iPS細胞の凍結保存は、その多能性を保持しながら長期間保存するための重要な技術です。保存プロセスでは、細胞を液体窒素のような極低温(-196℃)で保存することによって、細胞の代謝活動を完全に停止させます。
凍結保存の基本手順は以下の通りです。
この技術により、iPS細胞は数年から数十年にわたって保存が可能となり、必要な時に解凍して再培養できます。
日本では、iPS財団による「iPS細胞ストックプロジェクト」が実用化において重要な役割を果たしています。このプロジェクトでは、HLA(ヒト白血球抗原)型が適合するドナーから製造したiPS細胞を大量に保存し、臨床研究や企業に提供しています。
ストックプロジェクトの成果:
細胞調製施設(FiT)では、GMP(医薬品製造管理基準)およびGCTP(細胞・組織加工製品製造管理基準)に準拠した厳格な品質管理のもとで製造・保存が行われています。
従来のDMSOを用いた凍結保存法に加えて、より効率的で安全な保存技術の開発が進んでいます。
ガラス化凍結法:
霊長類ES/iPS細胞に特化した「ステムセルキープ」などの保存液が開発されており、ガラス化能を高く維持しながら細胞毒性を低減することが可能です。この手法では、氷結晶の形成を完全に防ぎ、より高い細胞生存率を実現できます。
自動化システムの導入:
自動培養システムにより、細胞播種、培地交換、細胞イメージング、細胞回収の全工程を自動化することで、保存前の品質管理を向上させています。60日間、20継代にわたる長期培養においても多能性を維持できることが実証されています。
医療用iPS細胞の保存には、厳格な品質管理システムが不可欠です。特に細胞の未分化状態の維持と汚染防止が重要な課題となります。
品質評価項目。
新規安全技術:
ヒトiPS/ES細胞特異的レクチン「rBC2LCN」を用いた残存未分化細胞の検出・除去技術が開発されています。この技術により、分化誘導後に残存する未分化細胞を選択的に除去し、移植時の腫瘍形成リスクを大幅に低減できます。
iPS細胞保存技術の実用化には、まだ解決すべき課題が残されています。特に保存期間中の品質劣化や、大規模保存における効率性の向上が重要です。
現在の課題。
将来展望。
個人向けiPS細胞保存サービスも開始されており、予防医療の観点から健康な時に自分のiPS細胞を保存する取り組みが進んでいます。また、冷凍組織からのiPS細胞作製技術により、既存の生体試料バンクの活用も期待されています。
iPS細胞ストックプロジェクトの詳細について(iPS財団公式サイト)
iPS細胞保存技術は、再生医療の実用化において不可欠な基盤技術として発展を続けています。適切な保存技術により、必要な時に高品質なiPS細胞を迅速に提供できる医療体制の構築が進んでおり、今後さらなる技術革新により、より安全で効率的な保存システムの実現が期待されます。