令和4年2月1日に施行された毒物及び劇物指定令の一部改正により、[(2-カルボキシラトフエニル)チオ](エチル)水銀ナトリウム(別名:チメロサール)0.1%以下を含有する製剤が毒物から劇物に変更されました。
参考)https://www.funakoshi.co.jp/contents/81616
この法改正の背景には、事業者から提出された0.1%製剤の毒性データの検証結果があります。厚生労働省の毒物劇物部会において、0.1%以下を含有する製剤については劇物相当の毒性レベルであることが確認され、毒物からの除外と劇物指定が適当であると判断されました。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000839410.pdf
医療現場で広く使用されているチメロサールは、主に殺菌消毒剤として活用されており、特にワクチンの防腐剤として重要な役割を果たしています。濃度による毒劇物の分類変更は、科学的根拠に基づく適切なリスク評価の結果といえます。
主な変更点。
医療従事者にとって重要なのは、法改正後も保管管理の厳格さに変更がないことです。劇物に変更されたチメロサール含有製剤も、従来の毒物と同様に鍵のかかる保管庫での管理が義務付けられています。
参考)https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/question/039815.html
保管管理の具体的要件。
医療機関では、チメロサール含有製品の在庫管理において、製品ラベルと法的分類の相違に注意が必要です。経過措置期間中は、毒物ラベルが貼付された製品が劇物として扱われる場合があるため、購入時期と法的分類の確認が重要となります。
また、医療従事者は0.01%チメロサールを含有するHRP-Conjugateなどの研究用試薬についても、劇物として適切な取り扱いを行う必要があります。防腐剤として低濃度で含有されていても、劇物指定の対象となることを理解しておくことが重要です。
チメロサールは有機水銀化合物として特有の毒性プロファイルを持っています。エチル水銀チオサリチル酸ナトリウム塩という化学名が示すように、水銀原子がエチル基とチオサリチル酸基に結合した構造を有しています。
参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds_label/lab54-64-8.html
主な毒性影響。
WHO(世界保健機関)は、チメロサールの安全性について継続的な評価を行っており、ワクチン中の使用については適切な濃度での使用は安全であるとの見解を示しています。しかし、医療従事者は取り扱い時の曝露を最小限に抑える注意が必要です。
水銀化合物としての蓄積性も重要な考慮点です。体内に取り込まれたエチル水銀は、無機水銀に代謝され、主に腎臓に蓄積する傾向があります。そのため、長期にわたる反復曝露による慢性毒性への注意が必要です。
医療現場では、チメロサール含有製品を使用する際は、適切な個人防護具の着用と、皮膚接触や吸入を避ける対策を徹底することが求められます。
チメロサールは、その優れた殺菌作用により医療現場で多様な用途に活用されています。特に、真菌、細菌、ウイルスに対する広域スペクトラムの抗菌効果を持つことから、ワクチンや生物学的製剤の防腐剤として重要な役割を果たしています。
医療現場での主な用途。
近年の研究では、チメロサールの抗菌メカニズムが詳細に解明されています。水銀イオンが細菌のスルフヒドリル基と結合することで、酵素活性を阻害し細胞膜の透過性を変化させることが主要な作用機序です。
医療従事者が知っておくべき重要な点は、チメロサールに対するアレルギー反応の可能性です。皮膚感作性があるため、接触皮膚炎を引き起こす可能性があり、特に反復接触により感作が成立する場合があります。
また、チメロサール含有ワクチンの使用においては、患者への適切な説明と同意取得が重要です。水銀含有への不安を持つ患者に対しては、科学的根拠に基づいた説明により適切な理解を促進することが医療従事者の責務といえます。
医療機関におけるチメロサールの適切な管理体制構築は、法令遵守の観点から極めて重要です。毒物及び劇物取締法に基づく管理要件を満たすため、組織的な取り組みが必要となります。
安全管理体制の要素。
法令遵守において特に注意すべきは、チメロサール含有製品の購入から廃棄に至る全工程での記録管理です。購入量、使用量、在庫量、廃棄量の詳細な記録保持は、監督官庁による査察時の重要な確認事項となります。
また、医療機関では異なる濃度のチメロサール含有製品を使用する場合があるため、製品ごとの毒劇物分類を正確に把握し、適切な管理区分で保管する必要があります。0.1%以下と0.1%超の製品では法的分類が異なるため、混同を避ける表示管理が重要です。
緊急時対応計画も重要な管理要素です。チメロサールの誤飲や皮膚接触事故が発生した場合の対応手順、解毒処置、医療機関への連絡体制を事前に整備しておくことで、被害の最小化を図ることができます。
廃棄処理についても、水銀化合物として適切な産業廃棄物処理業者への委託が必要であり、廃棄記録の保存と追跡可能性の確保が求められます。