エムガルティ(ガルカネズマブ)の薬価を「去年と同じだろう」と確認せず処方すると、患者の自己負担が想定より月1万円以上増えるケースがあります。
エムガルティ(一般名:ガルカネズマブ)は、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)を標的とした抗体製剤で、反復性片頭痛および慢性片頭痛の予防療法として承認されています。日本では2021年に保険収載され、片頭痛治療の選択肢として広がりを見せてきました。
2025年度の薬価改定では、エムガルティ皮下注120mgシリンジ(1mL)の薬価は1本あたり約39,000〜40,000円台の水準で推移しています(改定前は約42,000円前後)。これは毎年4月に実施される通常改定の影響によるものです。
薬価引き下げの背景には、市場拡大再算定と特例拡大再算定の仕組みがあります。エムガルティのように発売後に販売額が予測を大きく上回った品目は、市場拡大再算定の対象となる場合があります。引き下げ率は品目ごとに異なりますが、数%〜最大25%の範囲で設定されます。
つまり薬価は毎年4月に変動するのが原則です。
医療従事者にとって重要なのは、この薬価変動が患者の月あたり自己負担額に直結するという点です。たとえば3割負担の患者が月1本使用する場合、薬価が42,000円から39,500円に下がれば自己負担は12,600円から11,850円へと約750円減少します。小さな差に見えますが、年単位では約9,000円の差になります。
これは患者にとっていいことですね。
参考:厚生労働省 令和7年度薬価改定について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411.html
エムガルティの承認用法は、初回240mg(120mgを2本)皮下注射、以降は月1回120mgの皮下注射です。この「初月2本投与」という点が、薬剤費計算において見落とされやすいポイントです。
初月の薬剤費(3割負担の場合)を試算してみます。
| 投与月 | 使用本数 | 薬価(1本約39,500円で計算) | 薬剤費合計 | 3割自己負担 |
|---|---|---|---|---|
| 初月 | 2本 | 39,500円×2 | 79,000円 | 約23,700円 |
| 2月目以降 | 1本 | 39,500円×1 | 39,500円 | 約11,850円 |
初月は2本分の費用がかかるということですね。
この試算はあくまで薬剤費のみです。実際の患者負担には診察料、注射手技料、処方箋料なども加わります。患者への事前説明では「初月だけ費用が倍近くかかる」という点を必ず伝えましょう。これを伝えずにいると、初月の請求を見た患者が驚いて治療を中断するリスクがあります。
治療継続が最優先です。
また、処方箋を発行する際には薬価改定後の最新の薬価情報を確認することが欠かせません。院内システムの薬価マスタが改定に追いついていないケースも年度初めには見られます。4月以降の処方では必ずシステムの薬価データが更新されているかを確認する習慣をつけましょう。
エムガルティのような高額な生物学的製剤を継続処方する場合、高額療養費制度の適用が患者の治療継続に直結します。これが原則です。
高額療養費制度とは、1か月の医療費の自己負担額が一定の上限(自己負担限度額)を超えた場合に、超過分が払い戻される制度です。上限額は年齢と所得区分によって異なります。
たとえば年収約370〜770万円の一般所得区分(区分ウ)の場合、自己負担限度額は以下の計算式で算出されます。
80,100円+(医療費総額−267,000円)×1%
エムガルティの薬剤費だけで月79,000円(初月)になることを考えると、他の受診費用と合算すれば高額療養費制度の上限に達するケースも十分あり得ます。
患者への説明時に伝えるべき実務的なアドバイスとして以下の3点が挙げられます。
限度額適用認定証は事前申請が条件です。
参考:全国健康保険協会 高額療養費制度の詳細
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3030/r150/
片頭痛予防薬のCGRP関連製剤は現在、日本市場において複数存在します。医療従事者として処方選択を行う際には、エムガルティだけでなく競合薬との薬価比較も重要な判断材料になります。
2025年時点での主なCGRP関連製剤の概要を以下に示します。
| 製品名 | 一般名 | 投与方法 | 投与間隔 | 薬価目安(1回分) |
|---|---|---|---|---|
| エムガルティ | ガルカネズマブ | 皮下注射 | 月1回(初回2本) | 約39,500円/本 |
| アジョビ | フレマネズマブ | 皮下注射 | 月1回または3か月1回 | 約40,000〜120,000円 |
| アイモビーグ | エレヌマブ | 皮下注射 | 月1回 | 約41,000円/本 |
いずれも高額な生物学的製剤です。
薬価だけでなく、投与スケジュールの柔軟性や患者の利便性、自己注射の可否なども処方選択の重要な要素です。エムガルティは患者自己注射が認められており、通院コストを含めたトータルな費用負担を考えると、薬価のみの比較では見えない優位性が出てくることもあります。
たとえばアジョビの3か月に1回投与(フレマネズマブ675mg)は、通院回数が年4回に抑えられるという大きなメリットがあります。患者が遠方に住んでいたり、仕事の都合で通院が難しい場合には、薬価がやや高くても選択肢として検討できます。
処方選択は薬価だけで決めてはいけません。患者の生活背景・通院状況・自己注射の意欲などを総合的に評価した上で最適な製剤を選ぶことが、治療継続率の向上につながります。
参考:日本神経学会 頭痛診療ガイドライン
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/headache_2021.html
薬価情報は医療従事者が管理するものであり、患者に細かく伝える必要はないと考える方もいるかもしれません。しかし実際には、費用の透明性を欠いた処方説明が治療中断の最大要因の一つになっています。これは見落とされがちな視点です。
厚生労働省の調査では、長期処方が必要な疾患において患者が治療を中断する理由の上位に「費用への不安」が挙がっています。特に生物学的製剤のように薬価が高い製剤では、処方前の丁寧な費用説明が治療アドヒアランスに直接影響します。
以下に、エムガルティを初めて処方する際に実施すべき患者説明チェックリストをまとめます。
このリストを活用すれば患者説明が標準化できます。
特に「効果判定の時期と費用の見通し」をセットで伝えることが重要です。「3か月間は様子を見てください、その間の費用は月約12,000円です」という形で伝えると、患者は費用と期間を同時に把握できるため、治療継続への心理的ハードルが下がります。
費用と効果をセットで説明するのが基本です。
処方後のフォローアップ時にも、薬価改定のタイミング(毎年4月)に合わせて自己負担の変化を患者に知らせる仕組みを作っておくと、患者からの信頼を高めるとともに予期せぬ費用トラブルを防ぐことができます。これはクレーム防止の観点からも有効な取り組みです。
参考:日本頭痛学会 片頭痛治療ガイドライン・患者向け情報
https://www.j-headache.net/