抗HBs人免疫グロブリンは、B型肝炎ウイルス(HBV)に対する特異的な中和抗体を含む血漿分画製剤です。その作用機序は、二重構造を有するB型肝炎ウイルスの表面抗原(HBs抗原)に対する抗体として機能することにあります。
HBs抗体は、B型肝炎ウイルス感染防御抗体として重要な役割を果たします。体内に侵入したB型肝炎ウイルスは血行性に肝臓に達し、そこで増殖を開始します。しかし、抗HBs人免疫グロブリンを速やかに投与することで、ウイルスが血中にある段階で中和することが可能となります。
この製剤の効果は非常に高く、HBs抗原陽性血液による汚染事故後のB型肝炎発症予防において、有効率90%以上という優れた成績を示しています。特に、抗HBs抗体価が高い献血者の血漿を原料とし、抗HBs抗体を高濃度(200単位/mL以上)に濃縮しているため、受動免疫による確実な効果が期待できます。
抗HBs人免疫グロブリンの副作用発現率は、使用目的や対象患者によって異なります。HBs抗原陽性血液の汚染事故後のB型肝炎発症予防における副作用発現率は、1,104例中39例(3.5%)と報告されています。
一方、より大規模な調査では、681例中39例(5.7%)で副作用が発現し、発現件数は103件、平均2.6件/例という結果も示されています。これらの数値から、副作用発現率は概ね3.5-5.7%の範囲にあることが分かります。
主な副作用の種類と頻度は以下の通りです。
これらの副作用の多くは軽度から中等度であり、一過性のものが大部分を占めています。
新生児のB型肝炎予防における抗HBs人免疫グロブリンの使用は、母子間垂直感染防止の重要な手段となっています。1989年2月までの調査では、82例の新生児に使用され、受動免疫獲得率は98.8%という極めて良好な成績を示しました。
新生児への使用における安全性は非常に高く、197例において副作用が発現した症例は1例も認められませんでした。これは成人での使用と比較して著しく低い副作用発現率であり、新生児における本剤の安全性の高さを示しています。
新生児への投与は原則として沈降B型肝炎ワクチンとの併用で行われ、受動免疫と能動免疫の両方の効果を期待することができます。この併用療法により、長期的な免疫獲得と即効性のある感染防御の両方を実現できるため、母子感染防止において標準的な治療法となっています。
抗HBs人免疫グロブリンには、稀ではあるものの重篤な副作用としてショックの発現が報告されています。ショックは生命に関わる重篤な副作用であるため、投与時には十分な観察と適切な対処が必要です。
ショックの初期症状には以下のようなものがあります。
これらの症状が認められた場合は、直ちに投与を中止し、適切な救急処置を行う必要があります。アドレナリンの投与、輸液による循環血液量の維持、酸素投与などの対症療法が重要となります。
また、本剤は特定生物由来製品に該当するため、投与した場合はその名称(販売名)、製造番号、投与した日、患者の氏名・住所等を記録し、少なくとも20年間保存することが義務付けられています。これは製品の安全性確保と、万が一の健康被害発生時の追跡調査を可能にするための重要な措置です。
抗HBs人免疫グロブリンの使用において、医療従事者が特に注意すべき点の一つが生ワクチンとの相互作用です。本剤の主成分は免疫抗体であるため、中和反応により生ワクチンの効果が減弱されるおそれがあります。
具体的な相互作用の対象となる生ワクチンには以下があります。
本剤の投与を受けた患者は、生ワクチンの効果が得られないおそれがあるため、生ワクチンの接種は本剤投与後3カ月以上延期することが推奨されています。
逆に、生ワクチン接種後14日以内に本剤を投与した場合は、投与後3カ月以上経過した後に生ワクチンを再接種することが望ましいとされています。この期間は、本剤由来の抗体が体内から十分に除去され、生ワクチンの効果が適切に発揮されるために必要な時間です。
この相互作用は、特に小児科領域において重要な考慮事項となります。定期予防接種のスケジュールと抗HBs人免疫グロブリンの投与時期を適切に調整することで、両方の効果を最大限に活用することが可能となります。医療従事者は、患者の予防接種歴を詳細に確認し、適切な投与計画を立てることが求められます。