アミロイドPET保険適応とドナネマブの正しい算定と運用

アミロイドPET保険適応とドナネマブ(ケサンラ®)の算定ルール・施設要件・治療フローを医療従事者向けに解説。レセプト記載事項や算定回数の上限など、知らないと請求漏れや返戻につながる実務ポイントを押さえていますか?

アミロイドPETの保険適応とドナネマブを正しく運用するための実務ガイド

ドナネマブを処方しても、アミロイドPETの算定回数を1回と思い込むと請求漏れが起きます。


🗝️ この記事の3つのポイント
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アミロイドPETは最大3回まで保険算定できる

投与開始前の1回だけでなく、治療終了判定(12か月目安)・18か月超の投与継続判断時にも、それぞれ1回ずつ算定可能。算定漏れに注意が必要です。

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レセプト摘要欄への記載は厳格に定められている

投与開始時・6か月以降・継続投与ごとに記載すべき項目が異なり、施設要件・医師要件・検査日まで摘要欄に明記が必要。記載漏れは返戻の原因になります。

⚠️
投与施設の8つの施設要件を満たさないと算定不可

1.5T以上のMRI、常勤専門医の複数名配置、認知症疾患医療センターとの連携など8項目の要件をすべて満たす施設でなければ、保険適用下での初回投与が認められません。


アミロイドPET保険適応の背景とドナネマブ収載の経緯

アルツハイマー病(AD)の疾患修飾薬(DMT)として、2023年12月にレカネマブ(レケンビ®)が保険収載されたのを皮切りに、脳アミロイドPET検査も治療薬の投与要否判断を目的として保険適用が認められました。これが国内における「アミロイドPETの保険適応」の始まりです。


続いて2024年9月にドナネマブ(ケサンラ®点滴静注)が薬事承認を取得し、同年11月13日の中央社会保険医療協議会(中医協)でケサンラ点滴静注液350mg(1瓶66,948円)の薬価収載が承認されました。2024年11月20日より保険適用がスタートしています。これが2例目の国内保険収載DMTとなります。


この保険収載に合わせ、厚生労働省は2024年11月19日に通知「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について等の一部改正について」を発出し、アミロイドPET検査の算定ルールをレカネマブ対象のルールからより広い枠組みへ見直しました。つまり現在のルールは「アルツハイマー病による軽度認知障害および軽度の認知症の進行抑制を有する医薬品」全般を対象としており、今後新たな類似薬が登場した場合にも適用できる設計になっています。


ドナネマブはイーライリリー社が開発したモノクローナル抗体製剤で、老人斑のみに存在するN3pGAβに作用し、アミロイドβプラークを除去するという、レカネマブとは異なる標的分子を持つ点が特徴的です。つまり同じ「抗Aβ抗体薬」でも、結合するアミロイドβの分子種が異なります。


大規模第3相試験(TRAILBLAZER-ALZ 2)では、タウ蓄積が中等度以下の患者層においてドナネマブ投与群はプラセボ群と比べて認知機能低下を最大35.1%抑制し、症状悪化を4.4〜7.5か月遅らせることが示されています。これが承認の科学的根拠となっています。


GemMed|新たな認知症治療薬「ケサンラ」の保険適用とアミロイドPET算定ルール整理(厚労省通知解説)


アミロイドPETの保険算定ルール:ドナネマブで何回算定できるか

医療従事者が最も注意すべき実務上のポイントが「アミロイドPETを何回まで保険請求できるか」という点です。結論から言えば、ドナネマブ(ケサンラ®)の1サイクルにおいて、アミロイドPET検査は最大で計3回まで算定できる可能性があります。


保険算定のルールは次の通りです。


タイミング 目的 算定可否
投与開始前(初回) アミロイドβ病理の確認(投与要否判断) ✅ 1回算定可
投与開始後12か月目安 アミロイドβプラーク除去の確認(投与終了判定) ✅ 1回算定可
18か月超の投与継続判断時 投与継続の可否を検討する場合 ✅ さらに1回算定可
18か月超後に投与中止し、再開する場合(初回投与から18か月超) 再開要否の確認 ✅ さらに1回算定可


「投与前に1回しか算定できない」という思い込みはNGです。


特にドナネマブは治療設計上、「12か月時点でアミロイドβプラークの除去が確認できれば18回を待たずに治療終了できる」というユニークな仕様があります。この治療終了判定のために実施するアミロイドPET検査は、別途保険算定が認められています。診療報酬点数はPET/CTの場合、放射性医薬品合成設備を用いた場合が13,625点、それ以外が3,725点(E101-3「4 アミロイドPETイメージング剤を用いた場合」)です。


算定上、注意すべき点は使用できるイメージング剤の種類です。投与開始前の「投与要否判断」に使えるのは「薬事承認を得ているアミロイドPETイメージング剤(アミヴィッド®、ビザミル®など)」ですが、治療後の「プラーク除去確認」に使えるのは「抗アミロイドβ抗体薬投与後の脳内アミロイドβプラークの可視化に用いるものとして薬事承認を得ているアミロイドPETイメージング剤」に限定されます。また、アミロイドPETイメージング剤の注入に係る費用は所定点数に含まれ、別途算定はできません。


厚生労働省|ケサンラ点滴静注液保険適用上の留意事項(レセプト摘要欄への記載事項一覧)


ドナネマブ保険請求で必須のレセプト摘要欄記載事項

ドナネマブ(ケサンラ®)の保険請求では、レセプトの摘要欄への記載内容が非常に細かく定められています。記載漏れは返戻・査定の直接的な原因になるため、投与フェーズごとに確認が必要です。


🖊️ 投与開始時に必要な記載事項(主なもの)


- 患者要件:治療意思の確認(患者本人・家族・介護者)、禁忌非該当の確認、MRI実施可能であること
- 認知機能評価:MMSEスコアおよびCDR全般スコアと実施年月日
- 診断に用いた検査の種別と実施年月日・施設名(アミロイドPETまたはCSF検査)
- 医師要件の該当区分(神経学会、老年医学会、精神神経学会、脳神経外科学会のいずれか)
- 初期研修後10年以上の専門医療経験を有すること
- ARIAのMRI読影研修の受講済みであること
- 日本認知症学会・日本老年精神医学会の研修受講済みであること
- 施設要件の該当区分(8項目すべてを満たすか否か)


「施設要件をすべて満たす」と記載する場合(施設要件ア)と、「すべては満たしていない」と記載する場合(施設要件イ)で、算定の可否が実質的に分かれます。


🔄 投与開始6か月以降


継続投与施設が変わる場合(連携施設での継続)は、連携施設名と所在地の記載が必要です。これはドナネマブ(ケサンラ®)の大きな特徴の一つで、初回投与から6か月経過後は要件を満たす連携施設でも継続投与が認められています。つまり、最初の6か月を大病院で行い、その後は地域のクリニックで継続するという分担が可能です。これを把握していない施設では、受け入れのチャンスを逃す可能性があります。


📅 継続投与ごとに毎回必要な記載


初回投与から何週目の投与であるかを記載する必要があります。また、CDR全般スコア推移・MMSEスコア推移・患者や家族から自他覚症状を聴取した臨床症状評価の直近年月日も必要です。さらにMRI検査を受けた直近年月日の記載も求められます。これら3つは毎回の継続投与請求の都度、記録の更新と摘要への記載が求められます。


記載事項が多いのが実情です。電子カルテのテンプレートに組み込むなど、チームで運用ルールを標準化することが、返戻ゼロを実現するための近道です。


ドナネマブ投与の施設要件と医師要件:8項目チェックリスト

ドナネマブ(ケサンラ®)の初回投与が認められるのは、最適使用推進ガイドラインに定められた8つの施設要件をすべて満たす医療機関だけです。これは厳しい施設縛りと感じる担当者も多い現状です。


🏥 施設要件8項目(初回投与施設)


| No. | 要件 |
|-----|------|
| Ⅰ | 1.5Tesla以上のMRIが自施設で実施可能、かつARIA発現時に施設内で対応できる体制が整っていること |
| Ⅱ | MMSEスコアおよびCDR全般スコアを実施可能な者が配置されていること |
| Ⅲ | 同一施設内または連携施設でPET検査かCSF検査が実施可能なこと |
| Ⅳ | 医師要件を満たす常勤医が複数名配置されていること |
| Ⅴ | CDR全般スコア評価に精通し、一定以上の評価経験を有する医療従事者がいること |
| Ⅵ | ARIAリスク管理の知識を有し、MRI読影研修を受講した常勤医が1名以上いること |
| Ⅶ | 認知症疾患医療センター、または連携がとれる施設であること |
| Ⅷ | 製造販売業者の全例調査を確実に実施できること |


Ⅰの「1.5T以上MRI・施設内対応」が最大のハードルと感じる施設が多い点は要注意です。


医師要件については、日本神経学会・日本老年医学会・日本精神神経学会・日本脳神経外科学会のいずれかの専門医資格に加えて、初期研修後10年以上の認知症専門医療の経験が求められます。さらに製造販売業者が提供するARIA関連MRI読影研修の受講と、日本認知症学会または日本老年精神医学会の実施する合同研修の受講も必須となっています。2026年1月時点の情報では、この合同研修はドナネマブのOUG(最適使用推進ガイドライン)に対応した改訂版が運用されています。


研修の受講証明や専門医証明は、レセプト記載の根拠となります。研修受講の記録管理を徹底しておく必要があります。


6か月以降の連携施設での継続投与については、要件が緩和されています。連携施設では「全例調査実施可能」「治療責任医師の医師要件充足」「医薬品情報管理体制」「副作用への即時対応体制」の4項目を満たせば継続投与が可能です。地域のクリニックがこの連携施設として機能できれば、患者の通院負担を大幅に軽減できます。


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ドナネマブとレカネマブの実務上の違い:アミロイドPETの使い方を比較

同じ抗Aβ抗体薬であるドナネマブ(ケサンラ®)とレカネマブ(レケンビ®)は、保険請求や治療運用の観点から見ると複数の重要な差異があります。どちらを選ぶかの判断はあくまで患者の状態によりますが、実務担当者として違いを把握しておくことは必須です。


項目 ドナネマブ(ケサンラ®) レカネマブ(レケンビ®)
投与頻度 月1回 2週間に1回
投与量 体重によらず固定(初回3回700mg、以降1400mg) 体重1kgあたり10mg
治療期間の上限 最大18か月(12か月目安でアミロイド陰性なら早期終了可) 原則18か月
アミロイドPETの役割 開始前・12か月後の終了判定・18か月超の継続判断に使用 開始前・18か月超の継続判断に使用
薬価(参考) 66,948円/350mg 20mL1瓶 45,777円/200mg、114,443円/500mg
保険収載日 2024年11月20日 2023年12月20日


ドナネマブの最大の特長は「12か月目安でアミロイドβプラーク陰性化が確認できれば投与を終了できる」という治療終了設計にあります。これはレカネマブにはない概念です。TRAILBLAZER-ALZ 2試験では、12か月時点で約半数の患者がアミロイドβ陰性化に達したと報告されており、全員が18か月投与するわけではないのがドナネマブの実際の運用です。


この早期終了が成立すると、患者の治療コストを大きく抑えられる可能性があります。3割負担の場合、1回あたり約4〜5万円の自己負担が生じるため、6回程度早く終了できれば患者の自己負担は24〜30万円ほど削減できる計算です。


一方、月1回投与のドナネマブと2週に1回のレカネマブでは、外来の投与枠のスケジュール管理や看護師の業務量にも影響が出ます。「月1回の方が管理しやすい」と感じる施設も少なくありません。これは運用上の選択基準になりえる視点です。


投与量が体重依存でないことも、ドナネマブの実務上の利点といえます。点滴調整時に体重に応じた計算が不要で、調剤ミスのリスクを一定程度低減できます。


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【独自視点】ドナネマブのアミロイドPET陰性化後の再蓄積と長期フォローアップ

多くの解説記事が保険算定や治療フローの説明で終わっていますが、医療従事者が中長期的な視点で知っておくべき重要な事実があります。それは「ドナネマブ投与終了後、アミロイドβは再蓄積する」という点です。


研究データによると、ドナネマブ終了後のアミロイドβ再蓄積速度は約2.8 Centiloid/年と推定されています。陰性化から数年以上は治療効果が保たれると考えられていますが、永続的に陰性を維持できるわけではありません。


これが意味することは2つです。まず、治療を終了したからといって患者を完全に「卒業」させてはいけないということです。定期的な認知機能評価や、必要に応じたフォローアップのプロトコルを施設として整備しておく必要があります。次に、もし再蓄積が顕著になり、かつ患者が軽度認知障害〜軽度認知症の範囲に留まっている場合、再投与を検討する可能性が将来的に出てくるかもしれないということです。現在の保険算定ルールでも「初回投与から18か月を超えて再開する場合は、さらに1回に限りアミロイドPETを算定できる」という条文が設けられており、制度上も再投与シナリオを想定していることが読み取れます。


投与終了後のフォロー体制については、まだ国内での実績が少なく、どの施設も試行錯誤の段階です。現時点では以下のような観察項目を定期フォローの軸とする考え方が一般的に示されています。


- 6か月〜1年ごとのMMSE・CDR評価の継続
- 認知機能低下の加速がみられた場合の再精査
- 必要に応じてタウPETや脳MRIの実施


アミロイドβ陰性化後の再蓄積速度は個人差も大きく、APOE4遺伝子型(ホモ接合体)では再蓄積がより速い可能性も指摘されています。フォロー間隔の個別化が今後の課題です。


また、現時点ではAPOE遺伝子型検査は国内で保険未収載です。ARIAリスク管理の観点から臨床的に重要な情報ですが、保険外で実施するかどうかはインフォームドコンセントを含む施設のポリシー決定が必要な領域です。この点も、患者・家族への説明内容を整備する上で見落としやすいポイントです。


けんぽれん健保ニュース|ケサンラ点滴静注液の保険適用:薬価・費用の公式情報(2024年11月号)