医療従事者の皆さんが日常的に接する情報システムやケア環境を考える際、アクセシビリティとユーザビリティの違いを理解することは極めて重要です。これらの概念は似ているようで、実は明確な違いがあります。
アクセシビリティとは、障がいの有無や年齢、技術的スキルに関係なく、すべての人が情報にアクセスし、サービスを利用できる状態を指します。一方、ユーザビリティは、特定のユーザーが特定の状況下で、効率的かつ満足度高く目標を達成できる「使いやすさ」を表す概念です。
参考)https://www.geo-code.co.jp/seo/mag/what-is-the-difference-between-accessibility-and-usability/
両者の根本的な違いは対象範囲にあります。アクセシビリティは「全てのユーザー」を対象とし、ユーザビリティは「特定のユーザー」を対象とします。医療現場で例えると、電子カルテシステムにおいて、視覚障がいのある医療従事者でもスクリーンリーダーで操作できる仕様がアクセシビリティ、日勤の看護師が効率よく記録できる画面設計がユーザビリティに相当します。
参考)https://gmotech.jp/semlabo/webmarketing/blog/words_userbility/
アクセシビリティは「そもそもユーザーが使えるかどうか」という基本的な利用可能性を問います。医療におけるアクセシビリティとは、すべての人がその個別のニーズや環境にかかわらず、医療サービスを公平かつ効果的に利用できることを指します。
参考)https://weba11y.jp/basics/accessibility/usability/
医療現場でのアクセシビリティには以下の側面があります。
興味深いことに、KOOS(膝損傷変形性関節症アウトカムスコア)は45か国語以上に翻訳されており、世界的なアクセシビリティを備えています。このように、医療評価ツールにおいても言語の壁を取り除くアクセシビリティの配慮が重要視されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/nishiseisai/69/4/69_725/_article/-char/ja/
JIS Z 8521:1999では、ユーザビリティを「ある製品が、指定された利用者によって、指定された利用の状況下で、指定された目的を達成するために用いられる際の、有効さ、効率及び利用者の満足度の度合い」と定義しています。
医療機器におけるユーザビリティは、患者の安全と医療の質を確保する上で極めて重要な要素です。医療機器のユーザビリティには以下の目的があります:
参考)https://yakuji-navi.com/blogs/usability
Jakob Nielsen博士が提唱するユーザビリティの5つの構成要素は医療現場でも重要です:
アクセシビリティとユーザビリティは対立する概念ではなく、むしろ相互補完的な関係にあります。アクセシビリティが土台となり、その上にユーザビリティが構築されると考えるのが適切です。
アクセシビリティの向上がユーザビリティ向上につながる具体例。
医療現場では、電子カルテシステムのアクセシビリティ向上により、視覚障がいのある医療従事者だけでなく、疲労時や暗い環境での作業においても全スタッフの操作性が向上します。
WCAGワーキンググループでは、障がいのあるユーザーだけに特有の問題をアクセシビリティ、健常者にも共通する問題をユーザビリティとして区別していますが、実際の医療現場では両者を統合的に考えることが重要です。
現代の医療現場では、デジタル技術を活用したアクセシビリティ向上が注目されています。患者さんの日常生活をよりよくし、QOL改善のためのアクセシビリティが重要視されています。
参考)https://expertnurse.jp/articles/id=19478
医療現場での具体的な改善事例。
メドレー社の取り組みでは、2025年から国民の5人に1人が後期高齢者の超高齢化社会を迎えることを見据え、医療介護従事者の人材不足解消に向けたアクセシビリティ向上に取り組んでいます。
参考)https://note.com/medley/n/ncf100214f838
実践的な改善ポイント。
医療現場におけるアクセシビリティ向上は、単なる利便性の向上を超えて、患者安全に直接的な影響を与える重要な要素です。この視点は従来の議論では十分に論じられていない独自の観点といえます。
患者安全への直接的影響。
アクセシビリティの不備が引き起こす医療事故のリスクは深刻です。例えば、処方薬の説明書が高齢患者にとって読みにくいフォントサイズの場合、服薬ミスが発生する可能性が高まります。また、医療機器の操作パネルが色覚異常のある医療従事者に配慮されていない場合、緊急時の対応に遅れが生じる危険性があります。
インクルーシブデザインの医療応用。
最新の研究では、アクセシビリティを初期段階から組み込んだインクルーシブデザインが、結果的に全ユーザーにとって安全で使いやすいシステムを実現することが示されています。医療機器のユーザビリティエンジニアリングプロセスにおいて、多様なユーザー特性を考慮した設計が義務化されつつあります。
参考)https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/about-reviews/devices/0050.html
認知負荷軽減による医療ミス防止。
アクセシビリティの配慮により情報の認知負荷が軽減されると、医療従事者の判断能力が向上し、医療ミスの防止につながります。特に夜勤時や長時間勤務時において、アクセシブルなインターフェースは疲労による判断力低下を補完する重要な役割を果たします。
医療におけるアクセシビリティとユーザビリティの理解と実践は、単なる技術的配慮を超えて、患者中心の医療提供体制構築の基盤となる重要な概念です。医療従事者一人ひとりがこれらの違いを理解し、日常業務に活かすことで、より安全で質の高い医療サービスの提供が可能になります。