サンシュユ(山茱萸)は、ミズキ科のサンシュユ(Cornus officinalis Siebold et Zuccarini)の偽果の果肉を乾燥した生薬です。学名のofficinalisは「薬用の」という意味で、古くから薬用植物として認識されていたことがわかります。
主要成分として以下が含まれています。
日本薬局方では、換算した生薬の乾燥物に対してロガニン0.4%以上を含むものと規定されており、品質管理の指標となっています。
サンシュユは漢方医学において「腎」に働く生薬として位置づけられています。ここでいう「腎」は、現代医学の腎臓だけでなく、泌尿器系、副腎、生殖器を包含した概念です。
主な薬理効果。
適応症例。
古典的な薬能として「脾胃を温め、寒、湿による疼痛知覚麻痺、冷えなどの諸症を除き、尿利をよくする。また、耳鳴、頭痛を治す」と記載されています。
サンシュユは単独で使用されることは稀で、主に複合漢方薬の構成生薬として用いられます。代表的な配合薬とその特徴を以下に示します。
八味地黄丸(はちみじおうがん)。
牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)。
六味丸(ろくみがん)。
これらの処方では、サンシュユは地黄の貧血改善作用を補強し、山薬とともに滋養強壮効果を発揮する役割を担っています。
サンシュユを含む漢方薬の使用において、以下の副作用と注意点があります。
消化器系副作用。
これらの症状は、配合されている地黄(ジオウ)の影響によるものが多く、著しく胃腸の虚弱な患者では症状が悪化する可能性があります。
重篤な副作用。
これらの症状が現れた場合は、直ちに使用を中止し医療機関を受診する必要があります。
使用禁忌・慎重投与。
サンシュユの品質を維持するためには、適切な保存管理が重要です。
選品基準。
保存上の注意。
生薬は天然物であるため、色調等が異なることがありますが、これは品質に問題がない範囲での自然な変化です。
薬価情報。
サンシュユの薬価は散剤10gあたり56.60円となっており、ツムラをはじめとする複数のメーカーから供給されています。
医療従事者として、サンシュユ配合漢方薬を処方・調剤する際は、患者の体質(証)を十分に考慮し、経過観察を怠らないことが重要です。特に妊娠の可能性がある女性患者や胃腸の弱い患者に対しては、慎重な判断が求められます。
民間薬としては、生の果実をホワイトリカーに漬けた果実酒が疲労回復や滋養強壮目的で使用されることもありますが、医療用途とは区別して考える必要があります。
サンシュユは春先に黄色い花を咲かせることから「ハルコガネバナ」、秋に赤い実をつけることから「アキサンゴ」「サンゴバナ」とも呼ばれ、観賞用としても親しまれている植物です。このような文化的背景も含めて、患者への説明に活用できる知識として蓄えておくことが望ましいでしょう。