ドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System:DDS)は、体内での薬物分布を量的・空間的・時間的に精密制御し、治療効果を最大化しつつ副作用を最小化する薬物伝達システムです 。
参考)https://www.interphex.jp/hub/ja-jp/blog/article_032.html
DDSの核心概念は「必要な薬物を、必要な場所に、必要な時に、必要な量だけ届ける」ことにあります 。従来の薬物投与では、薬剤が全身に分散してしまい、治療目標とする部位以外にも作用することで副作用が生じていました 。
参考)https://www.ltt.co.jp/rd/dds/
この技術により期待される主要な効果は以下の通りです:
DDSは製剤技術の一つとして位置づけられ、疾患部位に必要な薬効成分を適切な時間のみ作用するように調整する技術として定義されています 。
参考)https://answers.ten-navi.com/dictionary/cat07/2929/
標的指向型DDSは、薬剤を特定の細胞や組織に効率的に届けるための最も重要な技術の一つです 。この技術は「受動的標的化」と「能動的標的化」の2つの基本原理に分類されます 。
参考)https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/category/lifescience/vaccine_manufacturing/dds_vaccine/index.html
受動的標的化では、薬物を運ぶキャリアの物理化学的性質(粒子サイズ、親水性など)を最適化することで、体内での薬物動態を制御します 。特に注目されるのがEPR効果(Enhanced Permeability and Retention effect)で、がん組織周辺の血管内皮細胞間に存在する大きな隙間を利用して、ナノサイズの薬物キャリアをがん部位に集積させることができます 。
参考)https://gan-mag.com/study/1768.html
能動的標的化は「ミサイルドラッグ」とも呼ばれ、抗体や糖鎖などの分子認識素子を用いて病変部位への親和性を高める手法です 。近年特に注目されているのがADC(Antibody-Drug Conjugate:抗体薬物複合体)技術で、標的がん細胞に対する抗体に細胞毒性の高い薬物を結合させることで、副作用リスクを大幅に低減しながら治療効果を向上させています 。
参考)https://answers.ten-navi.com/pharmanews/17698/
免疫細胞サブセットを標的とするナノDDS技術も開発が進んでおり、特定の免疫細胞の機能を人為的に改変することで、がん免疫応答の最適化が可能になっています 。
参考)https://yakugaku.w3.kanazawa-u.ac.jp/~ddscience/research/
抗組織因子(TF)抗体修飾リポソームによる新たな標的化技術では、膵がんのような治療困難ながんに対しても高い治療効果を示すことが実証されています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/dds/34/1/34_22/_pdf
放出制御技術は、薬剤の血中濃度を治療域内で長時間維持し、投与回数を削減する重要なDDS技術です 。この技術は主に「徐放性製剤」と「時限放出型製剤」に分類されます 。
参考)https://www.pharm.or.jp/words/word00744.html
徐放性製剤は、薬物成分が少しずつ長時間にわたって放出され続けるように設計された製剤で、以下のような特徴があります :
参考)https://answers.ten-navi.com/dictionary/cat04/2736/
製剤設計では「マルチプルユニットタイプ」と「シングルユニットタイプ」に大別されます 。前者は個々の顆粒が徐放性を持つ設計、後者は製剤全体が一体となって徐放性を維持する設計です。
臨床応用例として、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)の徐放性製剤があります 。従来は毎日の皮下注射が必要でしたが、徐放化により1回の投与で1週間効果が持続し、がん化学療法患者の通院負担を大幅に軽減しています 。
参考)https://www.yakuji.co.jp/entry12817.html
経皮吸収製剤においても放出制御技術が活用されており、狭心症治療薬のニトロダームTTSや禁煙補助薬のニコチネルTTSなど、皮膚から時間をかけて薬剤が放出・吸収される製剤が実用化されています 。
ナノテクノロジーを活用したドラッグデリバリーシステム(ナノDDS)は、従来の治療法では困難だった疾患に対する革新的な治療選択肢を提供しています 。
参考)https://reinforz.co.jp/bizmedia/28300/
ナノミセル技術では、10nm程度の高分子化合物を用いて二重のコアーシェル構造を形成し、外側の親水性部分が生体適合性を確保しながら、内側の疎水性部分に抗がん剤などの薬物を封入します 。この構造により、免疫システムによる認識を回避する「ステルス性」を獲得し、血中を循環して標的部位に到達できます 。
リポソーム技術は、人工的に合成された球形脂質構造体で、高い生体適合性と安定性を持ちます 。抗体修飾リポソームでは、標的分子に対する抗体をリポソームに結合させることで、がん細胞への特異的な薬物送達が実現されています 。
参考)https://www.sciengine.com/doi/10.3724/SP.J.1123.2024.08012
ナノテクノロジーDDSの特筆すべき利点は、血液脳関門の突破です 。従来、脳への薬物送達は血液脳関門によって大きく制限されていましたが、ナノキャリアを用いることでこの生理学的障壁を克服し、中枢神経系疾患の治療可能性が大幅に拡大しています。
マイクロバブルを用いた超音波セラノスティクス(診断と治療の融合)技術も注目されており、超音波との組み合わせにより局所的な薬物放出制御が可能となっています 。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/42ca985c5e6699df774df78aeb3a097bbc5c1af3
ナノDDS技術により、従来は開発を断念せざるを得なかった高い細胞毒性を持つ化合物の安全な臨床応用や、タンパク質・ペプチド・核酸といった不安定な生体分子の効率的送達が実現されています 。
中分子医薬品(核酸医薬品・ペプチド医薬品)は、低分子医薬品と高分子医薬品の中間的特性を持つ新しい創薬モダリティとして注目を集めています 。しかし、これらの中分子化合物は生体内での安定性や細胞膜透過性などの課題を抱えており、DDS技術による解決が不可欠です 。
参考)https://www.cmcbooks.co.jp/products/detail.php?product_id=8508
核酸医薬品においては、血液中での分解回避と標的細胞への効率的送達が主要な課題です 。リポゾーム製剤や脂質ナノ粒子製剤の開発により、siRNAやmRNAなどの核酸医薬品の実用化が大幅に進展しています 。
参考)https://www.ohara-ch.co.jp/recruit/graduate/occupation/dds/
特に線維症治療では、HSP47 siRNAをビタミンA修飾リポソームに封入し、肝星細胞を標的化することで、従来治療が困難だった肝線維症に対する新たな治療選択肢が開発されています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/dds/31/1/31_62/_article/-char/ja/
ペプチド医薬品では、プロテアーゼによる分解や腎クリアランスによる短い体内滞留時間が課題となっています 。ペプチドリガンドを搭載したナノDDS技術により、体内のあらゆる臓器・組織を標的化し、オルガネラレベルでのターゲティングが実現可能となっています 。
参考)https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2017.890039/data/index.html
将来展望として、DDSと他の技術との融合が期待されています 。特にターゲティング技術の発展により、遺伝子治療、再生医療、がん治療、脳科学、分子イメージングなどの分野でDDS技術が重要な役割を果たすと予想されます 。
参考)https://www.yakuji.co.jp/entry14884.html
創薬段階からDDS技術を取り込む「創薬的DDS」の概念も注目されており、既存薬物の製剤的改良にとどまらず、DDS技術を前提とした新規薬物設計が進展しています 。
政府の科学技術基本計画においても、ライフサイエンス分野とナノテク・材料分野の重要技術としてDDSが位置づけられており、今後の技術革新と臨床応用の加速が期待されています 。
ドラッグデリバリーシステムの基本技術とメリットについて詳細解説
DDS研究の最新動向と応用分野について
DDSの3つの分類と各技術の原理について