T-DXdを使用している患者の約15%で、症状が出る前にCTで間質性肺疾患が検出されています。
関連)https://www.carenet.com/news/general/carenet/54935
乳癌治療に用いられる分子標的薬は、大きく「抗HER2薬」「CDK4/6阻害薬」「mTOR阻害薬」「PARP阻害薬」「血管新生阻害薬」の5カテゴリに分類されます。 それぞれ標的となる分子が異なるため、治療前のサブタイプ確認とバイオマーカー検索が必須です。
関連)https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/clinic/breast_surgery/050/052/index.html
従来の抗がん剤は正常細胞も攻撃するのに対し、分子標的薬はがん細胞が持つ特有のタンパク質や受容体だけを狙い撃ちにします。 そのため、一般的に従来の化学療法より副作用が軽減されると考えられていますが、標的分子に関連した特有の副作用が存在する点を見落とすと大きなリスクになります。
関連)https://3i-partners.co.jp/cancer/treatment/bunsihyoutekiyaku-2/
つまり「副作用が少ない=安全」ではありません。
| 薬剤カテゴリ | 代表薬 | 主な適応 | 特徴的な副作用 |
|---|---|---|---|
| 抗HER2薬(抗体) | トラスツズマブ(ハーセプチン) | HER2陽性 | 心機能低下(2〜4%)、呼吸器障害 |
| ADC(抗体薬物複合体) | T-DXd(エンハーツ) | HER2陽性・HER2低発現 | 間質性肺疾患15.4% |
| CDK4/6阻害薬 | パルボシクリブ、リボシクリブ | HR陽性HER2陰性 | 好中球減少、血球減少 |
| mTOR阻害薬 | エベロリムス(アフィニトール) | 閉経後HR陽性再発 | 口内炎、間質性肺炎、高血糖 |
| PARP阻害薬 | オラパリブ | BRCA変異陽性 | 貧血、悪心 |
バイオマーカー検査なしに投与しても効果は期待できません。これが原則です。
参考:乳がんの薬物療法全般について、駒込病院の解説が詳しいです。
HER2陽性乳癌に対する術前薬物療法(ネオアジュバント)として抗HER2薬と抗がん剤を併用した場合、約50%の患者でがんが消失(病理学的完全奏効)するという結果が示されています。 これはかつて期待されなかった水準であり、現在では術前からの積極的な分子標的薬投与が推奨されています。
関連)https://nyugan-joho.jp/chiryou/chemotherapy/05.html
T-DM1治療歴のある患者においても、T-DXdは化学療法レジメンより明確に優れることがLancetに掲載された試験で示されました。 具体的には、T-DXd群の奏効率69.7%に対し、従来化学療法群は29.2%、無増悪生存期間の中央値はT-DXd群17.8ヵ月 vs 従来群6.9ヵ月という結果です。 これは使えそうなデータですね。
関連)https://www.cancerit.jp/gann-kiji-itiran/nyuugann/post-73858.html
一方で、T-DXdを使用する際には間質性肺疾患(ILD)の早期発見体制が不可欠です。
関連)https://hokuto.app/post/iqJIOTsWcUR46pWodlM3
「日本での試験登録」がリスク因子に含まれる点は意外ですね。日本人患者での発症率が相対的に高い可能性があり、日本の医療従事者は特に注意が必要です。
関連)https://hokuto.app/post/iqJIOTsWcUR46pWodlM3
参考:T-DXdによるILD/肺炎の統合解析データは以下で確認できます。
【ESMO Open】トラスツズマブ デルクステカンによる薬剤性肺炎 | HOKUTO(ホクト)
CDK4/6阻害薬はエストロゲン刺激下流の細胞周期(G1期→S期の移行)を抑制することで増殖を抑えます。 パルボシクリブとタモキシフェンの併用試験(PATHWAY試験)でも、無増悪生存期間を有意に改善することが示されています。
関連)https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/information/2023/0220/index.html
結論はCDK4/6阻害薬の併用が条件です。
関連)https://jbcs.xsrv.jp/guideline/2022/y_index/frq10/
耐性機序を考慮した臨床試験が進行中であるため、今後もガイドライン更新に注目が必要です。
関連)https://jbcs.xsrv.jp/guideline/2022/y_index/frq10/
参考:乳癌学会ガイドラインによるCDK4/6阻害薬後の二次内分泌療法についての記述は以下を参照してください。
FRQ10 閉経後ホルモン受容体陽性HER2陰性転移・再発乳癌の二次内分泌療法 | 日本乳癌学会
分子標的薬の副作用管理は、「薬剤特有のパターンを事前に把握し、早期に介入する」ことが基本戦略です。 各薬剤ごとに副作用プロファイルが大きく異なるため、画一的な対応では見落としが生じます。
関連)https://nyugan-joho.jp/chiryou/chemotherapy/05.html
トラスツズマブ(ハーセプチン)では100人に2〜4人に心機能低下が見られるため、治療前および治療中の定期的な心エコー検査が必要です。 痛いですね。投与開始直前のベースライン評価を怠ると、投与中の変化を正確に評価できなくなります。
関連)https://jbcs.xsrv.jp/guidline/p2019/guidline/g7/q50/
一方、mTOR阻害薬(エベロリムス)の副作用として口内炎・高血糖・感染リスク・間質性肺炎が挙げられます。 口内炎は患者のQOLに直接影響し、投与継続の妨げとなりやすい副作用です。
関連)https://www.tmhp.jp/komagome/section/geka/gekanyusen/sinryo/drug_therapy.html
関連)https://www.mychoiceprogram.jp/type-of-treatment/pharmacotherapy/molecular-targeted
関連)https://www.tmhp.jp/komagome/section/geka/gekanyusen/sinryo/drug_therapy.html
関連)1/Ishi50_1_06.pdf">https://www.niigata-cc.jp/facilities/ishi/Ishi50_1/Ishi50_1_06.pdf
副作用対応で重要なのは「出てから対処」ではなく「出る前の準備」です。患者説明・モニタリングスケジュールの事前設定が鍵となります。
「HER2陽性」か「HER2陰性」かの二分法は、T-DXdの登場によって根本的に見直されつつあります。 従来、HER2陰性と判断されていた患者の中に「HER2低発現(IHC 1+または2+/ISH陰性)」というサブグループが存在し、T-DXdが有効であることが示されました。 これは意外ですね。
関連)https://www.cancerit.jp/gann-kiji-itiran/nyuugann/post-73858.html
かつてHER2低発現の患者は「HER2をターゲットにした治療の恩恵を受けられない」と考えられていました。しかしT-DXdは抗体部分でHER2に結合した後、細胞内でトポイソメラーゼⅠ阻害薬を放出する「傍観者効果(バイスタンダーエフェクト)」を持ちます。つまり、近隣のHER2陰性細胞にも効果が及ぶため、HER2発現量が少なくても一定の効果が期待できるのです。
これは使えそうです。
この新カテゴリの登場は、病理・腫瘍内科・薬剤師・看護師が連携した多職種チームアプローチの重要性をさらに高めています。 従来の「HER2陽性か否か」という判断軸だけでなく、IHCスコアの精密な読み取りと臨床との連携体制を整えることが、今後の乳癌治療の質に直結します。
関連)https://oncolo.jp/news/260317ra01
参考:T-DXdによるILD中止後の後続治療の有効性と安全性についての最新データは以下を参照してください。
エンハーツによる間質性肺疾患で治療を中止したHER2陽性乳がん患者における後続治療 | Oncolo
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