サリチル酸メチルは非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)に分類される外用薬の主要成分です。その作用機序は皮膚刺激薬として働き、局所刺激により適用部位及びその深部の血流を改善することにあります。
具体的な薬理効果として以下が確認されています。
サリチル酸メチルは5%またはそれ以上の濃度で液剤、軟膏剤、リニメント剤として皮膚局所に塗布され、関節痛、筋肉痛、打撲、捻挫における鎮痛・消炎に使用されます。
古典的な湿布薬では、サリチル酸メチルなどの炎症を抑える物質に、メンソールや唐辛子エキスなどの刺激成分を加えて冷感や温感を与えており、冷湿布と温湿布に本質的な違いはありません。
サリチル酸メチルの使用に際しては、複数の副作用リスクを理解しておく必要があります。
皮膚症状
大量使用時の全身症状
大量使用した場合、以下の全身症状が現れることがあります。
これらの症状は、皮膚からの薬物吸収により血中濃度が上昇することで生じると考えられています。新しい湿布薬には鎮痛効果の高い非ステロイド性抗炎症薬が含まれ、皮膚からも吸収されるため、たくさん貼ると血中の薬物濃度が上がり、同じ成分の内服薬を併用していると危険なこともあります。
特別な注意が必要な対象者
これらの対象者は使用を避けるか、医師の指導の下で慎重に使用する必要があります。
平成28年4月から湿布薬の処方が1回の受診につき70枚までに制限されました。これは過剰な処方に厚生労働省が歯止めをかけたものです。医師が医学上の必要性を認めてその理由を記載すれば70枚以上の処方も可能ですが、保険の支払基金が必要性を認めなければ診療報酬が支払われないため、多くの医療機関が厚生労働省の意向に従っています。
適正使用のポイント
処方の現状と課題
湿布薬は7割が70歳以上の高齢者に処方されており、高齢者以外には打撲や捻挫などに一時的に使用されるのに対して、高齢者には慢性の腰痛や関節痛に漫然と用いられることが圧倒的です。頻繁に処方されるのは、よく効くからではなく、副作用が少なく気持ちよくなれるからとされています。
日本ではお馴染みの湿布薬ですが、欧米では効果が疑問視されているため、見かけることは稀で、保険診療で用いられることはありません。この国際的な評価の違いは、医療従事者として理解しておくべき重要な点です。
効果の限界
医療経済学的影響
医療ジャーナリストの市川衛氏の調査によると、湿布薬のコストは年間1300億円になります。40兆円を超える医療費全体から見ると、すべての湿布薬を保険対象から外しても節約効果は0.5%以下で、今回の措置でも数十億円程度と予想されています。
ただし、薬剤費が医療費に占める割合は約25%で、湿布薬以外にも効果が不確実なものが保険適応になっているものは数多くあります。
市販薬との比較
ドラッグストアで売っている湿布薬は、医療機関で処方しているものとほぼ同等ですが、保険の自己負担が3割なら7割引きで買えることになります。一方、ドラッグストアで買った湿布薬は、金額と目的によっては所得税の医療費控除の対象にもなります。
サリチル酸メチルの臨床応用において、従来の鎮痛・抗炎症効果以外にも注目すべき特性があります。
反対刺激理論の応用
サリチル酸メチルは内臓、筋肉、関節その他の深部組織に疼痛を訴える場合に、その組織から脊髄神経節に至る神経と連動した知覚神経の支配を受ける末梢部位に反対刺激薬として適用され、鎮痛効果を上げる作用があります。この理論は、痛みの伝達経路を理解した上での戦略的な使用法として重要です。
喘息患者への注意点
湿布薬の使用により喘息発作が起こる可能性があることが報告されています。NSAIDsは内服薬だけでなく、湿布や軟膏、座薬などでも副作用が現れることがあるため、喘息の既往がある患者には特に注意が必要です。
個別化医療への応用
患者の症状や体質に応じた使用が求められ、安全に治療を行いながらその効能を実感している人が多い一方で、過剰摂取や長期間の使用によって生じる可能性のある体内への影響も認識しておく必要があります。
医療費適正化への貢献
湿布薬を1回に10枚も貼る患者を見ることがありますが、得るものは少なく、有害なこともあり、医療費の無駄遣いをしていることは間違いありません。医療従事者として、患者教育と適正使用の推進が重要な役割となります。
効果が限定的である薬は個別に評価する必要があり、サリチル酸メチル含有製剤についても、その適応と限界を正しく理解した上で処方・使用指導を行うことが求められています。