外反母趾は、母趾(足の親指)が小趾側(外側)に向かって曲がる変形疾患です。正式には母趾のMP関節(中足趾節関節)での変形を指し、X線写真における母趾の外反角度(HV角)が20度以上ある場合に診断されます。
「外反母趾診療ガイドライン」によれば、外反母趾の重症度は以下のように分類されています。
疫学的には、成人の約30%に認められるとされ、特に中高年の女性に多い疾患です。65歳以上の女性では4割近くが何らかの外反母趾の変形を持つとされています。
外反母趾の原因については、遺伝的要因と環境的要因が複合的に関与していると考えられています。ハイヒールが原因と思われがちですが、ハイヒールを履いたことがない男性でも外反母趾になることがあります。生まれつきの足の形(遺伝も大きく影響)と生活習慣が組み合わさって発症するようです。
診断は主に視診とX線検査によって行われ、痛みの有無や日常生活への影響度も含めて総合的に評価されます。
外反母趾の症状は、進行度によって異なります。主な症状には以下のようなものがあります。
外反母趾の進行段階は以下のように理解できます。
初期段階(軽度)- HV角20度~30度
中期段階(中等度)- HV角30度~40度
進行期(重度)- HV角40度以上
重要なのは、外反母趾は放置しても自然治癒することはなく、徐々に進行していくということです。ただし、進行速度には個人差があり、数年間ほとんど変化しないケースもあれば、比較的短期間で悪化するケースもあります。
外反母趾の治療は、症状の重症度に応じて保存療法から手術療法まで幅広いアプローチがあります。まずは保存療法について、そのエビデンスとともに解説します。
1. 靴指導(シューズセラピー)
適切な靴の選択は外反母趾の症状改善において基本となる介入です。以下の特徴を持つ靴が推奨されます。
靴指導は特に初期から中等度の外反母趾において、疼痛スコアの改善と関連していることが報告されています。ただし、変形自体の改善に関するエビデンスは限定的です。
2. 運動療法
足趾の筋力強化や可動性の改善を目的とした運動療法が推奨されます。代表的なものには。
運動療法は軽度から中等度の外反母趾に対して疼痛軽減効果があることが示されています。特にHohmann体操については、痛みを軽減する効果が期待できます。
3. 装具療法
装具療法には様々な種類があります。
装具療法は痛みの緩和を目的としますが、根本的な治療ではなく、装具を外すと症状が戻ってしまうと考えるべきです。
4. 薬物療法
疼痛や炎症のコントロールには以下の薬物療法が用いられます。
薬物療法は靴を履いて歩いた後の痛みや親指付け根の炎症に用いられますが、対症療法であり、病態の進行を止める効果は期待できません。
5. 理学療法
理学療法士による総合的なアプローチでは、以下のような介入が行われます。
保存療法は重度の変形を伴わない外反母趾に対して第一選択となります。複数の保存療法を組み合わせることで相乗効果が期待できますが、症状が進行している場合や保存療法で十分な改善が得られない場合は、手術療法の検討が必要になります。
保存療法で十分な症状改善が得られない場合、特に中等度から重度の外反母趾では手術療法が検討されます。手術療法は外反母趾の変形矯正や痛みの改善を目的に行われます。
手術療法の適応
手術療法の一般的な適応基準は以下の通りです。
主な手術法
外反母趾の手術法は150種類以上あるとされますが、現在主に行われている手術法は以下の通りです。
1. 軟部組織手術
2. 中足骨骨切り術
3. 関節固定術
手術では、外反母趾の矯正のために、骨を切って角度を変えたり、腱を切ったりする処置を行います。外反母趾に伴って他の足ゆび(足趾)にも問題が出ている場合には、他の足趾の処置も検討されます。
術後リハビリテーション
術後のリハビリテーションは手術の成否を左右する重要な要素です。一般的な流れは以下の通りです。
手術の選択は、変形の程度や関節の状態、患者の年齢や活動性、期待する治療効果などを総合的に評価して、整形外科医の専門的判断に基づいて行われます。特に「普段履いている靴」を診察時に持参すると、症状との関連性がわかりやすく、適切な治療方針の決定に役立ちます。
外反母趾の進行を予防し、症状悪化を防ぐための患者指導は非常に重要です。医療従事者として知っておくべき効果的な患者教育のアプローチについて解説します。
1. 早期介入の重要性
外反母趾は一度進行すると自然治癒することはないため、早期からの適切な介入が重要です。軽度の変形段階で以下の点について患者に説明することが効果的です。
特に「母趾が隣のゆび(足趾)と重なり始めたら、変形や痛みが悪化する危険信号」であることを伝えましょう。
2. 適切な靴選びの指導
不適切な靴は外反母趾の主要な環境因子であり、適切な靴選びの指導は基本的かつ重要な予防策です。
靴選びの具体的ポイント:
特に女性患者に対しては、ファッション性と機能性のバランスをとった靴選びについて、具体的な例を示すと効果的です。
3. 効果的な足のエクササイズ指導
足の内在筋、特に母趾外転筋の強化は外反母趾の予防と症状軽減に有効です。以下のエクササイズを日常的に取り入れるよう指導しましょう。
基本的なエクササイズメニュー:
これらの