ストレス潰瘍は、精神的または身体的ストレスが誘因となって発症する急性胃潰瘍や急性十二指腸潰瘍の総称です。通常の消化性潰瘍と異なり、比較的短期間で発症し、症状が急激に現れるのが特徴です。現代社会においては、仕事や学校生活でのプレッシャー、人間関係のトラブル、過労など様々なストレス要因が存在し、子どもから高齢者まで幅広い年齢層で発症リスクがあります。
ストレス潰瘍の発症メカニズムは、ストレスによって自律神経系のバランスが崩れることが始まりです。精神的ストレスや肉体的ストレス(激しい運動、外傷、重症感染症など)を受けると、交感神経が優位になり、胃の血流が減少します。これにより胃粘膜の防御機能が低下する一方で、胃酸分泌が亢進することで胃粘膜のバリア機能と胃酸の攻撃力のバランスが崩れ、粘膜が傷害されて潰瘍が形成されます。
特に注目すべきは、ストレス潰瘍と一般的な消化性潰瘍との違いです。一般的な消化性潰瘍の主な原因はヘリコバクター・ピロリ菌の感染や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の長期服用ですが、ストレス潰瘍はこれらとは直接の因果関係がなく、ストレス反応による胃粘膜防御機能の低下が主因となります。
また、ストレス潰瘍は単発ではなく多発することが多く、胃体上部や胃底部に好発する傾向があります。十二指腸潰瘍の形で現れる場合もあり、この場合は特に空腹時の痛みが特徴的となります。
重要な点として、ストレス潰瘍は適切な治療を行わないと、出血や穿孔などの重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、早期発見・早期治療が非常に重要です。特に、重症疾患を抱える入院患者や集中治療室にいる患者では、ストレス潰瘍のリスクが高まるため、予防的投薬が検討されることもあります。
ストレス潰瘍の症状は、軽度から重度まで幅広く存在し、患者によって訴える症状が異なることがあります。最も多い症状は「みぞおち周辺(上腹部)の痛み」です。この痛みの特徴としては、鋭い痛み、灼熱感、鈍痛など様々なパターンがあり、食事との関連性が見られます。
胃潰瘍の場合、多くは食後30分~2時間程度で痛みが強くなり、食事をすると一時的に痛みが和らぐケースが多いです。一方、十二指腸潰瘍では空腹時に痛みが強まり、食事で一時的に痛みが軽減する傾向があります。この違いは診断の参考になることがあります。
上腹部痛以外に現れる症状としては以下のようなものがあります。
ストレス潰瘍が進行すると、より重篤な症状も現れます。特に注意が必要なのは出血症状です。潰瘍が深くなり血管を傷つけると、以下のような出血症状が現れることがあります。
日本消化器病学会のガイドラインによると、吐血や下血を伴うストレス潰瘍は緊急対応が必要とされ、入院加療の適応となります。特に高齢者では出血による血圧低下やショック状態をきたしやすく、注意が必要です。
興味深いことに、ストレス潰瘍の中には「無症候性潰瘍」と呼ばれる、ほとんど症状を呈さないケースも存在します。これは特に高齢者や、糖尿病などで神経障害を持つ患者に多く見られます。症状が乏しいため発見が遅れ、出血や穿孔といった合併症で初めて診断されることもあるため注意が必要です。
また、ストレス潰瘍に伴って現れる精神・心理症状も見逃せません。不眠、集中力低下、イライラ感、抑うつ気分などが胃腸症状と並行して現れることがあります。これらの症状は単なる随伴症状ではなく、ストレスの原