セルフエフィカシーとは、特定の課題や状況に対して「自分なら達成できる」という個人の確信や信念を指します。心理学者アルバート・バンデューラによって提唱されたこの概念は、人間の行動変容とモチベーションを理解する上で重要な要素として位置づけられています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8189827/
医療現場において、セルフエフィカシーは患者の治療参加度や回復過程に大きな影響を与えることが研究で明らかになっています。例えば、リハビリテーションを受ける患者が「自分は歩けるようになる」と確信できるかどうかは、実際の回復スピードに直結します。
参考)https://www.cureus.com/articles/89401-modelling-successful-self-management-in-adults-with-cystic-fibrosis-vicarious-self-efficacy-from-videos-of-people-like-me.pdf
セルフエフィカシーには以下の特徴があります。
看護現場では、セルフエフィカシーの向上が患者の治療成果に直接的な影響を与える具体例が数多く報告されています。以下に代表的な実践事例をご紹介します。
参考)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyt.2023.1202048/pdf
糖尿病患者のセルフケア向上事例 🍎
60歳男性の糖尿病患者に対して、インスリン自己注射の練習を段階的に実施しました。初回は看護師が手を添えながら一緒に注射を行い、徐々に一人で実施できるよう支援。「自分でもできた」という成功体験を積み重ねることで、患者の自己効力感が向上し、継続的な治療参加につながりました。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6400175/
リハビリテーション患者の歩行訓練 🚶
脳卒中後の歩行訓練において、患者が「歩けるようになる」という確信を持てるよう、小さな目標設定から始めました。「今日は5歩歩く」「来週は10歩歩く」といった段階的なアプローチにより、患者の自己効力感が高まり、積極的なリハビリ参加が実現しました。
慢性疾患患者の自己管理 💊
慢性腎臓病患者に対して、食事制限や服薬管理の自己効力感を高める取り組みを実施。患者自身が血圧測定や体重管理を行い、その結果を記録することで「自分で病気をコントロールできる」という確信を育みました。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11151748/
看護師自身のセルフエフィカシーも、質の高いケア提供に欠かせない要素です。特にCOVID-19パンデミック期間中、多くの看護師が自己効力感の向上を通じてストレス対処能力を高めたことが報告されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9172145/
シミュレーション訓練による自信向上 🏥
手術室看護師を対象としたシミュレーション訓練では、実際の症例を模擬的に再現することで、「自分なら適切に対応できる」という自己効力感を向上させました。特に感染対策や緊急時対応において、事前のシミュレーション体験が実際の場面での自信につながりました。
患者コミュニケーションスキルの向上 💬
医学生を対象とした模擬患者との面接訓練では、段階的なフィードバックシステムを導入。「患者の気持ちを理解できる」「適切な質問ができる」という自己効力感の向上が、実際の臨床現場でのコミュニケーション能力向上につながりました。
チーム医療における役割認識 👥
多職種連携の中で看護師が「自分の専門性を活かせる」「チームに貢献できる」と感じられるよう、具体的な成功事例の共有や相互フィードバックを実施。これにより看護師の職務満足度と自己効力感の両方が向上しました。
バンデューラは、セルフエフィカシーを高めるための4つの要素を提示しており、医療現場でも積極的に活用されています。
参考)https://www.ashita-team.com/jinji-online/business/10402
1. 成功体験(Mastery Experience) ✨
最も効果的な方法として、実際の成功体験を積み重ねることが挙げられます。医療現場では以下のように実践されています。
2. 代理経験(Vicarious Experience) 👀
他者の成功を観察することで「自分もできる」という確信を得る方法です。
3. 言語的説得(Verbal Persuasion) 🗣️
信頼できる他者からの励ましや肯定的なフィードバックです。
4. 情動的・生理的状態(Emotional and Physiological States) 💓
不安や緊張を適切に管理し、ポジティブな感情状態を維持することです。
セルフエフィカシーの効果的な活用には、適切な測定と評価が不可欠です。医療現場では様々な評価尺度が開発・活用されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjbm/11/1/11_7/_pdf/-char/ja
一般性セルフ・エフィカシー尺度(GSES) 📊
日本で開発された16項目の質問紙で、個人の一般的な自己効力感を測定します。「何か仕事をするときは、自信をもってやるほうである」「人より優れた能力がある」などの項目により、総合的な自己効力感レベルを評価できます。
参考)https://www.kaonavi.jp/dictionary/self-efficacy/
疾患特異的セルフエフィカシー尺度 🔬
特定の疾患や治療に特化した評価ツールも重要です。
参考)https://www.jachn.net/pdf/chiikikangoindex/No10_jikokoryoku.pdf
評価のポイント ✅
これらの評価結果をもとに、個別の患者や看護師に最適な自己効力感向上プログラムを構築することが可能になります。
セルフエフィカシーの概念を理解し、具体的な実践方法を医療現場で活用することで、患者の治療成果向上と医療従事者の職務満足度向上の両方を実現できます。継続的な評価と改善を通じて、より効果的なケア提供体制の構築を目指しましょう。
COVID-19パンデミック下での看護師の自己効力感向上に関するシミュレーション研究
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