チオシアン酸塩による急性毒性は、経口摂取後比較的短時間で症状が現れることが特徴です。チオシアン酸ナトリウムのLD50値は764 mg/kg(ラット経口)とされており、人体においても同様の毒性を示すことが予想されます。
参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/540-72-7.html
主な急性毒性症状として以下が報告されています。
参考)https://direct.hpc-j.co.jp/sds/jpn/B9-11.pdf
実際の症例では、54歳男性がチオシアン酸塩を含む除草剤にばく露し、ミオクローヌス発作と血管虚脱を伴う昏睡状態となり、代謝性アシドーシスや心停止を起こして死亡した事例が報告されています。
チオシアン酸塩の最も重要な健康影響は甲状腺機能への影響です。チオシアン酸塩は甲状腺におけるヨウ素の取り込みを阻害することで甲状腺毒性を示すことが知られています。
参考)http://www.showa-chem.com/MSDS/16497250.pdf
甲状腺への影響メカニズム。
シアン化物の主要代謝物でもあるチオシアン酸塩は、シアン化物の職業ばく露により甲状腺機能障害および甲状腺腫が報告されています。長期または反復ばく露による甲状腺の障害は区分1として分類されています。
職業ばく露による影響。
動物実験において、チオシアン酸塩の長期ばく露により肝臓および生殖器への影響が確認されています。マウスとラットを用いた慢性毒性試験では、区分2の範囲で複数の臓器に変化が認められました。
参考)https://www.biodynamics.co.jp/wp/wp-content/uploads/2023/04/sds_DS640_DS650.pdf
肝機能への影響。
生殖器への影響。
これらの影響は、チオシアン酸塩の特定標的臓器毒性(反復ばく露)として区分2(肝臓、生殖器(女性))に分類されています。
チオシアン酸塩は多様な工業用途があるため、職業ばく露のリスクが高い化学物質です。主な使用用途と関連するばく露リスクについて理解することが重要です。
主な工業用途。
職業ばく露防止対策。
保管・取扱い上の注意。
参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/333-20-0.html
チオシアン酸塩中毒の診断と治療には、迅速な対応と適切な症状管理が不可欠です。現在のところ特異的な解毒剤は存在しないため、支持療法が中心となります。
診断のポイント。
治療戦略。
応急処置。
安全管理体制。
チオシアン酸塩は産業界で広く使用される化学物質であり、その毒性を正しく理解し、適切な安全管理体制を構築することが医療従事者および産業衛生管理者にとって重要な課題です。特に甲状腺機能への長期的な影響については、継続的な健康監視が必要であり、早期発見・早期治療により重篤な健康障害を予防することが可能です。