子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)接種後の腕の痛みには、正常な免疫反応によるものと病的な状態があります。正常な反応では、接種部位の痛みや腫れは通常2〜3日で軽快し、長くても2週間以内に改善します。
正常な反応の特徴:
一方、2週間を超えて痛みが持続する場合は、SIRVA(Shoulder Injury Related to Vaccine Administration)や神経障害の可能性を考慮する必要があります。特に、腕が上がらない、夜間痛がある、日常生活に支障をきたす程度の痛みが続く場合は医療機関での精査が必要です。
厚生労働省の報告によると、子宮頸がんワクチン接種後には50%以上の頻度で接種部位の疼痛が発生するとされており、医療従事者はこの高い頻度を理解しておく必要があります。
SIRVA(Shoulder Injury Related to Vaccine Administration)は、ワクチン接種に関連した肩関節障害として2010年に提唱された概念です。子宮頸がんワクチンを含む筋肉注射後に発症する肩の急性炎症で、疼痛の持続や可動域制限を特徴とします。
SIRVAの発症メカニズム:
興味深いことに、SIRVAは女性により多く発症することが知られています。これは解剖学的な違いや、子宮頸がんワクチンの接種対象が主に女性であることと関連している可能性があります。
痛みは通常、ワクチン投与から48時間以内に始まり、数ヶ月持続することが多いとされています。特に40歳以上では、モヤモヤ血管を自然に減らす力が衰えるため、長引く痛みが生じやすくなります。
SIRVAに関する詳細な病態と治療法について。
https://okuno-y-clinic.com/itami_qa/sirva.html
長期間治らない痛みの根本的な原因として、近年注目されているのが「モヤモヤ血管」の存在です。炎症の起きる部位では、その修復過程で血管が増生しますが、この異常な新生血管が痛みの慢性化を引き起こします。
モヤモヤ血管の特徴:
このモヤモヤ血管は、一般に40歳以上になると自然に減らす力が衰えてくるため、中高年の女性でより問題となりやすいという特徴があります。これは子宮頸がんワクチンの対象年齢を考慮すると、キャッチアップ接種を受ける女性にとって重要な情報です。
さらに、炎症部位では以下のような病態が進行します。
これらの複合的な要因により、単純な消炎鎮痛剤では改善が困難な慢性疼痛が形成されます。
SIRVA発症の予防には、適切な接種技術が不可欠です。不適切な部位へのワクチン投与が主要な原因と考えられており、医療従事者は正しい接種部位と手技を習得する必要があります。
適切なワクチン接種部位:
日本では従来、インフルエンザワクチンは皮下注射が一般的でしたが、子宮頸がんワクチンを含む多くのワクチンは筋肉注射で投与されます。海外では以前からインフルエンザワクチンも筋肉注射が一般的であり、SIRVAの報告も多く蓄積されています。
接種時の注意点:
興味深い点として、個人や年齢によって解剖学的構造は異なり、ワクチンの注入部位や深度を事後的に証明することは困難であることが報告されています。また、完璧な手技であってもSIRVAが発症する可能性があることも認識しておく必要があります。
従来の保存的治療(消炎鎮痛剤、ステロイド注射、理学療法)で改善しない場合、最新の治療法としてカテーテル治療が注目されています。この治療法は、モヤモヤ血管を直接的に治療することで、根本的な痛みの解決を目指します。
カテーテル治療の仕組み:
イミペネム・シラスタチンは、20年以上前から抗生物質として認可・使用されている薬剤です。この薬剤は溶けにくい性質があり、少量の液体と混ぜると小さな粒子になり、モヤモヤ血管を詰まらせる効果があります。
治療の特徴:
治療効果については、治療後すぐに痛みが減る方もいれば、数ヶ月かけてゆっくりと改善する方もいます。現在のところ、この治療は自費診療となっており、片側で214,500円(税込)の費用がかかります。
ワクチン接種後の肩の痛みに対するカテーテル治療について。
https://www.kyokuto.or.jp/symptom/sirva.html
治療の適応基準:
このような革新的な治療法の登場により、従来治療困難とされていた子宮頸がんワクチン接種後の長引く痛みに対しても、新たな治療選択肢が提供されています。医療従事者は、患者の症状に応じて適切な治療法を選択し、必要に応じて専門施設への紹介を検討することが重要です。