「N95マスクを正しく装着していても、フィットテスト未実施なら感染リスクはほぼゼロになりません。」
空気感染(飛沫核感染)とは、病原体を含む直径5μm以下の微粒子(飛沫核)が空気中に長時間浮遊し、遠距離にいる人の呼吸器粘膜に到達することで成立する感染経路です。飛沫感染(直径5μm超の飛沫による近距離感染)とは明確に区別されます。これが基本です。
空気感染予防策の対象として、国内外のガイドラインが明確に指定している疾患は主に3つです。
- 結核(Mycobacterium tuberculosis):開放性肺結核患者の喀痰中に菌が含まれ、乾燥した飛沫核として数時間以上空気中に浮遊します。
- 麻疹(Measles):感染力が極めて強く、感染者が退室した後も最大2時間、同じ空間に飛沫核が残存するとされています。
- 水痘・播種性帯状疱疹(Varicella/Disseminated Zoster):水疱内容物の直接接触に加え、飛沫核による空気感染も確認されているため、接触感染予防策との併用が必要です。
意外に思われるかもしれませんが、COVID-19については当初「飛沫感染」が主体とされていたため、標準的な空気感染予防策の対象に含まれていなかった時期があります。しかし2021年以降、WHO・CDC・日本環境感染学会はいずれも「エアロゾル感染(空気感染に準じた感染)」のリスクを正式に認め、換気の強化とN95マスクの使用を推奨する方向に転換しました。つまり、空気感染予防策の対象は静的なリストではないということです。
参考として、日本環境感染学会が公表している「医療機関における感染対策ガイドライン」には、各感染経路別の予防策と対象疾患の一覧が掲載されています。
日本環境感染学会|医療機関における感染対策ガイドライン(PDF)
さらに注意が必要なのは、SARS・エボラ出血熱・ラッサ熱などのウイルス性出血熱です。これらは飛沫感染・接触感染が主体とされる一方で、一定の医療処置時には空気感染予防策の追加が必要とされています。つまり疾患名だけで判断せず、処置の種類も考慮することが原則です。
N95マスクは、0.3μmの粒子を95%以上捕集できる性能を持つ呼吸用保護具です。しかし、正しく装着しなければその性能はほぼ無意味になります。これは現場でも見落とされがちな重大な事実です。
米国OSHA(労働安全衛生局)の規定では、N95マスクを医療用途で使用する際、初回使用前および使用するモデルが変わるたびにフィットテストの実施が義務付けられています。日本においても厚生労働省の「医療機関における院内感染対策について」の通知の中で、フィットテストの重要性が示されています。フィットテストなしでの使用は条件が違います。
フィットテストには主に2種類あります。
- 定性的フィットテスト(QLFT):甘味や苦味のある物質をスプレーし、使用者がマスク内でその味を感知するかどうかで漏れを確認する方法です。
- 定量的フィットテスト(QNFT):専用の測定機器でマスク内外の粒子濃度を計測し、数値でフィットファクターを算出する方法です。より精度が高いとされています。
現場で多い装着ミスとして以下が挙げられます。
| 装着ミスの種類 | リスクの内容 |
|---|---|
| ノーズクリップを曲げていない | 鼻梁と隙間ができ、飛沫核が直接流入する |
| ストラップが緩い | 顔面との密着が不十分になる |
| 顎の下までマスクを被せていない | 顎部から空気が漏れる |
| 着脱時に表面を触る | 二次汚染のリスクが生じる |
| 長時間使用によるフィット低下 | 着用中でも定期的な密着確認が必要 |
フィットテストを実施していても、体重変動や顔の形状の変化によってフィット状態が変わることがあります。体重が5kg以上増減した場合は再テストを推奨するガイドラインもあります。意外ですね。
厚生労働省|医療機関における院内感染対策サーベイランス事業(感染予防策の実施基準に関する解説)
空気感染予防策が必要となる場面は、感染症の診断がついている患者への対応だけではありません。特定の医療処置を行う際にも、空気感染予防策の適用が求められます。この点は見落とされやすいです。
エアロゾル産生手技(Aerosol-Generating Procedures:AGP)とは、呼吸器系からエアロゾルを多量に発生させ、空気感染リスクを高める処置のことを指します。代表的なAGPには以下のものがあります。
- 気管挿管・抜管および気道管理
- 気管支鏡検査
- 開放式気管吸引
- 非侵襲的陽圧換気(NPPV・BiPAP・CPAP)
- ネブライザー吸入療法
- 高流量鼻カニュラ酸素療法(HFNC)
- 心肺蘇生(CPR)
これらの処置は、たとえ感染症の確定診断がついていない患者に対して実施する場合でも、患者の感染リスクが不明であれば空気感染予防策を適用することが推奨されています。つまり「診断がつくまで待つ」という姿勢は危険ということです。
また、注目すべき点として、内視鏡検査(特に上部消化管内視鏡)もAGPとして分類されることがあります。内視鏡時の咽頭刺激によって患者が咳嗽・嘔吐反射を起こすと、大量のエアロゾルが発生するためです。これは内視鏡室スタッフにとって直接関係する情報です。
日本消化器内視鏡学会|内視鏡診療における感染制御に関するガイドライン(AGPの記載あり)
AGPを実施する場所についても、可能であれば陰圧室または換気が十分な個室で行うことが推奨されています。入院環境が整っていない外来や救急外来では、換気扇の活用・ドアの閉鎖・人員の最小化など、代替策を組み合わせることが現実的な対応です。結論は、設備の有無にかかわらず手技の開始前に環境を整えることです。
空気感染予防策では、患者を「空気感染隔離室(Airborne Infection Isolation Room:AIIR)」に収容することが原則とされています。これが条件です。
AIIRに求められる主な設備基準は以下の通りです。
- 陰圧の維持:廊下に対して室内が陰圧(-2.5Pa以上)を保つこと
- 換気回数:1時間あたり12回以上の換気(既存施設では最低6回)
- 排気処理:排気は屋外に直接排出するか、HEPAフィルターを通じて再循環する
- ドア管理:ドアは常時閉鎖し、室内外の差圧を維持する
- 室内監視:差圧モニターまたは差圧計で陰圧状態を日常的に確認する
これらはCDCのガイドライン「Guidelines for Preventing the Transmission of Mycobacterium tuberculosis in Health-Care Settings(2005年)」および日本建築学会・厚生労働省の基準に基づくものです。
現場でよく起きる問題の一つが、「空調のトラブルや点検作業によって一時的に陰圧が維持できなくなる」ケースです。差圧計の警報設定を適切に行い、陰圧が失われた際の代替プロトコル(患者に高性能マスクを着用させる、スタッフの入室を最小化するなど)を事前に策定しておくことが重要です。これは使えそうです。
また、陰圧室が不足している施設では、コホーティング(同一感染症患者を同室に収容する)が代替策として認められています。ただし、結核については同一の薬剤感受性パターンを持つ患者間のみでの実施が推奨されており、多剤耐性結核(MDR-TB)患者と通常の結核患者を同室に収容することは避けなければなりません。
CDC|Guidelines for Preventing Transmission of M. tuberculosis in Health-Care Settings(英語)
一般的な感染対策の教育では、「疾患名→該当する予防策」という直線的な思考が教えられます。しかし実際の臨床現場では、患者の免疫状態や感染フェーズによって空気感染予防策の継続・解除の判断が変わるという視点は十分に強調されていません。
たとえば水痘の場合、すべての病変が痂皮化するまで空気感染予防策と接触感染予防策の併用が必要とされています。痂皮化が不完全な状態で「解熱したから」という理由で隔離を解除するミスは、実際に院内での水痘拡散事例として報告されています。
結核については、以下の3条件が揃った場合に空気感染予防策の解除が検討されます。
1. 有効な抗結核薬の投与開始から2週間以上が経過していること
2. 3回連続の喀痰塗抹検査(AFB塗抹)が陰性であること
3. 臨床症状が改善していること
この「3つの条件が揃う」という点が重要です。1つや2つだけでは解除の根拠にはなりません。3条件が条件です。
さらに注目されているのが、免疫抑制患者(造血幹細胞移植後・長期ステロイド使用者・HIV感染者など)に対する逆隔離(保護的隔離)との兼ね合いです。たとえば免疫抑制患者が水痘患者と同室になるリスクは通常患者の数倍以上とされており、コホーティングの際にはこの観点からのリスク評価も欠かせません。
また、医療従事者自身の免疫状態の管理も重要です。麻疹・水痘に対して免疫を持たない医療従事者が空気感染予防策の対象患者のケアを行う場合、感染リスクが著しく上昇します。日本環境感染学会は、医療従事者の麻疹・風疹・水痘・流行性耳下腺炎に対するワクチン接種歴または抗体価の確認を推奨しています。麻疹IgG抗体価がEIA法で「陰性~低値(1.0未満)」の医療従事者は、追加接種の対象です。これは必須です。
自施設の職員の抗体価管理に不安がある場合、職員健康管理システムや感染管理ナースと連携して定期的なサーベイランスを実施することが、組織全体のリスク低減につながります。まず感染管理担当部署への確認から始めてみてください。
日本環境感染学会|医療関係者のためのワクチンガイドライン(第3版)
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