乳幼児医療証があっても、薬局と病院を別々に受診すると自己負担が二重発生します。

デュピクセント(一般名:デュピルマブ)は、IL-4およびIL-13シグナル伝達を阻害するヒト型モノクローナル抗体製剤です。日本では2018年に成人アトピー性皮膚炎への保険適用が承認され、長らく15歳以上が対象でした。その後、小児における有効性・安全性データの蓄積を経て、2023年9月25日に生後6ヶ月以上の小児アトピー性皮膚炎へと適応が拡大されました。これにより、日本で初めて「生後6ヶ月から全年齢」のアトピー性皮膚炎に適応を有する生物学的製剤となりました。
小児のアトピー性皮膚炎は、掻破行動のコントロールが難しく、睡眠障害・QOL低下が著しい年齢層でもあります。既存の外用ステロイド療法やタクロリムス軟膏で十分なコントロールが得られない中等症〜重症例では、早期からの生物学的製剤導入が有益な場合があります。これは使える選択肢が広がったということです。
なお、適応の条件として「ステロイド外用薬(ストロングクラス以上)等の抗炎症外用薬による適切な治療を行っても十分な効果が得られない中等症以上」という要件があります。小児においても、この前治療要件の確認は処方前に必須です。
参考:小児アトピー性皮膚炎における適応要件と投与フローについては、サノフィ社の最適使用推進ガイドラインを参照してください。
厚生労働省 中央社会保険医療協議会 デュピクセント最適使用推進ガイドライン(議事録)
小児への投与量は成人と異なり、体重によって4段階に細かく分類されている点が重要です。単純に「子供だから量が少なく安い」とは限らず、体重帯によっては成人と同量になることもあります。つまり薬価は体重次第です。
以下に体重別の投与設定をまとめます。
| 体重 | 初回投与量 | 維持投与量・間隔 |
|---|---|---|
| 5kg以上15kg未満 | 200mg(1本) | 200mg/4週ごと |
| 15kg以上30kg未満 | 300mg(1本) | 300mg/4週ごと |
| 30kg以上60kg未満 | 400mg(2本) | 200mg/2週ごと |
| 60kg以上(小児) | 600mg(2本) | 300mg/2週ごと(成人と同様) |
注目すべきは、5kg以上15kg未満の小児(乳幼児期に多い体重帯)では投与間隔が4週に1回となる点です。成人・大柄な小児(60kg以上)の2週間ごとと比較すると、投与頻度が半分になります。これは薬剤費の月額換算でも大きな差につながります。
令和8年3月時点の薬価をもとにすると、200mgシリンジ(1本)の薬価は約53,493円、300mgペン(1本)は約53,659円です。3割負担の場合、それぞれ約16,048円・16,098円が窓口負担の目安となります。4週ごとの投与であれば月1回分の薬剤費で済む計算なので、成人(月2本)の半額以下になるケースもあります。これは使えそうです。
参考:サノフィ株式会社 デュピクセント患者向け薬剤費ページ(令和8年3月更新)
デュピクセント公式 アトピー性皮膚炎の薬剤費の目安(サノフィ株式会社)
小児患者の家族にとって最も影響が大きいのが、各種医療費助成制度の活用です。制度を正確に理解し、保護者へ適切に説明することが、医療従事者として大切な役割の一つです。主な制度は以下の通りです。
医療機関で処方した後、患者・保護者が薬局でも自己負担を支払う仕組みになっているため、「病院の窓口で乳幼児医療証を使ったから支払いはゼロのはず」という思い込みが生じやすいです。病院と薬局は別々に請求される点を事前に伝えることが、トラブル防止につながります。
乳幼児医療証が使える自治体では、実質的に自己負担がゼロとなるケースが多いです。ただし、所得制限が設けられている自治体も存在するため、受診前の確認を保護者に促しましょう。
参考:子ども医療費助成制度の制度概要は各自治体の担当窓口へ。高額療養費制度については以下が参考になります。
デュピクセントは長期継続が前提の治療です。医療従事者として押さえておくべき、見落とされがちな重要ポイントがあります。それが高額療養費制度の「多数回該当」です。
直近12ヶ月以内に3回以上、高額療養費制度の適用を受けた場合、4回目以降は自己負担上限額がさらに引き下げられます。例えば年収約370万〜770万円(区分ウ)の方であれば、通常の上限額は約80,100円ですが、多数回該当が適用されると44,400円まで下がります。これは大きいですね。
さらに、同一の健康保険に加入している同一世帯の家族の医療費は「世帯合算」として申請できます。ただし、69歳以下の方は各医療機関ごとに21,000円以上の自己負担が生じた場合のみ合算対象となる点に注意が必要です。
| 所得区分(69歳以下) | 年収目安 | 通常上限額 | 多数回該当後の上限額 |
|---|---|---|---|
| 区分ア | 約1,160万円〜 | 252,600円+α | 140,100円 |
| 区分イ | 約770〜1,160万円 | 167,400円+α | 93,000円 |
| 区分ウ | 約370〜770万円 | 80,100円+α | 44,400円 |
| 区分エ | 〜約370万円 | 57,600円 | 44,400円 |
| 区分オ(住民税非課税) | — | 35,400円 | 24,600円 |
長期治療を見越して、「限度額適用認定証」の事前申請を保護者に勧めることが重要です。これを窓口に提示することで、月の支払いを最初から自己負担上限額に抑えることができます。申請は加入している健康保険の窓口(協会けんぽ・健康保険組合・市区町村国保など)に行います。マイナ保険証を利用している場合は、原則として自動で上限額が適用されます。
参考:サノフィ株式会社 デュピクセント 医療費助成制度のご案内
デュピクセント公式「医療費助成制度について」(サノフィ株式会社)
臨床現場での説明漏れが患者家族の不満や中断につながりやすいポイントを整理します。一読して確認に活用してください。
まず、病院と薬局の支払いは自動で合算されないという点です。高額療養費制度では、同月内の病院と薬局の支払いをまとめて申請することが可能ですが、窓口の段階では自動合算されません。後日、保険者への申請が必要です。限度額適用認定証を使用している場合でも、病院・薬局それぞれで個別に上限額が適用されるため、両方に提示が必要です。注意が必要なポイントです。
次に、乳幼児医療証の助成対象年齢に達した後の急激な負担増への備えです。多くの自治体では中学校卒業(15歳年度末)、自治体によっては18歳年度末まで助成が受けられますが、それ以降は一般の成人と同様の自己負担になります。デュピクセントを継続中の患者については、年齢が節目を迎える前に高額療養費制度への移行を説明しておくことが望まれます。
また、会社の健康保険組合の「付加給付制度」の見落としも多いです。国の高額療養費制度よりもさらに低い自己負担上限額(たとえば月25,000円など)を設定している健康保険組合は少なくありません。患者・保護者に「ご加入の健康保険組合に付加給付制度の有無を確認してください」と一言添えるだけで、年間数万円単位の節約になる可能性があります。これも使えそうです。
さらに、自己注射への移行タイミングと処方本数の関係も重要です。院内注射のみの場合は1回ごとに処方されますが、在宅自己注射に移行すると最長3ヶ月分(例:300mgペン×6本)をまとめて処方できるクリニックもあります。まとめ処方にすると、月単位での高額療養費制度の合算申請に有利になる場合があり、実質的な自己負担を抑えられる可能性があります。ただし処方量の調整は医師の判断によります。
参考:サノフィ株式会社が運営するデュピクセント専用相談窓口(患者・家族向け)
デュピクセント公式「医療費助成と薬剤費に関するご案内」(デュピクセント相談室 0120-50-4970)