インスリンを投与するほど、脂肪分解がほぼ完全にストップする場合があります。

LPLが機能するためには、アポリポ蛋白C-Ⅱ(ApoC-II)が必須の活性化因子として働きます。 ApoC-IIを欠損する患者では、LPL自体に異常がなくても高TG血症を来すことが知られており、臨床的に重要な点です。これは多くの医療者が見落としがちな落とし穴です。
関連)https://uwb01.bml.co.jp/kensa/search/detail/3802181
LPLがTGを脂肪酸とグリセロールに加水分解すると、遊離した脂肪酸は周囲の細胞(脂肪細胞や筋細胞)に取り込まれます。 つまりLPLは「血中TGを処理する門番」として機能しています。
関連)https://ho-personal-trainer.com/fat-synthesis-decomposition-mechanism
| 項目 | リポ蛋白リパーゼ(LPL) | ホルモン感受性リパーゼ(HSL) |
|---|---|---|
| 作用部位 | 毛細血管内皮細胞表面 | 脂肪細胞内 |
| 基質 | リポ蛋白中のTG(カイロミクロン、VLDL) | 脂肪組織に貯蔵されたTG |
| 活性化因子 | インスリン、ApoC-II | アドレナリン、グルカゴン、ACTH |
| 抑制因子 | ApoC-III、空腹時 | インスリン |
| 欠損時の病態 | 高カイロミクロン血症 | 2型糖尿病リスク上昇 |
| 活性化タイミング | 食後 | 空腹時・運動時 |
HSLは脂肪組織に貯蔵されたTGを分解する酵素で、その名の通りホルモンの影響を強く受けます。 活性化のカギとなるのはcAMP依存性プロテインキナーゼA(PKA)を介したリン酸化です。
関連)https://sgs.liranet.jp/sgs-blog/5860
一方、インスリンはフォスフォジエステラーゼ3Bを活性化してcAMPを5'-AMPへ異化し、PKAを抑制することでHSLのリン酸化を阻害します。 つまり食後・高インスリン状態ではHSLは強力に抑えられます。
関連)https://gakui.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/cgi-bin/gazo.cgi?no=215243
さらに注目すべき点があります。脂肪滴表面のペリリピンというタンパク質も重要です。 カテコールアミンによってペリリピンがリン酸化されると、HSLが脂肪滴表面にアクセスしやすくなり分解が加速されます。逆にリン酸化されていない状態ではペリリピンがバリアとして機能し、HSL活性を物理的に制限します。これはHSL単体の話だけでは説明できない、見逃されやすいメカニズムです。
関連)https://note.com/workout0422/n/n7b7c78d8c6e1
インスリンがLPLを「活性化」し、HSLを「抑制」するという二重効果は、臨床上きわめて重要です。 食後の状態を考えると理解しやすいです。
関連)https://eiyo.medicmedia.com/study-post/2021/08/1906/
食後に血糖が上がりインスリンが分泌されると、次の2つが同時に起きます。
関連)https://note.com/workout0422/n/n7b7c78d8c6e1
つまりインスリンは「脂肪の取り込みを促進しながら、同時に脂肪の動員を止める」という効率的な貯蔵プログラムを実行します。これが基本です。
糖尿病でインスリン作用が不足すると、LPL活性が低下して血中TGの処理が遅れ、高TG血症(二次性高脂血症)を招きます。 糖尿病患者の脂質管理でTGコントロールが重要視される理由はここにあります。逆に、インスリン過剰(例:インスリン抵抗性代償期の高インスリン血症)ではHSLが慢性的に抑制され、脂肪動員が妨げられるため肥満を助長します。
関連)https://uwb01.bml.co.jp/kensa/search/detail/3802181
参考:BML社によるLPL検査の臨床的解説
LPL異常症は遺伝性の高TG血症として現れます。 LPL遺伝子の変異によりLPL活性が著しく低下すると、カイロミクロンが処理されずに血中に残存し、高カイロミクロン血症(家族性LPL欠損症)を来します。
関連)https://www.youtube.com/watch?v=vs_R8kI0xjE
この病態の特徴的な臨床像として、TG値がしばしば1,000 mg/dL以上に達し、急性膵炎を繰り返すリスクが高まります。 皮膚に黄色腫が出現することもあります。治療の柱は極端な脂質制限食(脂肪摂取を1日20g以下に制限)であり、フィブラート系薬剤の効果は限定的です。これは多くの臨床家が意識すべき点です。
関連)https://uwb01.bml.co.jp/kensa/search/detail/3802181
一方、HSL欠損についての認識はまだ広まっていません。2014年にHSL遺伝子欠損のヒト家系が初めて報告され、HSL欠損が2型糖尿病と強く関連することが示されました。 HSLが機能しないと脂肪組織での脂肪分解が障害され、異所性脂肪沈着(肝臓・筋肉への脂肪蓄積)が起きやすくなり、インスリン抵抗性を悪化させると考えられています。
関連)https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18K08504/
参考:科学研究費データベースによるHSL欠損と糖尿病の研究概要
リパーゼの糖尿病における新たな役割の解明 - 国立情報学研究所KAKEN
有酸素運動を行うと、カテコールアミン(アドレナリン・ノルアドレナリン)の分泌が増加します。 これがHSLを活性化し、脂肪組織からの遊離脂肪酸放出を促進します。運動で脂肪が燃えるメカニズムはここにあります。
関連)https://note.com/workout0422/n/n7b7c78d8c6e1
興味深い事実があります。運動直後は一時的にインスリン感受性が上昇するため、LPL活性も高まります。 つまり運動後の食事では、血中TGの取り込みが通常より効率的に行われる可能性があります。これは栄養指導において活用できる知識です。
関連)https://ho-personal-trainer.com/fat-synthesis-decomposition-mechanism
絶食・カロリー制限の状態ではグルカゴン分泌が増えてHSLが活性化され、脂肪動員が高まります。 一方、LPLは空腹時に活性が低下するため、血中TGのクリアランスが遅延します。低カロリー食を続けながら血中TG値が一時的に上昇するケースがある理由の一つです。これは意外ですね。
医療従事者として患者に栄養指導を行う際、このLPLとHSLの状態を把握するためには、食後TG測定(食後2〜4時間の採血)と空腹時TGの比較が有用です。食後高TG血症はLPLの機能低下を示唆し、心血管リスクの独立した予測因子となることが知られています。LDLだけでなくTGの食後動態まで視野に入れた脂質管理が求められます。
参考:動脈硬化学会誌に掲載されたHSL調節機構の詳細
【第2類医薬品】命の母A 840錠