医療現場において、シニシズム(冷笑主義)とニヒリズム(虚無主義)という二つの思考パターンが医療従事者に深刻な影響を与えています。
参考)http://school-thaimassage.com/2023/11/21/nihilism-about/
シニシズムは「人生や世界を馬鹿にしたり、冷笑したりする考え方」であり、世の中の価値観を斜に構えて見る態度を指します。一方、ニヒリズムは「世の中の価値観を認めない態度」で、全てのことに対して虚無を見出す考え方です。この違いは医療現場において重要な意味を持ちます。
医療現場での具体的な現れ方
研究によると、「もうすぐ死ぬのでしょ、どうせ終りなのだから」という、ニヒリズム(諦めと倦怠)とシニシズム(不信と自棄)の空気が、病を得た高齢者のみならず健康な若年層の間にも漂っていることが指摘されています。
参考)https://www.komatsu-u.ac.jp/academics/academic-staff/pdf/yoshimasa_yokogawa.pdf
診療看護師(NP)を対象とした研究では、バーンアウトの構成要素としてシニシズムが重要な指標となることが明らかになっています。
参考)https://www.js-np.jp/files_cms/chapter/1/chapter-21-2.pdf
バーンアウトとシニシズムの関係性
バーンアウトは以下の3つの要素で構成されます。
研究データによると、シニシズムが高得点の医療従事者は37%に上り、これは米国の看護師33.3%と同様の高い割合となっています。
シニシズムに影響する要因
参考)http://gakui.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/cgi-bin/gazo.cgi?no=123160
ニヒリズム的思考は医療現場において「臨床的ニヒリズム」という形で現れ、患者ケアの質に深刻な影響を与えます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2676162/
臨床的ニヒリズムの特徴
臨床的ニヒリズムは、特に神経救急医療において問題となっています。これは、早期の予後判断に基づく治療制限の決定が、実際には自己実現的な予言となってしまうことを指します。
医療従事者が「どうせ治らない」「意味がない」といったニヒリズム的思考に陥ると、以下のような問題が発生します。
COVID-19による影響の拡大
パンデミック期間中、医療従事者のメンタルヘルスは世界中で悪化し、約28%に抑うつ、31%に燃え尽きが認められました。これらの状況下で、ニヒリズム的思考がさらに加速することが懸念されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/spcijasp/41/2/41_410206/_pdf
医療機関における組織的な取り組みは、シニシズムやニヒリズムに対処する上で極めて重要です。
効果的な組織コミットメント戦略
研究により、以下のコミットメント要素がメンタルヘルス改善に有効であることが判明しています:
具体的な組織施策
トップダウンの災害レベル支援
COVID-19対応から学んだ教訓として、病院はトップダウンで災害に準じた職員への組織的メンタルヘルス支援が必要であることが明確になりました。
個人レベルでの対策も、シニシズムやニヒリズムからの脱却に重要な役割を果たします。
アサーション(自己主張)スキルの向上
研究によると、非主張的な自己表現を減らし、アサーティブな自己表現を増やすことで、疲弊感やシニシズムを軽減できることが示されています。
具体的な個人実践方法
ニーチェの積極的ニヒリズムからの学び
哲学者ニーチェが提唱した「積極的ニヒリズム」の考え方は、医療従事者にとっても有用です。これは「人生に意味がないなら、無意味な人生を楽しもう」という前向きな転換を意味します。
医療現場に置き換えると、「完璧な治療は不可能でも、今できる最善を尽くそう」という建設的な姿勢への転換が可能になります。
継続的な価値観の再構築
医療従事者は以下のような価値観の再確認を通じて、シニシズムやニヒリズムから脱却できます。
このような多角的なアプローチにより、シニシズムやニヒリズムに陥りがちな医療現場において、健全で建設的な職場環境を構築することが可能になります。医療従事者個人の努力と組織的なサポートの両輪で、より良い医療サービスの提供と職員の心理的健康の維持を実現していくことが重要です。