ドラール(クアゼパム)は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の中でも中期作用型に分類される睡眠障害改善剤です 。GABA-Aレセプターのα1サブユニットに特異的に結合し、他のαサブユニットへの親和性が低いため、抗不安作用や筋弛緩作用が比較的弱いという特徴を持ちます 。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00045765
薬物動態学的には、半減期が36.60±7.26時間と長く、体内への蓄積性が高い薬剤です 。食後投与により血中濃度が有意に上昇し(Cmax: 15.36→47.90ng/mL)、AUCも約2倍に増加するため、食事との関係を考慮した投与指導が重要となります 。
不眠症に対しては、通常成人にクアゼパムとして1回20mgを就寝前に経口投与します 。年齢、症状、疾患により適宜増減可能ですが、1日最高量は30mgと定められています 。
麻酔前投薬としての使用では、手術前夜に15〜30mgを就寝前投与することで、術前不安の軽減と良好な睡眠確保を図ります 。この用法は、手術に対する患者の心理的負担軽減と、麻酔導入時のスムーズな経過を目的としています 。
参考)https://shinryohoshu.mhlw.go.jp/shinryohoshu/yakuzaiMenu/doYakuzaiInfoKobetsuamp;1124030F2025;jsessionid=8806AB2BE2CB09E091E595501C0435E9
中途覚醒や早朝覚醒を主訴とする熟眠障害に対して、その長時間作用により睡眠の質改善効果が期待されます 。特に入眠困難よりも睡眠維持困難を主症状とする患者において、その薬理学的特性が臨床的に有用とされています。
参考)https://www.fureaikanpou.com/post/%E7%9D%A1%E7%9C%A0%E8%96%AC%E3%81%AE%E7%A8%AE%E9%A1%9E%E3%81%A8%E7%89%B9%E5%BE%B4%EF%BC%88%E4%B8%8D%E7%9C%A0%E7%97%87%EF%BC%9A%E3%81%9D%E3%81%AE7%EF%BC%89
頻度の高い副作用として、眠気・傾眠(5%以上)、ふらつき・頭重感(1〜5%未満)が報告されています 。これらは薬理作用に直接関連する副作用であり、患者の日常生活への影響を慎重に評価する必要があります。
重篤な副作用には依存性形成があり、薬への欲求が抑制できない状態や、中止時の離脱症状(痙攣・不眠・不安)が生じる可能性があります 。また、一過性前向性健忘やもうろう状態といった認知機能への影響も注意すべき副作用です。
参考)https://www.qlife.jp/meds/rx43029.html
肝機能への影響として、AST・ALT・LDHの上昇が1〜5%未満の頻度で認められ、稀に肝機能障害や黄疸の報告もあります 。定期的な肝機能モニタリングが推奨されます。
常用量依存の形成において、服用期間が最も重要な危険因子となります 。服用3〜4ヶ月前後が常用量依存を形成する分岐点と考えられており、8ヶ月以上の服用患者の43%に離脱症状が認められています 。
参考)https://www.fpa.or.jp/library/kusuriQA/21.pdf
離脱症状の発現機序は、薬物により抑制されていた脳の興奮が、薬物消失により急激に解放されることによります 。主要な離脱症状として、反跳性不眠、不安・焦燥感、振戦、嘔気・嘔吐、重篤な場合には痙攣発作やせん妄も報告されています 。
参考)https://www.shinagawa-mental.com/othercolumn/62281/
段階的減量プロトコルが安全な中止のための標準的アプローチです 。急激な中止は避け、患者の状態を注意深く観察しながら、数ヶ月をかけて徐々に減量することが推奨されます 。
参考)https://kokoro-egao.net/blog/?p=504
離脱症状への対処では、症状出現時に一時的に元の用量に戻し、より緩やかな減量スケジュールを再設定することが重要です 。
高齢者での薬物動態変化により、肝腎機能低下に伴う薬物代謝・排泄能力の減退が生じ、体内蓄積のリスクが増大します 。特に長時間作用型であるドラールでは、翌朝への持ち越し効果が顕著に現れやすくなります 。
参考)https://shintoko.org/%E5%86%85%E7%A7%91%E9%AB%98%E9%BD%A2%E8%80%85%E7%B7%8F%E5%90%88%E8%A8%BA%E7%99%82/%E3%81%9F%E3%81%8F%E3%81%95%E3%82%93%E3%81%AE%E3%81%8A%E8%96%AC%E3%82%92%E6%9C%8D%E7%94%A8%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%8A%E5%B9%B4%E5%AF%84%E3%82%8A%E3%83%BC%E8%96%AC%E5%AE%B3%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84/
転倒リスクは通常の2倍以上に上昇し、これは筋弛緩作用による平衡機能障害と認知機能低下が複合的に作用するためです 。夜間のトイレ移動時や起床時のふらつきが特に危険とされています 。
参考)https://www.pref.iwate.jp/kennan/hoken/iryo/1066932/1066934.html
認知機能への影響として、記憶力・注意力の低下に加え、せん妄誘発のリスクも高まります 。複数の併用薬との相互作用により、予期しない認知機能低下が生じる可能性があります。
高齢者への処方では、少量開始・慎重な用量調節が原則であり、可能な限り非薬物療法や他の治療選択肢を優先的に検討すべきです 。
術前不安管理における麻酔前投薬としての使用は、ドラールの重要な適応の一つです 。手術前夜の15〜30mg投与により、患者の心理的負担を軽減し、良質な睡眠を確保することで、翌日の麻酔導入をスムーズに行うことができます 。
参考)https://www.hisamitsu-pharm.jp/product/data/doral_t.pdf
独自の臨床活用法として、慢性疼痛患者の睡眠障害に対する応用があります。疼痛により中途覚醒を繰り返す患者において、ドラールの長時間作用が痛みによる睡眠分断を軽減し、疼痛閾値の改善にも寄与する可能性が示唆されています。
集中治療室での応用では、人工呼吸器装着患者の夜間鎮静において、日中の覚醒レベルを維持しながら夜間の安定した鎮静を得る目的で使用される場合があります。ただし、長時間作用による翌日への影響を慎重に評価する必要があります。
周術期管理において、術後せん妄予防の観点から、手術前の睡眠パターン正常化を目的とした短期間の使用も検討されています。
参考:久光製薬株式会社によるドラール製品情報と臨床データ
https://www.hisamitsu-pharm.jp/product/data/doral_t.pdf