 明らかな発熱(37.5℃以上)がある方
  • 重篤な急性疾患にかかっている方
  • 過去に帯状疱疹ワクチンで重い副反応を経験した方
  • 妊娠中または妊娠している可能性がある方(生ワクチンの場合)
  • アナフィラキシーの既往がある方

【接種延期が必要なケース】

  • 生ワクチンの場合:輸血後3か月以内、ガンマグロブリン製剤投与後3〜6か月以内
  • 他のワクチン接種直後(インフルエンザワクチンなどとは原則として1〜4週間間隔をあける)
  • 急性疾患回復期(症状が落ち着くまで延期)

4. 独自視点:複数ワクチンの同時期接種における考慮点
高齢者は複数のワクチン(インフルエンザ、肺炎球菌など)の接種対象になることが多く、帯状疱疹ワクチンを加えるとスケジュール調整が複雑になります。以下のポイントに注意しましょう。

  • 不活化ワクチン(組換えワクチン、インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンなど)同士の接種間隔:特に制限なし
  • 生ワクチン(帯状疱疹の生ワクチン)と他の生ワクチンの接種間隔:原則として4週間以上
  • 生ワクチンと不活化ワクチンの接種間隔:特に制限なし
  • 季節性を考慮したスケジュール立案:インフルエンザワクチンは10〜12月が推奨時期

医療従事者としては、他のワクチン接種予定も踏まえた接種計画を患者さんと相談して立てることが重要です。特に、ワクチンによる発熱などの副反応が心配な高齢者には、接種スケジュールを分散させる配慮も必要でしょう。

 

以上のポイントを押さえておくことで、帯状疱疹ワクチン定期接種開始後の予診をスムーズに行い、患者さんに最適なワクチン選択をサポートすることができます。特に高齢者では、副反応の出現リスクと予防効果のバランスを考慮した個別化した対応が求められます。