アコニチン(aconitine)は、トリカブト(Aconitum属植物)から抽出されるC19-ジテルペンアルカロイドで、極めて強力な神経毒性を示します。この化合物は、電位依存性ナトリウムイオンチャネル(TTX感受性ナトリウムチャネル)のαサブユニットに特異的に結合し、チャネルの不活性化を阻害することで持続的な脱分極を引き起こします。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10174313/
アコニチンの毒性は非常に強く、マウスにおける皮下注射でのLD₅₀値は0.308mg/kgと報告されており、ヒトでは2-5mgで致死的となります。この毒性は、ナトリウムイオンの持続的な細胞内流入により、神経や心筋の異常興奮状態が維持されることに起因します。
参考)http://www.frc.a.u-tokyo.ac.jp/wp-content/uploads/2019/03/431e7d05da28003a9a1e60074310bd2b.pdf
アコニチンの薬理学的特徴:
テトロドトキシン(TTX)は、フグをはじめとする海洋生物が産生する神経毒で、アコニチンとは全く逆の作用機序を持ちます。TTXは電位依存性ナトリウムチャネルの細胞外側に結合し、ナトリウムイオンの通過を完全に遮断することで神経伝導を阻害します。
参考)https://www.hitohaku.jp/publication/book/kyousei18-p067.pdf
フグ中毒におけるヒト経口最小致死量は10μg/kgとされており、アコニチンよりもはるかに少量で致死的となります。TTXの作用により神経伝導が遮断されると、運動麻痺から始まり、最終的には呼吸筋麻痺により呼吸停止に至ります。
参考)http://www.doyaku.or.jp/guidance/data/62.pdf
テトロドトキシンの生物学的効果:
アコニチン中毒では、ナトリウムチャネルの持続的活性化により、特徴的な興奮性症状が現れます。初期症状として口唇や皮膚の灼熱感、流涎が見られ、これに続いて嘔吐、歩行困難が出現します。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%B3%E3%83%8B%E3%83%81%E3%83%B3
重篤な症例では、痙攣、呼吸困難、心臓発作が生じ、不整脈状態が持続することで心原性ショックに至る可能性があります。アコニチンは現在も生薬成分として限定的に使用されているため、漢方薬の服用歴の確認が診断において重要です。
診断における重要なポイント:
テトロドトキシン中毒は、段階的な麻痺の進行が特徴的です。症状は口唇および舌端のしびれから始まり、嘔吐を経て運動麻痺へと進行し、最終的に呼吸麻痺により死亡に至ります。
参考)https://h-crisis.niph.go.jp/archives/83481/
TTX中毒の管理では、呼吸管理が最優先となります。意識は最後まで保たれることが多いため、患者の苦痛を軽減しながら適切な人工呼吸管理を継続することが重要です。解毒剤は存在しないため、対症療法が治療の中心となります。
臨床管理の要点:
アコニチンとテトロドトキシンを同時に摂取した場合、両者の相反するナトリウムチャネル作用により拮抗効果が生じることが知られています。アコニチンはナトリウムチャネルを活性化させ、TTXはこれを阻害するため、相互の毒性が一時的に緩和されます。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%83%96%E3%83%88%E4%BF%9D%E9%99%BA%E9%87%91%E6%AE%BA%E4%BA%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6
しかし、この拮抗作用には重要な時間的要素があります。テトロドトキシンの半減期がアコニチンより短いため、TTXの効果が先に減弱し、その後アコニチンの毒性が再び現れることになります。この現象は、1986年のトリカブト保険金殺人事件で悪用され、アリバイ工作に利用された歴史があります。
参考)http://www.yamaguchi.med.or.jp/wp-content/uploads/2018/05/3005-13.pdf
拮抗作用の臨床的意義:
この拮抗メカニズムの理解は、混合中毒の診断において極めて重要であり、単一毒素による中毒とは異なる臨床経過をたどる可能性があることを医療従事者は認識しておく必要があります。
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